悪役令嬢

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12/4/2025, 10:00:05 PM

『秘密の手紙』

黒ヤギさんは、今日も朝からヘトヘトだった。

勤め先の〈ヤギの森郵便局〉は町でも有名なブラック企業で、賃金は安いのに配達量だけは山のよう。
配達用カバンはいつもパンパンで、
ジッパーは閉まり切らない状態。

疲労と空腹でふらつく視界の中、黒ヤギさんは
白ヤギさんから預かった一通の手紙を確認した。
白い封筒に、丸っこい文字で宛名が書かれている。

「メスのヤギさん宛てやな……。仲ええんやろか」

口の端からじゅるりと涎が溢れてきた。
ここ数時間、水しか飲んでいない。

(うまそうやなぁ)

理性が止めても、体が勝手に動いた。
ぱくり。

「……あ」

時すでに遅し。
気づいた頃には、封筒をもちもちと
噛んで飲み込んでしまっていたのだ。

「ぎゃー!なんで食べてもうたんやワイ!!」

口の中に残った紙の感触に絶望しながら、
配達路の真ん中で黒ヤギさんは頭を抱えた。

お客様の大事な手紙を食べたことが
知られたら即クビ確定。
このご時世、仕事を失ったら次はどこに行けば
いいのかすら分からない。

頭を振り絞って考えた末、ある結論に達した。

「せや!ワイが書けばええんや!」

白ヤギさんの筆跡を思い出す。
どんな内容だったかはわからない。
けれど、丸っこい文字で丁寧に……
とにかくそれっぽく書けばバレへんはず。

「えーっと……。
『こないだの草、めっちゃおいしかったで。
 今度は一緒に食べに行こな。
 もっと仲良うなりたいねん』……よし!」

思いつくまま書き殴ったものを読み返す。
正直かなり不安が残るがもう時間がない。
黒ヤギさんはそのまま手紙を封筒に入れて、
次の配達へ向かった。

――

後日。
黒ヤギさんは白ヤギさんから
新たな手紙を受け取った。
開封はもちろんしていないが、封筒のすみっこに
ハートマークまで描かれている。

「なんやご機嫌やな、白ヤギさん……?」

白ヤギさんは照れ臭そうに頬をかく。

「この前の手紙な、ものすごう喜ばれてん。
あっちは『こんな気持ちは初めて』言うてなぁ。
いやぁ、おれ、あんな文才あったん知らんかったわ」

遠くの丘をぼんやり眺めながら、うっとりした顔で
呟く白ヤギさん。そんな彼の様子に黒ヤギさんは
内心、心臓がばくばくだった。

「ほなまたよろしく頼むわ」

配達途中、黒ヤギさんは白ヤギさんから
受け取った手紙をじっと見つめた。

あの日と同じだ。
朝から何も食べていない。意識が朦朧としている。
そして、手紙が極上の草に見えてきている。

「……あかん」

黒ヤギさんは必死に己を制したが、
またしても勝てなかった。

ぱくり。

「あああーっ!またやってもうたーっ!」

そんなわけで二度目の手紙を書くことになった
黒ヤギさん。不思議なことに、黒ヤギさんが
書けば書くほど、二匹の仲は深まっていった。

(もうこうなったら書き続けるしかないやないか!)

