はとぽっぽ

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3/28/2025, 5:01:45 AM


見た目は確かに、美しい顔立ちをしていた。
でも…
まるで、そう。
歩いた先から花が咲き誇るような
そんな男だった。



『誰もが振り向いてしまうような、そんな人間になれたのなら、僕はやっと、君にー…』

「………君に…」
ありふれた言葉を打とうとした手は、ぴたりと固まるように止まった。
さっきまで、すらすらと浮かんできた文章たちが“気付いたら居なくなっている”ような、そんな感覚がする。
上手く言葉を紡ぐことが出来ない。
こんな時は、一旦書くのを止めるしかない。
時計を確認する。
まだ、午後1時半前だ。珍しくお昼時に止まった。
ならば、やる事はただ一つ。

「とりあえず、何か口に入れなきゃ…」

台所のある方を見る。
何があったかな………



…………食べるの、面倒くさいな………

向かおうとした足は踵を返し、机の近くに置いてある引き出しから、ラムネを取り出した。
取り敢えず、糖分だけでも取っとこう。
常備してある袋の中から、ひとつ取り出した。ピンク色のラムネだ。
口に入れてから、視界の端に見えていたピンク色に目をやる。
窓の外に、芽吹き始めた桜の花だ。
口の中は苺味なのに、視界は桜なんて…変な感じだ。
今の自分の心もそんな風に、何故だか考えても、上手く形にできない。
そもそも、向き合うべきなのだろうか。

進まない原稿用紙に目を落とす。
いつも自由気ままに書いている物ではないそれは、今抱えている原因の元凶からの依頼だ。
元凶を主役にした物語りを、作る事になってしまったのだ。




特に意識していなくても視界に入る(………まあ、それは、自分に限った話ではないだろうが)。
校内を歩いていれば、何処からともなく黄色い声が聞こえ、その元を辿れば、案の定少し明るめな色の頭に、端正な顔立ち。
あいつだ。
校内でアンケートを取れば、知らないなんて人は居ないであろうその人物。

最初は、その他大勢と同じ様に、傍観者でいた筈の自分は「頼もーっ!!!」と、ソレが声高らかに文芸部に入ってきたあの日から、傍観者では居られなくなった。

目が合えば遠くからでも声を掛けられ、付き纏われ、書いてくれと頼まれ続け、黄色い声の主達からの圧にも胃がキリキリし始めた頃だった。
『要件は基本メールで。校内で気安く声を掛けてくるな。直接話すなら、指定した場所にお前が来い。』
と言う条件を出して仕方なく書くことにした。
何が駄目だったのかと、不思議な顔をしながら承諾してくれた。
無自覚とは、恐ろしく罪だ。
その無垢な瞳を、呪う様に睨んだ。



これで校内での平和は戻ってきた。
だがしかし、書かなくてはならない。嫌でも。
自分の空想とはまた違う、あの煌びやかを背負った様な男を題材に…
しかも、演劇部で使う目的の台本だ。
適当に仕上げた物では、流石に他の方に申し訳ない。


2個目のラムネを口入れ、頬杖をつき、目を閉じる。
瞼の裏に、あいつの顔を思い浮かべ……
……………………………………ようとしなくても、自然ともう出てくる。
それぐらい見慣れる程、毎日の様に顔を合わせていた。
思い出すのは、笑顔ばかりだ。
……………他の表情を、ほぼ見ていないことに気付いた。


だから、書けないのでは、ない、か…………?








「…ーと言うことなので、原稿を進める為にも、致し方ないので学校に来ている日は、1日1回。直接顔を見て喋る時間を取ってもらいます」
「それは別に構わないが…い、致し方ないとは…」
「そのままの意味だが」
「そんなこと言われたの初めてだ…」
ガーンと言う効果音が似合いそうな顔だ。
これは初めて見る。ちゃんと観察しておこう。

それにしても、まじまじと至近距離で見るのは久方振りだ。

あの条件を出して以来、律儀に守っていてくれた。
偶然目が会う状況はあれど、ブリキ人形の様なぎこちない動きをしながらも、お互い赤の他人です。と言う様な距離を保っていた。

…こんな顔ですら、相変わらず花がちらつく。





「…………………………………………あの、だ、な……」
観察するのに夢中になっていたのか、気付けば、人一人通れるか通れないかくらいの距離で彼の顔を下から覗き見ていた。

