悪役令嬢

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1/29/2024, 8:12:00 AM

『街へ』

とある密会の情報を得るために
私は庶民の格好をして街に潜入しています。

人通りの少ない路地を歩き、
手がかりを探っていると、
何処かから男女の話し声が聞こえてしました。

物陰から様子を伺うと、
男性が女性を強引に口説き、
女性は困っている様子でした。

見兼ねた私はその場に乱入し、
固有スキル『毒舌』を使います。
すると男は驚いて、そそくさと逃げていきました。

「ありがとう。助かりました」
微笑みながらお礼を言う女性を
私はじっと見つめました。

薔薇色の頬、桜色の唇、空のように
青く澄んだ瞳、鈴の音のような柔らかな声

目の肥えた私から見ても
美しく愛らしいレディでした。
この街に住んでいる娘でしょうか。

助けてもらったお礼がしたいと言う彼女に
私は手を引かれ、街を散策することになりました。

住宅街の路地では住民が植物に
水やりをしていました。
水しぶきに日の光があたって
きらきらと輝いています。

市場へとやって来た私たちは、
コカトリスの焼き鳥や
ひつじ雲のわたあめなどを買い、
その珍味に舌を唸らせながら街を見回しました。

子供たちが楽しそうに駆け回る姿や笑い声
街の人たちの活気に満ち溢れた呼び声や熱気
洗濯物の甘い香り、焼鳥のタレの香り、花の香り
涼やかな風は街のさまざまな匂いを
運んできてくれます。

この街には今までも何度か訪れましたが、
これほどまで色鮮やかに映ったのは
今日が初めてでした。

楽しい時間は永遠の様に思えて一瞬の出来事です。

夕暮れの道を二人で歩きながら彼女は言いました。
「また会おうね」

今日は調査のために訪れたのであって、
遊びに来た訳ではないのですが…
たまにはこういう日も悪くないですわね。

1/25/2024, 12:10:57 PM

『安心と不安』

私実は幼い頃に誘拐された事がありますの。
暗くじめじめとした場所に入れられ、
僅かな食料と水しか与えられずに何日間も過ごしました。

どうやって助かったかですって?
長くなるので割愛させていただきますが、
ひとえにある少女のおかげですわね。
その子は私と同じ牢屋に閉じ込められておりました。

私が不安に駆られている時、
その子どもは私の手を優しく握って、
たくさんのおとぎ話を聞かせてくれました。
彼女の声と温もりは私を安心させてくれたのです。

それから私たちは見張りに気づかれぬよう
毎日少しずつ穴を掘り進め、
とうとう逃げ出す事に成功したのです!

途中で追手に追われその子とははぐれてしまいましたが、
私は農村で働いていたご夫婦に助けてもらい、
そして、今こうして優雅に紅茶を飲んでいられるのです。

あの子がいなければ私は早々に何もかも諦めて
どこかに売られていたかもしれませんわね。

不安や絶望に苛まれている時に
安心や希望を与えてくれる

そのような存在に人は強く惹かれるのでしょう。
人々が宗教や推し活にはまるのも無理ありませんわ。

あの子は今でも私の心を暖かく灯してくれる
小さな炎ですわ。

もし生きていてくれたなら、
もう一度彼女に会いたいですわね。

1/23/2024, 2:00:05 PM

『こんな夢を見た』

私は今、どこかの国の王様と牢獄に
閉じ込められています。
どうやらこのパズルを解かねばここから
出られないみたいですわね…。

王様!「ヘルプミー」じゃありませんわ!
あなたも少しは手伝いなさい!

そうこうしてるうちに、
ドラゴンが火を吹きながらゆっくりとこちらへ
近づいて来てるではありませんか!

