悪役令嬢

Open App

『街へ』

とある密会の情報を得るために
私は庶民の格好をして街に潜入しています。

人通りの少ない路地を歩き、
手がかりを探っていると、
何処かから男女の話し声が聞こえてしました。

物陰から様子を伺うと、
男性が女性を強引に口説き、
女性は困っている様子でした。

見兼ねた私はその場に乱入し、
固有スキル『毒舌』を使います。
すると男は驚いて、そそくさと逃げていきました。

「ありがとう。助かりました」
微笑みながらお礼を言う女性を
私はじっと見つめました。

薔薇色の頬、桜色の唇、空のように
青く澄んだ瞳、鈴の音のような柔らかな声

目の肥えた私から見ても
美しく愛らしいレディでした。
この街に住んでいる娘でしょうか。

助けてもらったお礼がしたいと言う彼女に
私は手を引かれ、街を散策することになりました。

住宅街の路地では住民が植物に
水やりをしていました。
水しぶきに日の光があたって
きらきらと輝いています。

市場へとやって来た私たちは、
コカトリスの焼き鳥や
ひつじ雲のわたあめなどを買い、
その珍味に舌を唸らせながら街を見回しました。

子供たちが楽しそうに駆け回る姿や笑い声
街の人たちの活気に満ち溢れた呼び声や熱気
洗濯物の甘い香り、焼鳥のタレの香り、花の香り
涼やかな風は街のさまざまな匂いを
運んできてくれます。

この街には今までも何度か訪れましたが、
これほどまで色鮮やかに映ったのは
今日が初めてでした。

楽しい時間は永遠の様に思えて一瞬の出来事です。

夕暮れの道を二人で歩きながら彼女は言いました。
「また会おうね」

今日は調査のために訪れたのであって、
遊びに来た訳ではないのですが…
たまにはこういう日も悪くないですわね。

1/29/2024, 8:12:00 AM