黒ヤギさんは空を仰ぎ、深いため息をついた。

「次はどんな手紙書こうかなぁ……」

かくして郵便配達員兼恋のゴーストライターになった
黒ヤギさんは、今日もまたどこかで
秘密の手紙を書き続けるのであったとさ。

12/3/2025, 8:00:02 AM

『贈り物の中身』

雪が降り始めた十二月のある日、
孤児院の子どもたちは色とりどりの飾りを手に
ツリーを囲んでいた。

「エリオット、もっと上に星を飾らなきゃ!」

友人のトーマスが踏み台を押さえながら、エリオットに向かって叫ぶ。エリオットは器用に脚立をのぼり、金色の星をツリーの頂に飾りつけた。

「できた!」

子どもたちから歓声があがると、マーガレット院長が温かい笑顔で頷いてくれる。

「みんなよくできました。
さて、サンタさんへのお手紙はもう書いたかしら」

「書いた!」「わたしも!」

口々に答える子どもたち。
ボール、ブリキのおもちゃ、お人形、ふわふわのコート。だがエリオットは、彼の手紙には他の子とは違うことが書かれていた。

『ぼくに挑戦状をください』

彼が欲しかったのは、謎を解く喜び。
それだけだった。

-----

クリスマス当日。
朝の冷たい空気が張り詰める中、子どもたちは
一斉にホールへと駆け込んだ。
中央の、背の高いモミの木の下。そこには今年も、
夢にまで見た「贈り物」の山があった。

一人ひとりの名前が書かれた箱が並んでいる。おのおのが望んだものを手にして喜びの声をあげる中、
エリオットは自分の名前が書かれた箱を手に取った。

開けてみると——中は空っぽだ。

「エリオット、何が入ってたの?」

トーマスが覗き込もうとしたが、
エリオットはさりげなく箱を閉じる。

「うん、いいものだよ」

-----

その日からエリオットの探求が始まった。
空の箱には、きっと何か仕掛けがあるはずだ。

昼休み、夜、みんなが寝静まった後。
窓から差し込む細い月明かりを頼りに、
エリオットは箱を調べ続けた。

指の腹で外側を撫でたり、内側を覗いたり、
重さを測ったり、光にかざしてみたり。

指先の皮が薄くなりかけた頃、
彼はある違和感に気づいた。
箱の底が、わずかに厚い。

爪で慎重に縁をなぞると、かすかな隙間があって、
そこを押すと——カチリと小さな音がして、
底板が外れる。

隠された空間には、
一枚の羊皮紙が入っていた。

『よくできました』

次の瞬間、背後から拍手の音が鳴り響いた。
エリオットは飛び上がり、
箱を抱きしめたまま勢いよく振り返る。

そこに立っていたのは、
月明かりを背負った、背の高い美しい男性。

「おめでとう。箱の仕掛けを解いたんだね」
「ラファエルさん……?」

エリオットは男性に見覚えがあった。
この孤児院の最大の後援者。時折訪れては院長と
話し、子供たちに気前よくお菓子を配り、
一緒に遊んでくれることもある、優しい人。

「サンタの正体は……あなただったんですか?」

「ああ」ラファエルは優雅に頷いた。

「実はね、みんなのプレゼントの箱にも、同じ仕掛け
を施していたんだ。でも、彼らは気づかなかった。
中身に夢中になって、それで満足してしまった」

彼はゆっくりとエリオットに近づき、
視線を合わせるように屈んだ。

「でも君は違う。君は空っぽの箱を見た瞬間、そこに『挑戦状』の答えがあることを知っていた」

ラファエルの瞳が、
月明かりを反射してナイフのように光る。

「僕は君みたいな子を探していたんだ」

彼の言葉には、奇妙な熱がこもっていた。
温厚な笑顔、心地よい声。なのに、エリオットの背筋には言いようのない冷たいものが走った。

-----

それから一週間後、エリオットはラファエルの屋敷に引き取られることになった。

「エリオット、向こうでも元気でね」
「たまには顔を見せに来いよ!」

院長先生や友だちが、
ホールの前でエリオットを見送ってくれる。
みんなが祝福してくれた。身寄りのない孤児が
裕福で優しい方の家に貰われるなんて、
これ以上ない幸運なことだから。

「みんなに別れの挨拶を」

ラファエルがエリオットの肩を抱くと、
彼は小さな声で「ありがとう、さようなら」と
告げた。

黒塗りの馬車が彼らを乗せて走り出す。
窓から見える孤児院が、慣れ親しんだ建物の屋根が、
どんどん小さくなっていく。

「さあ、これから君の新しい人生が始まるよ、
エリオット」

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それから、エリオットが孤児院に姿を
見せることは、二度となかったという。