「あ………。ごめん。距離を間違えた」
「い、いや。その…俺が…慣れていないせいで、ご迷惑を(?)」
「慣れてない?あんなに人に囲まれておいて何を…」

言いかけた言葉が止まる。
だって……………なんだ、その顔………
その、咲き乱れる様なそれはまるで



〈空想の何倍も鮮やかな〉













(お待たせ致しました。前回の話よりも、少し前の話にしてみました。…本当は、別の第三者目線にしようかと思ったのですが、お題的に 鮮やかさ を残した方が良いかと思いまして…。そして、これ以上続きを書くと、凄く長くなりそうなので、ほかお題消化の為にも、ここで切らせて頂きます。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。)




3/27/2025, 6:40:54 AM

君の声はとても素晴らしい。

と言って欲しかった。
だが、現実で褒められるのは、いつも容姿容姿容姿。
人の第一印象が、目で見える物になるのは仕方ないにしても、だ。


「そう。まるで、君はあの春風のように美しいメロディーのような声だ…なんてのはどうだろう!」

「そうだね。“春”という点では、蓋を開けば春の嵐のような豪速球トークしか出来ないあんたには、ある意味ピッタリなんじゃないかな」

少し肌寒さを感じる風が吹く中、窓から差し込む午後の陽射しが、部室内を夏の様に感じさせていた。
だが、冷たい。心が痛い。
マイガラス●ィックハート…

「歌ってないで、コレ。出来たからチェック宜しく」

そこは、素敵な歌声ね。て褒めるところだろう!と言いたかったが、これ以上の無駄口は許さないと言わんばかりの圧に、春の陽気みたいな俺でも、冬の寒さを思い出し、大人しく原稿用紙のチェックを始めた。



相変わらず、綺麗な字の羅列は、溢れんばかりの才能を感じる作品だ。

「やはり、君の作品は素晴らしいな…演じれる俺は果報者だ……」
「言い過ぎ。褒め過ぎ。…良いから、最後まで読んで」

と言うと、頬に手を当てて肘を突き、こちらを見ていた顔を、くるりと窓の方に向けた。
どうやら、また余計なことを言ってしまった様だ。


これ以上機嫌を損ねてはいけないと、慌てて作品に目を通す。






それは、虹の麓へ辿り着く為の冒険だった。
だがしかし“自分達が普段目にしている虹”ではなく、何処にあるかも分からない“七色に彩られた光輝く橋”を探す物語。
その橋を見つける為に必要な7つのアイテムをまず探さなくては行けないのだが、それらを探す中で、麓にあるだろう宝よりも、それぞれの忘れかけていた大事な物に気付く。
そんな話だ。




「特に、最後のこの台詞
『失くしてしまったものは、もう戻らない。
けれども、僕は、あの麓にあるだろう物よりも…過去よりも!君の側に居たい。君があの日教えてくれた、七色に光り輝く様な、そんな未来に、僕も連れて行ってくれ!!』
これが…君みたいに上手く言葉にできないが、とても心にグッときた。こんな風に手を伸ばしてくれたなら、俺なら、抱き上げて一生離さないなぁ」

「…………………じゃあ、そうしてくれよ…」
「…?」
「ん…」


そう言った君の顔が、余りにも林檎の様に可愛らしくて…

嗚呼。そうだった。
なんでいつもいつも、こんなにも、君といると



〈まるで、心に虹が掛かるように〉



(お待たせしました。相も変わらず…いや、全部が全部じゃないのですが、今回も思い付くままに打ち込み始めたのですが…
七色=虹から遠ざける為に、七色の〜を書こうとしてたのですが……結局、虹を出してしまった。む、無念…)


(曲名(歌詞)そのまま出すのは駄目だろうと思ったので、一応●を入れました。ロック大好きです)

3/26/2025, 12:29:06 AM

他人が記憶を忘却する前に、それを垣間見てしまう男の話

を書こうとして
途中まで書いていたのですが
さっき間違えてスワイプして消してしまいました。
記憶をなんとか思い出そうにも、吐き出すように毎日打ち込んでいたので、全く同じ物は、吐き出したその時にしか出てきません。
悲しい。
昨日、むしゃくしゃしてた気持ちも形にしていたものが消えた と言えば聞こえは良いですけれど、作品として形にしていたものが消えたのはとても悲しく思います。

