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9/28/2023, 11:23:13 AM

今日は、卒業式の日。
みんなあんだけ嫌がってた制服を、この日だけはキチッと来て、学校に登校する。大人になりたいとほざいていた男子が、まだ高校生のままでいたいと嘆く。
そんな景色を、私は親友と一緒に、学校の校門のそばにある、大きな桜の木の下で見ていた。卒業式も終わり、もう自由の身となった私たちは、心の準備もないまま社会に放り込まれてしまった。
「ねぇ、信じられる?私たち、大学生だよ」
「そうだね。いつ、出発なの?」
「えっとね、明後日」
「早いね」
親友は、東京にある有名大学に行くらしく、そのために一人暮らしをするんだと言う。数字も文章も苦手な私には、到底合格なんてできないような大学だ。
「でも、あんたも結構有名な大学なんでしょ?」
「うーん、どうだろ。私、やってけるか正直心配」
私は音大に入り、クラリネットを専攻することになった。でも、数々の有名人を出しているらしいし、私もその人たちのようになれるか心配になっていた。
「あんたなら出来るよ。正直、あんたが居なかったら私、こうやって大学なんかいってないし」
そう言いながら、親友は立ち上がった。
「ほら行こ。この後、遊ぶんでしょ」
そう言って、クールに笑う親友。そういう所は、昔とは全く変わらない。
私も立ち上がって、親友と一緒に、私の大切なクラリネットを持っていつものゲームセンターへと向かった。
明後日にバラバラになるだなんて、正直実感がない。でも、別れ際は絶対笑顔でいると心に誓ったんだ。

明後日は、別れ際に、親友に引かれるくらい、手を沢山振ってやるんだ。

9/27/2023, 11:29:31 AM

鉛のように重い体を引きずって、とある小さな公園にあるベンチに腰掛けた。
今は、パラパラと雨が降っているから、公園には誰もいない。まだ午後3時だというのに。
まぁでも、もう成人済みで、しかもスーツ姿の今の私が、1番この空間に似合わないと思うけど。
雨は、強くなる気配はないから、多分通り雨だろう。別に、急いでどこか雨宿りをする所を探す必要は無さそうだ。もうこの公園に来てる時点で、もう動く気なんてないけど。
ふと、公園のそばにある道路を見ると、傘がないのか、カバンを頭の上に持ってきて、走ってどこかへ向かっている女性がいた。
そんなに雨は強くないのに、何をあんなに急いでいるんだろう。もしかして、なにかに遅刻でもしそうなのかしら。
大変そうだなぁ、と他人事のように考えていると、あるかっぱを着た小さな女の子が、公園に入ってくるのが目に入った。その女の子は、通り雨によってできた本当に小さな水たまりを、足でポチャッと踏み潰した。そして、またすぐ側にある水溜まりも、ポチャッ、その隣にあるのも、ポチャッ……。
女の子は、キャッキャと楽しそうにしている。
私は、なんだか女の子が可愛らしくて、思わず静かに笑ってしまった。
この通り雨は、人に色んな影響を与えるんだなぁと、訳の分からないことを考えてしみじみする。
雨に打たれて少し寒く感じていたけど、なんだか暖かくなってきた。

仕事の疲れも、他人の評価も、この雨で全部流してしまおう。

9/26/2023, 11:34:37 AM

肌寒く、夏の頃よりは過ごしやすくなったこの頃。
今日は休日で、部活も休みだから、図書館にでも行って本を読んだり、勉強でもしようかなと考えていた。
あれ、私って偉い?
まぁでも本を読むのは好きだし、偉いって言われるのもなんだか違う気がするけど。
図書館について、まずは適当に本棚の間を歩く。そして、気になった本があったらとる。普段はそうしているが、最近は、窓側の席の近くにある、同じ本棚を行ったり来たりしている。
理由は、いつもあの人が、同じところで本を読んでいるから。
「……今日も、いる」
左目に眼帯をしていて、黒髪のくせっ毛、目はじとーっとしていて少し細い。でも、本を真剣に読む彼の姿は、とても美しかった。
そんな彼の存在に気づいたのは、部活の大会が終わった直後。残念な結果で終わって、少し落ち込んでいた。そんな私が、本棚から本を取ろうとした時、彼の手が私の手に当たった。同じ本を取ろうとしていたみたいで、私は咄嗟に譲ってしまった。
「ありがとう」
クールに笑いながら、そう彼は私に伝えてくれた。そして、本を持って窓側の席に座った。
その言葉にとても、救われた。そして、私は恋に落ちた。
「気づいてないでしょう……?」
ボソッと言ったところで、誰にも伝わらない。でも、それでいい。
彼のそばにいれなくても、本を読む姿を見るだけで幸せだから。

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彼女がまた、いつものところで本を探している。
何を探しているかは、聞き出せないまま。俺は、今読んでいる本に集中しようと深く息を吐く。
でも、無理だった。どうしても彼女から、目が離せないから。
「……今日も、いる」
高めのポニーテール、いつも犬のキーホルダーがついた、灰色のバッグを持ち歩いている。
そんな彼女の出会いは、だいたい1か月前。その時の彼女は、なんだか元気がなさそうな表情をしていたのを覚えている。今の彼女は、とても目を輝かせて本棚を見ているように見えるけど。
そんな彼女に、気がつけば、俺は恋に落ちていたのかもしれない。
「気づいてないだろ……?」
彼女も、自分自身も、この恋心に。
友達なんて居ない、本だけが心の救いだった俺が、恋に落ちるなんてありえない。そう言い聞かせていたのに、結局考えているのは彼女のことだけ。
ふと、窓を見ると、木が枯れ、枯葉が美しく宙を舞う姿が見えた。
今年の秋は、読書の秋ではなく、恋の秋になりそうで、少し心躍らせた。