マーガレット院長は時々、あの聡明な少年を
思い出した。手紙も来ない。訪ねても屋敷の門は
閉ざされている。

ただ一つわかっているのは、
毎年クリスマスに、孤児院にはプレゼントと
多額の寄付金が届くということだけ。

差出人の名は、ラファエル・アシュフォード。

添えられたカードには、
美しい筆跡でこう書かれていた。

『エリオットは元気です。彼は私のもとで、
とても幸せに暮らしています』

11/18/2025, 10:00:02 PM

『記憶のランタン』

今日も仕事が始まる。
私は白衣に袖を通し、診察椅子に腰を下ろした。

白に統一された診療室に入ってきたのは、
二十代の女性。痩せ細った身体、目の下には濃い隈、
手首にうっすらと浮かぶ自傷の痕。

彼女は身内から暴行を受けたのだという。
あの日の記憶が蘇るたびに、
パニックに襲われ、眠れないのだと。

話している最中にも、彼女の呼吸はだんだんと浅く、
速くなっていく。過呼吸を起こしかけている彼女の
不安を鎮めるため、私は無理に思い出さなくてもいいと、努めて穏やかに語りかけた。

ここを訪れる者たちは、みな傷を抱えた者たちだ。
目には見えない、心の内側に深く刻みつけられた傷を――。

戦場の記憶から逃れられず、家族には離縁を
言い渡され、家にも社会にも居場所を失った元兵士。

親からの「躾」によって歪んだ価値観を刷り込まれ、抑圧された欲望を解放するため他者を傷つけ、
いまは鉄柵の向こうにいる者。

老いてもなお、子ども時代に植え付けられた
トラウマの中を歩き続けている者。

認知療法、曝露療法、あらゆる薬物治療――何を試しても、彼らの症状が改善されることはなかった。

「……わたし、もう治らないのでしょうか。
前みたいに、普通に生きられないんですか」

私の言葉から一縷の望みを見出そうとする彼女の
揺れる瞳を見つめながら、私はある提案をした。

-----

夜空に浮かぶ、無数の光。

今宵は記憶の灯火祭り。
ランタンに込められるものは、
弔いでも祈りでもない。
人々の記憶――それも、手放したい負の記憶だ。

光に魅了されるように立ち尽くしていると、
背後から声をかけられた。
私の患者である、あの女性だ。

「先生、わたし、ここに来てよかったです。胸のつかえが取れたというか……なんだかスッキリしました」

彼女は診察室で見せた陰りを脱ぎ捨て、
晴れやかな表情を浮かべていた。

彼女の背が人混みに紛れてゆくのを
見送りながら、私は思う。

彼女が回復してよかった、と。そして同時に――
ひどく、もったいないことをした、とも。

過去の傷や痛みこそが、
人を美しくするというのに。

その時だ。人々に紛れて光を見つめる
とある人物に、私の目は釘付けになった。

見間違えるはずがない。

私の恋人が、ここに来ていた。

気づかれぬよう、ゆっくりと近づく。
そして背中に腕を回した瞬間、
彼の身体がびくりと震え、強ばった。
驚かせてしまっただろうか。

「ここにいたんだ」

感極まって思わず声が上擦ってしまう。
けれども仕方がない。
彼はどんな存在よりも忘れがたい、
ただひとつの、私だけの光なのだから。

夜空に浮かぶ無数の光の下で、
運命の再会を果たす二人。

こんなにも美しい光景を、最愛の人と共に
見られるなんて。私はなんて果報者なのだろう。

そう心の中で噛み締めながら、
私は腕の中の恋人をきつく、きつく抱きしめた。

10/25/2025, 12:00:51 AM

『秘密の箱』

ひんやりとした空気。カビっぽい匂い。
薄暗い中には古い家具や箱がたくさん積まれ、
差し込む光の中で、埃が舞っている。

私はおばあちゃん家にある古い蔵で
不思議な箱を見つけた。

人が一人入れるくらいの大きさの箱。
木製で一面だけガラス張りになっている。

ガラスの向こうに、猫がいた。

━━━━━
│ ねこ │
│ │
│ ꧦ𐅁𐀸𐋠𛰙᭜𖫴𖫰𖫱𖫳𖫲𖫲𖫳𖫴𖫰𖫱꛰ﯩᩝ︪᭜𖫴𖫰𖫱𖫳𖫲𖫲𖫳𖫴𖫰𖫱꛰ީᩝ𛰚 ‎│
━━━━━

猫は丸くなり、じーっとこちらを見つめている。

「見ぃた~にゃ~(ↂ⃙⃚ ω ↂ⃙⃚)」

猫がしゃべった!
私は恐怖のあまり「ぎゃっ!」と悲鳴を上げ、
一目散に逃げ出した。

それからまた懲りずに蔵を覗きにいった。

「ねえ、どうしてそんなところにいるの?
窮屈じゃないの?外に出たくないの?」

「猫はこの箱の中でしか存在できにゃいにゃ」
「どういうこと?」
「猫はいるかもしれにゃいし、
いにゃいかもしれにゃい」

何を言っているのか正直よくわからない。
でも、私は猫のことがもっと知りたくなった。
会いに行く度、私たちは仲良しになった。

私は猫に自分のことを何でも話した。
学校であった辛いことや悲しいこと。
猫は香箱座りしながら、
「んにゃんにゃ(― ω ―)」と相槌を打つだけ。
責めることも、可哀想がることもなく、
ただいつもそばにいてくれた。

「ねえ、箱を開けてもいい?」

ある日、私は猫に尋ねてみた。

「いいにゃよ。でも、開けたら……」
「開けたら?」
「猫は消えてしまうかもしれにゃいにゃ。
でも開けにゃかったら……」
「開けなかったら?」
「ずっと一緒にいられるにゃ」

