悪役令嬢

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『赤い糸』

「おばあさま、遊びにきましたわ!」
「あら、いらっしゃいメア」

オズの屋敷に遊びに来たメアは、
オズの祖母であるおばあさまに飛びつきました。

おばあさまはとても優しくて、
メアが遊びに来る度に美味しいお菓子を
用意してくださり、ご本を読んでくれたり
お人形遊びに付き合ってくれたりします。

ある日のこと、オズとメアが屋敷で
かくれんぼをしていた時の話です。

おばあさまの部屋に迷い込んだメアは、
ドレッサーの上に置いてある可愛いらしい
コンパクトに目を惹かれました。

ハートの宝石が埋め込まれたピンクのコンパクト。
中を開けると、甘い香りが漂ってきます。
ハンドクリームでしょうか。
手首につけると、ふんわりと
薔薇の香りが広がりました。

クリームのついた手で目を擦ると、
突然、メアは赤い糸が見えるようになりました。

赤い糸は人々の小指に結ばれており、
男と女、同性同士、さらには犬や猫、
馬や鳥と繋がっている人もいました。

メアは、おばあさまが読んでくれた
ご本の話を思い出します。
運命の相手とは赤い糸で結ばれると────

「オズ、わたくし赤い糸が見えますの!」
メアの話を聞いたオズもまた、
クリームをつけてみることにしました。

「どうですか?」
「本当だ……見えますね」

オズはメアの小指に繋がれた赤い糸を
じっと見つめます。
それからオズは鋏を持ってきて、
メアの赤い糸をちょきんと切ってしまいました。

「何するのですか!」
「だって邪魔じゃないですか」
「ひどいですわ、ひどいですわ!」

わーんわーんと泣き出したメア。
オズは彼女の指から垂れ下がった
糸を自分の小指に巻き付けました。

「ほら、また結びましたから
泣き止んでください」

騒ぎを聞きつけたおばあさまが
二人のもとにやってきました。

「まあ、一体どうしたのですか?」

メアはそれまでの出来事を全て
おばあさまにお話しました。

話を聞き終えたおばあさまは、優しく微笑み
ながらコンパクトを手にして二人に説明します。

「これは『サダメの軟膏』と呼ばれるものです」

"サダメの軟膏"
古くから伝わる魔女の秘薬で、
これを目元に塗ると、
運命の相手が見えるようになるのだとか。
赤い糸は恋愛だけでなく友情、親愛、
深い絆や重要な出会いを示すこともあります。

「ですが運命とはさだめられたものでは
ありません。自らの手で紡いでいくものですよ」

おばあさまは優しく二人の頭を
撫でながら言いました。

「さあ、解呪の水でお顔を洗いましょうか」

それから赤い糸は見えなくなりました。
メアは一体誰と結ばれていたのでしょうか。
今でもあの赤い糸は繋がっているのでしょうか。
全ての真相は闇の中────

6/30/2024, 6:45:13 PM