『 !マークじゃ足りない感情』
「セバスチャン、わたくし——
『なろう系ラーメン』に行ってみたいですわ」
「なろう系ラーメン、でございますか」
執事セバスチャンは眉をひとつ上げて主を見つめた。
最近、悪役令嬢たちが暮らすこの領地に新しくできた
『なろう系ラーメン』。開店早々話題沸騰で、
連日行列が絶えないという評判の店である。
-----
早速、悪役令嬢と執事のセバスチャンは
なろう系ラーメンへと足を向けた。
「まずは食券を購入する必要があるようですね」
券売機の前に立つと、そこには一風変わった
メニューが並んでいた。
ラーメンの種類
ツンデレ、クール、ママ、ヤンデレ
トッピング
おじさん(モブ)、嫌な女(モブ)、隠し子など
「ふむ……悩ましいところですが、本日は王道の
ツンデレラーメンに挑戦してみましょうか」
二人は当店一番人気のツンデレラーメンを選び、
カウンター席へと腰を下ろした。
湯気の熱気と香り、店員の掛け声が飛び交う空間。
やや落ち着かずにソワソワする悪役令嬢の様子を
見たセバスチャンは、静かに店内を見渡した。
「皆様、特盛でご注文されていますね」
「ええ。あ、それと、大事なことを言い忘れて
おりましたわ。こちらでは注文時に”呪文”を
唱える必要がございますのよ」
「ご安心ください、主。事前に履修済みです」
——(ダッシュ)、!(びっくり)、?(なぞ)、
♡(ラブ)の量をお好みで調整できるらしい。
悪役令嬢はドキドキしながら呪文を唱えた。
「——!?スクナメ、♡マシマシで
お願いいたしますわ!」
数分後、湯気と共に注文の品が
セバスチャンの目の前に運ばれてきた。
丼の中では、固めの細麺がツンデレなセリフを
次々と吐き出している。
『勘違いしないで!』
『ちょっと、どこ触ってるの!?』
『あなたなんて大嫌いっ!!!』
セバスチャンの——ヌキ、!マシ、?マシ、
♡スクナメを味見する悪役令嬢。
「お口に合いますでしょうか?」
「ええ、これはこれで美味しいのですけれど……
わたくしはもっと、イチャイチャラブラブしたい
気分ですの」
そこへ、少し遅れて到着した
『♡マシマシラーメン』。口にした瞬間——
『勘違いしないで♡♡♡』
『ちょっと、どこ触ってるの♡♡♡』
『あなたなんて大嫌いっ♡♡♡』
「ああ……これこれ、これですわっ!」
甘さマシマシ、ラブマシマシ。
嫌よ嫌よも好きのうち。
このくどい甘さがシビれる!クセになるゥ!
悪役令嬢の頬は薔薇色に染まり、瞳はうっとりと
潤んでいる。セバスチャンは主のあまりの
陶酔ぶりに、微かに苦笑いを浮かべた。
-----
「なかなかに楽しめましたわね」
満足そうな様子でルンルンと帰り道を歩く悪役令嬢。
その言葉に、穏やかに頷くセバスチャン。
「はい。未知の領域でした」
セバスチャンは、この世にはまだまだ
自分の知らない世界があることを改めて学んだ。
味だけでなく、エンターテインメント性も
含めて楽しむ。
そんな新しい文化に触れた一日であった。
「また行きたいですわね。今度は期間限定
『真夏の夜のNTR冷麺』を頼んでみたいですわ」
「え、それはちょっと……」
8/15/2025, 8:10:09 PM