私は迷った。でも、猫をこんな狭いところに
閉じ込めておくのは可哀想だと思った。
それに、あのふわふわな毛に触れてみたい。
抱きしめてみたい。

「開けるね」

私は箱の留め金に手をかけた。

ガチャリ。

箱の扉が開く。
中は、空っぽだった。

「え……?」

慌ててガラスの面を見ると、
猫の姿はもうそこになかった。

「どこ?どこにいるの?」

私は箱の中を隅々まで探した。
でも、何度探しても見つからない。

だんだんと涙が溢れてきた。

開けなければよかった。
そうすれば、ずっと一緒にいられたのに。

――

蔵で泣いている私を見つけたのは、
おばあちゃんだった。

「どうしたの?」

私は祖母の腰にしがみついて全部話した。
箱のこと。猫のこと。開けてしまったこと。

「あの箱ね。私も知っているわ」

おばあちゃんは私の隣に座って語り出した。

「あれは、その人が一番欲しいものを映し出すものなの。私も子どもの頃、病気で亡くなったお母さんを、あの箱の中で見つけた」

おばあちゃんの目が、遠くを見つめている。

「毎日、お母さんに話しかけたわ。寂しいって、
 会いたいって。お母さんはいつも優しく
 聞いてくれた。でもね……」

「開けちゃったの?」

「ええ。でも開けた瞬間、
 お母さんはいなくなってしまった」

ふぅとため息をこぼして、祖母は続けた。

「私の弟もね、あれを見つけたの。事故で亡くなった子どもの名前を、毎日毎日、箱の前で呼び続けてね。でも弟は、箱を開けなかった」

「どうして?」

「開けたら失うって、分かっていたから。でもね、それで弟は……箱から離れられなくなってしまった。現実の世界よりも、箱の中の世界を選んでしまったの」

おばあちゃんが私の手をギュッと包み込む。

「失うことは辛いね。でもね、あなたはこれから先、
 たくさんのものを手に入れるの。触れられるもの、
 本当に温かいものを」

――

それからしばらく経ったある日のこと。
下校途中、公園の茂みから鳴き声が聞こえた。

「にゃあ、にゃあ」

そこには小さな子猫がいた。捨て猫だろうか。
辺りを見回すが母猫や兄弟猫の姿が見当たらない。

もっとよく近づいて確認する。
そして――その姿に私は思わず息を呑んだ。
柄も顔立ちも、あの猫にそっくりだ。

子猫は私に気がつくと、ヨチヨチと歩み寄り、
足元によじ登ってきた。

私は子猫を抱き上げた。小さくて、温かい。

「また会えたね」

私は子猫をギュッと抱きしめると、
家に向かって歩き出した。

10/4/2025, 5:00:02 PM

『今日だけ許して』

「……ただいまー。あー疲れた」

残業を終え、フラフラになって帰宅したサラリーマン・遥斗(はると)は、玄関の扉を開けた。すると、部屋の奥から「チャッ、チャッ」と床に爪が当たる音が聞こえてくる。

「おかえり。遅かったじゃないか」
「……おい、今、しゃべった?」

