『夏』
真夏の夜の話です。
「ひと狩りいきませんこと?セバスチャン」
「あの、どちらへ?」
「ずばり!ヘラクレスオオカブトを
捕獲しにですわ」
虫取り網やその他諸々を持って夜の海岸へ
訪れた悪役令嬢と執事のセバスチャン。
今回の標的は「昆虫王」の肩書きを持つ
世界最大級の甲虫、ヘラクレスオオカブト。
悪役令嬢は、フクロウが館長を務めている
博物館へ寄贈するため、日夜コツコツと
虫や魚を集めているそうです。
目指せ図鑑コンプリート!
この虫は夜行性で夜になると活動を開始し、
樹液が出ているヤシの木に集まります。
視界が悪い暗闇の中、ランタンの明かりと
セバスチャンの嗅覚を頼りに
樹液の出る木を探していると────
「主、いました」
ヒソヒソ声で悪役令嬢に話しかけるセバスチャン。
彼が指さすヤシの木にはアリやカナブン、
そして待望のヘラクレスオオカブトの姿が!
ランタンの明かりを落として、
そーっとそーっと気付かれないように、
虫取り網を構えながら忍び足で近づく悪役令嬢。
手に汗握る緊張の瞬間────
樹液を呑気に吸う標的の背中に
網をバサッ!と被せます。
中を確認すると、
英雄ヘラクレスの武器のような大きな角と
光沢のある黒褐色のボディがお目見え。
「やった!捕まえましたわ!」
ヘラクレスオオカブトを掲げながら、
決め台詞を言い放つ悪役令嬢。
「ヘラクレスオオカブトゲットだぜ、ですわ!」
「おめでとうございます。主」
お目当ての虫を手に入れルンルン気分な彼女は
帰り際、執事にこんな話を語り始めます。
「セバスチャン知ってますか。
木を揺するとたまにお金の入った袋や
不思議な木の葉が落ちてくるのですよ」
「へえ、知りませんでした」
「ふふん、試しにお見せしましょうか」
悪役令嬢は丁度いい木に目星をつけて
ゆさゆさと揺らします。
ドサッ!
すると鈍い音と共に蜂の巣が落ちてきました。
「えっ」
衝撃にびっくりしたスズメバチが巣から
飛び出してきて、悪役令嬢を襲い始めます。
「いやーっ!助けてくださいましっ!」
「何やってるんですか……」
悲鳴を上げてスズメバチの大群から逃げる
悪役令嬢をセバスチャンは呆れた様子で
見つめていました。
その後、セバスチャンに救出された悪役令嬢は
無事に屋敷へ戻ることができましたとさ。
6/28/2024, 6:00:05 PM