ああ、もう、すぐそこに
万事休す、ですわ。

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
はっ、セバスチャン?おはようございます。
私がうなされていた?
えぇ、何だかとても奇妙な夢を見ていた気がします。

眠気覚ましの紅茶と軽い朝食を用意してちょうだい。
私は顔を洗ってきますわ。

『Play now』
今どこかから広告音が…気のせいかしら。


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あとがき
ロイヤルマッチというアプリの広告多くないですか😱?
しかも長いからなかなかスキップできない😡

1/21/2024, 2:51:42 PM

『特別な夜』

今宵は大臣主催による舞踏会に招かれておりますわ!
大臣と握手を交わしていると、
歓声が聞こえてきました。

そちらへ視線を向けると、そこには人々の輪の中で不敵な笑みを浮かべる道化師が立っていました。
道化師は手に持っていたナイフで見事なジャグリングを決めてみせ、皆が彼に賞賛の拍手を送っています。

私もその華麗なナイフ捌きに感心していると、
大臣が訝しげな眼差しで彼の部下を見ました。

「あの道化師は何だ?あの様な催しは
呼んだ覚えがないぞ」
「安心してください。彼はフレンドリーです!」

それから私は人脈作りのために貴族たちとの
会話に励んでおりますと、突然どこかから
悲鳴が聞こえてきました。

その場へ駆けつけると、茂みの中で男女が
抱き合ったまま見るも無惨な姿となり
絶命しているではありませんか!

すると今度は大広間で何やら
騒ぎが起こっているようです。
遺体はセバスチャンに任せて急いで広間へ
行きますと、ステージ上に先程の道化師と
逆さまに吊るされた大臣の姿がありました。
周囲には衛兵らしき者達が血を流して倒れています。

道化師はニタリと笑って、大臣の股の間に
ノコギリをギコギコと入れていき、
彼の身体を真っ二つにしています。
それはまるでマグロの解体ショーでも
見ているようでした。

人々がパニックに陥り逃げ惑う中、
道化師は血塗れのノコギリを握り締めたまま、
ゆっくりとこちらへ近付いてきます。

私はドレスの下から武器を取り出し
臨戦態勢に入りました。
悪役令嬢と道化師、二つの視線が混じり合う。
血塗られた『特別な夜』が今、幕を開ける────

1/20/2024, 12:07:18 PM

『海の底』

オーホッホッホ!
私に歯向かう輩はみーんな
海の底に沈めてやりますわ!
さあ、お覚悟はよろしくて?

かつてはそんな殊勝な発言をしていたこの私が、
まさか海の底に沈められるなんて
思ってもみませんでしたわ。

「悪役令嬢」から「海の藻屑」に
クラスチェンジとは…。
なんたる不覚!なんたる屈辱!

そうして海の底を彷徨っていますと、
珊瑚で作られた不気味な館を見つけました。

私は警戒しつつも、恐る恐る中へ入ってみると、
そこには見知った顔の輩がおりました。

「これはこれはお嬢様、随分と変わり果てた
お姿になられましたね」

私のこの無様な姿を見て笑うその者は「魔術師」
怪しい魔術や魔法アイテムを生み出しては、
世に流通させる超危険人物ですわ!

「先日買っていただいた
『魔法の鏡』はいかがでしたか?」
私に怪しい商品を売りつけてきたあの
胡散臭い商人の正体はこいつでしたか!

私が苦情を申し立てれば、魔術師はやれやれと
いったご様子で肩をすくめました。
まったく一挙一動が腹立たしいですわね。

「哀れなお嬢様に免じて今回は魔法アイテム
『コンティニューボタン』を差し上げましょう。
お代は結構ですよ。これからもどうぞご贔屓に」

そういって魔術師は紫色の目を細めて
妖しげに微笑みました。

こうして私は奇跡的に暗く冷たい海の底から
陸地へと無事、生還する事ができました。

地上へ戻るとセバスチャンがふわふわの
タオルと温かい紅茶が入った魔法瓶を
抱えながら出迎えてくれましたわ。

主人の帰りを健気に待つとはなんて
よくできた執事でしょう。

私はセバスチャンからいただいた
紅茶を飲みながら、
今回の失態について振り返っていました。

あの魔術師に借りを作ってしまったのは
痛手ですが、またこうして悪役令嬢に
戻れたのなら結果オーライですわ!
さあ、屋敷に戻りますわよ、セバスチャン

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