なんとそこには――人の言葉を喋る柴犬のコマが立っていた。いや、立っていたどころか、二足歩行で腕を組んでいる。

「え、夢……? 疲れて幻覚見てる……?」
「幻覚じゃない。お前がいない間に、おれはネットで
人語を勉強した」
「ネットで!?」
「今の世の中、犬だって学ぶ時代だ」
「いや待て、操作できるのか?」
「肉球でスワイプしてる。努力の賜物だ」

遥斗は頭を抱えた。
だがそれよりも問題なのは、
コマの目が妙に冷ややかなことだった。

「それより遥斗。最近、朝の散歩、サボってるよな」
「えっ、いや、仕事が忙しくて……」
「ごはんも安物のドッグフードばっかり。
愛が感じられない」
「愛」

そう言いながら、コマは小さな紙を突き出した。
そこにはミミズの這ったような文字で――
「今日だけ飼い主交代券」。

「……なにこれ」
「明日はおれが飼い主、お前がペットだ」
「はあ!?」
「おれが起きたらお前は手作りの朝ごはんを作る。
散歩もおれのペース。いいな?」
「いやよくねぇよ」



翌朝。

「起きろ、遥斗。散歩の時間だ」
「ぐぅ……」
「こらっ、寝坊は罰だ」

コマはリードを片手に、
逆に遥斗の首に巻きつけた。

「ちょ、待て、何してんの」
「いいから歩け。リードに慣れておけ」
「おかしいだろこの関係!」

朝の住宅街を、犬が人間を引き連れて歩く光景。
近所の奥さんが二度見して、
「あらあら、新しいプレイ?」と呟いた。

「クソ!まるで俺が変態みたいじゃないか!」
「吠えるな。近所迷惑だろ」



その夜。

コマはソファにふんぞり返って、
ヤギミルクを飲んでいた。

「今日のおれ、立派な飼い主だっただろ?」
「うんうん、コマくんは初めての飼い主よく頑張ったね!ほんとスゴい!」
「ふふん。よし、特別に頭を撫でてもいいぞ」

褒められたのが嬉しくて満面の笑みを浮かべるコマ。
遥斗の目の前に座ると、耳をぺたんと畳んで
尻尾をふりふり振った。
撫でられスタンバイの体勢だ。

「どうした、遥斗。早く撫でろ」

(これじゃ普段と変わらないな)

飼い主とペット。支配する側とされる側。
しかし実際は、お互い相手に依存し合ってるのかもしれない。



翌日。
ベッド横のチェストに一枚のメモが
置かれていた。

『反省した。
やっぱりおれは飼われる方が好きかも。
コマ』

視界の端では、ベッドに丸まって眠るコマの姿。
ぷぅぷぅと小さく寝息を立てている。

遥斗は苦笑して、コマの体をそっと撫でた。

「まったく……世話が焼けるやつだな」
「……ん、靴下美味い……」
「どんな夢見てんだよ」

窓から朝日が差し込む。
今日は絶好の散歩日和だ。コマが起きたら
すぐ出かけられるよう支度しよう。
新しい散歩コースに挑戦するのも悪くない。
そんな考えを巡らせながら遥斗は体を起こした。

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