やる気も消えました。

今日は休みます。
待っていてくださった方がいらっしゃったら、申し訳ないです。
いや、本当、申し訳ないので、せめて自身の記憶の話を最後にしておきましょう。



まだまだ幼い頃の話です。
生い立ちのせいもあり、読み書きができるようになった頃から、自分は死後の世界に憧れのような物を抱いていました。
“死にたい”と言うよりは“その後は有るのか”という興味が強く、ですが、大切な妹を残して死ぬ訳にも行かず…
いえ、どちらかと言うと、死ぬ為の勇気はありませんでした。
屋上から飛び降りたら死ねるだろうか、と下を眺めれば、落ちた瞬間に感じるかも知れない痛みを想像してしまい、足が怯みました。
他にも色々試そうとしましたが…自分が変わっていたのであろう物の考え方のせいもあって、何故自分が死ななければいけないのか、自身のせいではないのに…と思うようになった と言いますか、結局それをループする日々を、未だ続けて現在の自分が居るのですが………。

いやはや。こんな話をするつもりではなかった。

そう、記憶。記憶についてです。

その、あれやこれやを試していたと同時に、憧れを抱いていたものに対し、色んな書物を読み、自身の知識にしていくにつれ、ひとつ、神様と呼ぶ存在が居たとするなら、の仮説を考えるようになりました。
ただ、何処ぞの宗教のように、助けてくれるような、そんな夢みたいな存在ではなく、ただそこに居る人間と同じ、産まれた存在として考えました。
だが、その神様すら、さらに誰かから産まれたとして、その存在の、更に宇宙よりも遥か彼方に………………………
なんて、図式みたいな物を、授業中にノートの端にメモしていた時の話です。
突然、全ての音が掻き消える程の強い耳鳴りが突き抜け、頭を打ちつけるように響きました。
思わず耳を塞ぎ、体を縮こまらせ、過ぎるのを待ちました。
終わった時には、頭がまだぼうっとしていました。
自分はさっきまで何をしていたのだっけ…
そこで、ハッとするように思い出し、自分の走り書きのメモを見たのですが、思考の方が先をいっていたのか、考えた筈の部分までのメモが途中で止まっていました。
必死に、思い出そうとしましたが、ふと思ったのです。
先程の耳鳴りは、警告だったのではないか と。
瞬間、酷い冷や汗で、体が震えて仕方がありませんでした。


ただ、それだけの話なのですが。
あれから幾度と、あの時の考えを思い出そうとしても、思考は空白のように何も考えられなくなりました。
深く考えようとすれば、また少しばかり耳鳴りがし始め、止めざるを得なくなるのです。

ただ、それだけ。
それだけの話です。

忘れられない記憶の話。

3/24/2025, 8:47:02 PM

過去に帰れるのなら……なんて、そんなあり得ない話を、誰もが一度は考えた事があるだろう。


日常生活を平和に送る為に、日々社畜と成り果てた僕の姿を、止まりたくても止まらない時間の流れのように、次々変わる景色と一緒に、ガラスに映るその目と目が合う。
こんな疲れ果てた今の自分が、過去に帰ったところで、ヒーローのように颯爽と動く事が果たして出来るのだろうか。

渦を撒きそうになる気持ちを断ち切るように、車内アナウンスがタイミングよく流れた。頭上の路線図を、再度間違っていないか確認する。


出来きるのか ではない。
やるしかない のだ。


そして、もう一度腕時計を見る。確かめる。
午後17時前。

何とか今日も、仕事を切り上げる事ができた。
未来を変えれた。
ほんの些細なことかも知れないが、それでも、変える事ができたのだ。

だったら、もう迷う暇などない。




“人生は一度切り”なんて言うけれど、あれは嘘だったのかも知れない。
目が覚めたら、見慣れた天井に頭を巡らせ、日課になっていた物に目を向ければ、めくり終えた筈の日付を指す日めくりカレンダー。

信じてもらえないかも知れないが、どうやら僕は、タイムリープしてしまったようだ。
いや、僕自身も当初は信じることができなかった。
だが、迫る期日よりも余裕あるループをする事ができたようで、記憶力が割と良い自分は、数々の一致に唖然とし、納得せざるを得なかった。


