「相変わらず今日も浮かない顔をしているな。生きてて辛くない?もう、俺様に身を捧げた方が良くない?」
「そういうお前も、相変わらず顔色が泥水被った色になってるぞ。どうした?『お前より美味しい獲物を見つけてやるから!別に良いもん!!』て意気込んでた勢いはどこ行ったんだ?大人しく墓地に埋葬されて来いよ」
まるで僕らの顔色を表したかのような曇天の下、今日も会いたくて会ったわけでもない二人が、顔を見合わせため息を吐いた。
少し湿った風が辺りを包んでいる癖に、一向に雨も降らず、そこらに生えている草木も、日に日に斜めに傾き始めている。
「で、そっちはどうだった?」
「猫1匹見当たらないし、変わらず同族の気配も消えたままだな」
触角みたいな頭頂部の毛をくるくる回しながら、こっちも斜めに傾き始めた。
いかんいかん。
「まあ、まだ…世界の果てまで探し尽くしたってわけじゃないし、な。な。きっとどっかにまだ居るってー「だよな!うん!そうだよな!!うんうん。偶にはお前も良いこと言うじゃないか!」
僕の取ってつけたような言葉に気を取り戻したようだが、傾きからの急な伸びに、僕の肩を叩いた手を着いたまま、後ろに倒れるのを踏ん張った。
のだが、僕ももう結構疲労が溜まっているようで、引っ張られるまま、雪崩れるようにこいつの胸に倒れ込んでしまった。
「…悪い」
「…いや、僕の方こそ。重いだろ。退くよ………………
…あと、数分してからで良いか?」
踏ん張ろうとした腕に力が上手く入らない。
まさかこんなに体力がなくなっていたなんて。
考えないようにしていたけれど、終わりが近いのかも知れないと、一瞬でも過ぎったせいで、思考も上手くまとまらなくなっていく。
訳も分からず、泣きそうだ。
「いつ振りだろうか。人の鼓動を牙以外で感じるのは….」
独り言なのか、僕に言っているのか、分からないような小さな声が頭上から聞こえた。
その声が、余りにも穏やかに聞こえるものだから、落ちそうになった涙が引っ込み、頭を動かして顔を見ようとしたけれど、顎しか見えない。
けど、そうだ。
「僕も…。誰かとこんなに話したのは、久しぶりだったかも知れない」
世界が突然こうなる前、僕は所謂“ひきもこり”をしていて、ある日異様な音に目が覚めドアを開ければ、こんな状態だった。
それから、毎日彷徨い生き物を探した結果、目の前に現れたのは、この“架空の世界から飛び出してきました”みたいな、自称吸血鬼と出逢ったのだ。
最初こそ襲われそうになったものの、現在の状況をお互い認識し始めた頃には、協力しなければいけないと言う空気を察知し、休戦協定。無言で握手を交わした。
あの日から、どれだけ経ったのだろうか。
日照りも全くない世界になってしまったため、自分が唯一持っていた時計が動かなくなる頃には、数えるのをやめてしまった。
救助がその内来るだろう。なんて呑気に考えていた。
「仕方ないので、もう、あれだな。…寝るしかないな」
「じゃあ、棺に入らないと、もしも日に照らされたら、お前灰になっちゃうじゃん」
「うむ……まあ、もうそれでも良いかなって」
「はっ…なんだよそれ…」
約束した起き上がるつもりだった数分が、どんどん過ぎていっている。
けれど、体温は無い筈なのに、温かい布団に包まれるような感覚が居心地良く、僕らは瞼を眠るように閉じた。
〈雲り瞼のその先はー…〉
(不完全燃焼した。文が)
3/24/2025, 3:30:05 AM