『子供の頃は』
「オズ、何してますの?」
芝生の上に寝転がって分厚い本を読んでいると、
頭の後ろに大きなリボンをつけた
セーラーワンピース姿の美少女が
声をかけてきました。
彼女は幼なじみのメアです。
「魔導書を読んでいるのですよ」
「ふうん……ねえオズ、あなたに見せたいものが
ございますの。ついてきてくださいまし!」
彼女に連れてこられた場所は、
ふわふわのクッションやぬいぐるみ、
アンティークの小物入れやオルゴールなど
ファンシーな家具がたくさん並べられた
パステルピンクを基調とした部屋。
メアがお披露目したのは、
赤い屋根の立派なドールハウス。
「これが見せたかったものですか?」
「ですわ!」
~.・*✿ シルパニアファミリー
あかりの灯る大きなお家 ✿ *・.~
巷で女の子たちに大人気のおもちゃです。
お家の中では小さなうさぎの人形たちが、
テーブルを囲んだりお風呂に入ったりしています。
「こちらはうさちゃんファミリーですわ。
お父さん、お母さん、おじいちゃん、
おばあちゃん、おねえちゃん、子ども7匹
計12匹の大家族ですの」
「へえ、よくできてますね」
職人の手によって精巧に作られた
小さな家具や人形を観察するオズ。
ふとあるものが彼の目に留まりました。
「おや、この子だけみんなと毛色が違いますね」
オズが指さしたのは灰色の子うさぎ人形。
他の人形がオレンジ色の毛並みに対して、
この人形だけは灰色です。
「この子はグレイ。お父さんうさぎが外で女を
作って、そのメスとの間にできた子どもですわ」
「うわあ、複雑~」
かわいらしい見た目にそぐわぬ
ドロドロな世界観です。
すると突然メアが慌て始めました。
「ない、ゴンザレスがいない!?」
「ゴンザレス?」
「赤ちゃんうさぎ人形の名前ですわ。
どこへ行ったのゴンザレス!」
二人はドールハウスの周辺を
くまなく探しますがどこにも見当たりません。
「わたくしのゴンザレス……」
目に涙を溜めながらスカートを握りしめるメア。
「子どもなんてまた作ればいいじゃないですか」
オズがメアを慰めていると、
小窓のフリルカーテンがガサゴソと
動いているのを発見しました。
カーテンをめくると、
そこにいたのは神出鬼没の魔猫、
生後15ヶ月のチェシャーキャット。
何かをガシガシ齧っています。
よく見るとそれはメアが必死に探していた
赤ちゃんうさぎの人形ではありませんか。
「なんてこと!わたくしのゴンザレスが!
チェシャ猫、その子を早く返しなさい!」
「いやにゃ!こいつはチェシャの獲物だにゃ!」
「ムキーッ!なんて躾のなってない子!
親の顔が見てみたい!」
チェシャ猫とメアがト〇ムとジェ〇リーを
彷彿とさせる壮絶な追いかけっこをしている傍で、
オズはおやつのカンノーリを
のんびり食べていました。
6/23/2024, 6:45:03 PM