これから変えようとする事は、何が起きるか分からない。
変えた先の未来が明るいとは限らないし、成功するかも分からない。

そもそも、顔も知らない相手だ。
それなのに“友人”と思っているのは自分だけかも知れない。
助けられたとしても、恨まれるかも知れない。エゴかも知れない。

それでも…

君がくれた言葉で、僕は確かにあの時救い上げてもらったのだ。
一時的だろうと。
あの瞬間。
確かに、光を見たのだ。


約束したのだ。
君が言った
『日常的に少し困ることもあるけれど、窓の外から見える景色がとても好きなのだ』

その景色を
いつか一緒に見ようと…







目的地が近付いてくる。
トンネルを潜り揺れる車内は、深海のような不思議な静けさを感じる。

緊張から、手すりを握る手が冷たい。
紛らわすように、力を込める。
目を閉じて、意識を研ぎ澄ます。


エゴだって、構うものか。
君が助かるのなら。

あの日、画面越しに観てしまった日。
どうして、君なんだ と思った。
どうして、僕じゃないんだ と思った。

そんな想いは、もう二度と







〈叶うのなら、せめて、〉
全てを直してくれなくて良いからお願いです
どうか
君だけは














(どうしても、思い出してしまうもの。綺麗な部分だけ想い出せたら、幸せなままでいられるのに。事実は消えない。嫌でも、ニュースで流れ、気持ちを掘り起こされる。こんな物を君が読んだら、逆に怒るかも知れない。でも、願わずにはいられないのだ)


3/24/2025, 3:30:05 AM

「相変わらず今日も浮かない顔をしているな。生きてて辛くない?もう、俺様に身を捧げた方が良くない?」

「そういうお前も、相変わらず顔色が泥水被った色になってるぞ。どうした?『お前より美味しい獲物を見つけてやるから!別に良いもん!!』て意気込んでた勢いはどこ行ったんだ?大人しく墓地に埋葬されて来いよ」



まるで僕らの顔色を表したかのような曇天の下、今日も会いたくて会ったわけでもない二人が、顔を見合わせため息を吐いた。
少し湿った風が辺りを包んでいる癖に、一向に雨も降らず、そこらに生えている草木も、日に日に斜めに傾き始めている。

「で、そっちはどうだった?」
「猫1匹見当たらないし、変わらず同族の気配も消えたままだな」

触角みたいな頭頂部の毛をくるくる回しながら、こっちも斜めに傾き始めた。
いかんいかん。

「まあ、まだ…世界の果てまで探し尽くしたってわけじゃないし、な。な。きっとどっかにまだ居るってー「だよな!うん!そうだよな!!うんうん。偶にはお前も良いこと言うじゃないか!」

僕の取ってつけたような言葉に気を取り戻したようだが、傾きからの急な伸びに、僕の肩を叩いた手を着いたまま、後ろに倒れるのを踏ん張った。


のだが、僕ももう結構疲労が溜まっているようで、引っ張られるまま、雪崩れるようにこいつの胸に倒れ込んでしまった。


「…悪い」
「…いや、僕の方こそ。重いだろ。退くよ………………

…あと、数分してからで良いか?」

踏ん張ろうとした腕に力が上手く入らない。
まさかこんなに体力がなくなっていたなんて。
考えないようにしていたけれど、終わりが近いのかも知れないと、一瞬でも過ぎったせいで、思考も上手くまとまらなくなっていく。
訳も分からず、泣きそうだ。



「いつ振りだろうか。人の鼓動を牙以外で感じるのは….」
独り言なのか、僕に言っているのか、分からないような小さな声が頭上から聞こえた。
その声が、余りにも穏やかに聞こえるものだから、落ちそうになった涙が引っ込み、頭を動かして顔を見ようとしたけれど、顎しか見えない。
けど、そうだ。
「僕も…。誰かとこんなに話したのは、久しぶりだったかも知れない」

世界が突然こうなる前、僕は所謂“ひきもこり”をしていて、ある日異様な音に目が覚めドアを開ければ、こんな状態だった。
それから、毎日彷徨い生き物を探した結果、目の前に現れたのは、この“架空の世界から飛び出してきました”みたいな、自称吸血鬼と出逢ったのだ。
最初こそ襲われそうになったものの、現在の状況をお互い認識し始めた頃には、協力しなければいけないと言う空気を察知し、休戦協定。無言で握手を交わした。

あの日から、どれだけ経ったのだろうか。
日照りも全くない世界になってしまったため、自分が唯一持っていた時計が動かなくなる頃には、数えるのをやめてしまった。
救助がその内来るだろう。なんて呑気に考えていた。







「仕方ないので、もう、あれだな。…寝るしかないな」
「じゃあ、棺に入らないと、もしも日に照らされたら、お前灰になっちゃうじゃん」
「うむ……まあ、もうそれでも良いかなって」
「はっ…なんだよそれ…」
約束した起き上がるつもりだった数分が、どんどん過ぎていっている。
けれど、体温は無い筈なのに、温かい布団に包まれるような感覚が居心地良く、僕らは瞼を眠るように閉じた。






〈雲り瞼のその先はー…〉





(不完全燃焼した。文が)

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