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肌寒く、夏の頃よりは過ごしやすくなったこの頃。
今日は休日で、部活も休みだから、図書館にでも行って本を読んだり、勉強でもしようかなと考えていた。
あれ、私って偉い?
まぁでも本を読むのは好きだし、偉いって言われるのもなんだか違う気がするけど。
図書館について、まずは適当に本棚の間を歩く。そして、気になった本があったらとる。普段はそうしているが、最近は、窓側の席の近くにある、同じ本棚を行ったり来たりしている。
理由は、いつもあの人が、同じところで本を読んでいるから。
「……今日も、いる」
左目に眼帯をしていて、黒髪のくせっ毛、目はじとーっとしていて少し細い。でも、本を真剣に読む彼の姿は、とても美しかった。
そんな彼の存在に気づいたのは、部活の大会が終わった直後。残念な結果で終わって、少し落ち込んでいた。そんな私が、本棚から本を取ろうとした時、彼の手が私の手に当たった。同じ本を取ろうとしていたみたいで、私は咄嗟に譲ってしまった。
「ありがとう」
クールに笑いながら、そう彼は私に伝えてくれた。そして、本を持って窓側の席に座った。
その言葉にとても、救われた。そして、私は恋に落ちた。
「気づいてないでしょう……?」
ボソッと言ったところで、誰にも伝わらない。でも、それでいい。
彼のそばにいれなくても、本を読む姿を見るだけで幸せだから。

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彼女がまた、いつものところで本を探している。
何を探しているかは、聞き出せないまま。俺は、今読んでいる本に集中しようと深く息を吐く。
でも、無理だった。どうしても彼女から、目が離せないから。
「……今日も、いる」
高めのポニーテール、いつも犬のキーホルダーがついた、灰色のバッグを持ち歩いている。
そんな彼女の出会いは、だいたい1か月前。その時の彼女は、なんだか元気がなさそうな表情をしていたのを覚えている。今の彼女は、とても目を輝かせて本棚を見ているように見えるけど。
そんな彼女に、気がつけば、俺は恋に落ちていたのかもしれない。
「気づいてないだろ……?」
彼女も、自分自身も、この恋心に。
友達なんて居ない、本だけが心の救いだった俺が、恋に落ちるなんてありえない。そう言い聞かせていたのに、結局考えているのは彼女のことだけ。
ふと、窓を見ると、木が枯れ、枯葉が美しく宙を舞う姿が見えた。
今年の秋は、読書の秋ではなく、恋の秋になりそうで、少し心躍らせた。

9/26/2023, 11:34:37 AM