9/25/2023, 11:11:19 AM

とある日の午後。ベッドの上でゴロゴロしていて、ふと起き上がって、何となく窓を覗くと、小学生達がキャーキャーと騒ぎながら家に帰る様子が見えた。
何人かのグループで帰ってる子達と、一人で帰ってる子。赤いランドセルがキラキラ光っているのに、何故か表情は暗く見える。
そんな景色を見ている私の顔が、窓にうっすらと映っている。見てみると、まるで人形のように一切表情を変えず、目に光も宿っていない少女がいた。
今年で私も、高校二年生。不登校気味なのをのぞけば、ごく普通の女子高生。ギリギリ単位を落とさない程度に授業に参加し、提出類も全部出すようにしている。勉強は得意な方だから、家で授業でやったところを復習したり、予習したり、それだけ。
友達はいない。
「……あ」
ふと、右耳からワイヤレスイヤホンがポロッと落ちる。すぐ枕の側にあるスマホに、コツンっとワイヤレスイヤホンが当たった。すると、画面にホーム画面が映し出される。
そして、再生されている曲の題名も一緒に。
「……あめ」
私がそう言うと、外にパラパラと雨が降り始めた。帰宅していた小学生も、折りたたみ傘を出したり、または急に走り出したりと、それぞれの個性が出るような行動に出る。
小学生か。あの頃はまだ、何も知らなくて、だからこそこんなに無邪気でいれて……。
でも、今の私も、何も知らない。なぜ私が学校に行くのが嫌なのかも、今流れている曲の事も、そしてひとり寂しそうに帰る一人の少女のことも。
この窓から見える景色は、まるで私の心情を表しているかのように、雲は厚くなり、雨も強さを増していく。
それでも、ただ1人で、顔を下に向けて、ゆっくりと歩く少女。
あぁ、似てる。私に。

窓は、雨に濡れて、景色がボヤけてしまった。

9/24/2023, 12:01:44 PM

ゆっくりと、目を開ける。なんだか、カーテンから漏れる陽の光が眩しくて。
ふと隣を見ると、白髪の目に光が宿ってない少女が、ベッドから目だけを覗かせて、俺をじっと見ていた。
雪。俺の妹だ。
「んん…雪、おはよ」
「おはよ。ご飯、出来てる」
「そうか。じゃあすぐ行く」
俺はベッドから降りて、雪と一緒に部屋を出る。すると、香ばしい匂いが鼻をくすぐった。今日は焼き魚だろうか。
リビングに着くと、いつもの顔が揃っていた。
「おはよう勝君。いつも早いのに、珍しいね」
「あぁ、昨日編集してたんで」
「そうなの?それはお疲れ様」
ご飯をよそっているゆなと、そんな会話をしながら席に座る。隣には、眠そうにしている美人、目の前には元気が有り余ってる、まるで小学生のような幼さがある女性が座っていた。
こいつらが、有奈と、朱里。
「あれ、ゆりなさんは?」
雪が、そうゆなに聞く。確かに、あともう1人人数が少ない。
「あぁ、ゆりななら買い物があるからとかなんとか」
「こんな朝に?」
「さぁ、動画でなにか作るんじゃない?」
ゆなは適当にそう言った。詳しく聞くと、ゆりなは、朝早くにコンビニに出かけているそう。でも確かに、ゆりなはよく料理動画を撮るし、今回もその買い出しに行っているのかもしれない。
こんな朝早くに行く必要は無いと思うが……。
「よし、じゃあ食べよっか!」
気づけば、机にはツヤツヤのご飯と、質素な味噌汁と焼き魚が、人数分並べられていた。
地味だが、こういうのが1番好きだったりする。
いただきますと行って、ご飯を1口食べる。
「あ、ちなみに今日の予定は?」
味噌汁を啜っているゆなが、みんなにそう聞いた。
「私は特に」
「えっとねー、夜に配信やる予定!」
「私は……ない」
「俺はゲーム実況でも撮ろうと思ってる」
いいねー、とゆなは相槌を打つ。とは言っても、スケジュールアプリでみんなの予定は共有してるから、多分ゆなも把握してるんだろうけど。
「じゃあ私はのんびりしよ」
「何もしないんですか?」
「たまにはいいじゃない。こういうさ、何気ない日常を過ごすのも」
ふわっ、とゆなは笑いながら言う。
数年前までの俺たちでは考えられなかった、のほほんとした暮らし。もちろん、忙しい時もあるが、それでも充実した日々を送れている。
こうやって、家族のように集まって食事をするのも、俺の夢だったから。
「さ!早く食べよ!」
ゆながそう言うと、俺たちは目を合わせて笑いあって、食事に集中した。

目に見えない、普通のようで普通ではない、何気ない日常を、ただ噛み締めていた。

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