学校の校門前に咲いていた、紫色のあじさい。
「梅雨だね」
「雨、全然降ってないけどね」
「梅雨、いつ来るかなぁ」
「来週かららしいよ。でも、梅雨は憂鬱だなぁ」
「頭痛持ちだもんね」
貴方と他愛のない会話をしながら、あじさいをじっと見つめる。
可愛らしい見た目なのに、どこか美しい、そんな姿に見とれていた。
「あ、あと5分だ!早く行こ!」
「え!急がないと!」
あじさいに見とれていたら、あっという間に時間が経っていた。
しばらく、学校に行く楽しみが出来たかも。
「最近、どう?」
貴方と久しぶりに出会えた今日。
私の家で酒をちびちびと飲んで、話題が浮かんだら口に出して雑談して。
そんなグダグダな夜を過ごしていた。そんな時、私は何気なくそんな質問をした。
「うーん、まぁ、そこそこ、かな」
「そっか。仕事は、どう?」
「なりたい仕事にはなれてるし、充実はしてるよ。まぁ……正直心は折れそうだけど」
我ながら情けないー、と貴方は嘆く。
「やりたいことって、必ずしも自分に向いてるとは限らないよね。ほんと、今更になってそれを学んだきがする」
貴方は窓に映っている満月を見つめながら、そう呟いた。なにかに縛られているような貴方の横顔は、私の目には美しく映った。
「……本当に、これがやりたい事だったのかな」
やりたいこと
時には、自分を縛るものとなる。
「ねぇ、もし明日、世界が終わるならなにする?」
日が沈みかけた時、君は私にそう問いかけた。
私は、顎に手を当てて考えた。
「君と、お話したい」
「また?今日も、昨日も、一昨日もしたのに?」
君は優しく微笑みながらそう言った。
私たちは、どんなに忙しくても、幼いころふたりで遊んだ公園に夕方集まって、談笑してから帰るのが日課だった。
どうしても集まれなかった日もあるけれど、小学生の時からずっとやっている、私たちの日常だった。
だから、世界が終わる瞬間の時も、君と一緒にいたかった。
「どんな話するのかな」
「いつものように、くだらない話をするんだよ」
「それもそうか」
世界の終わりに君と、声を交わす。
それはロマンチックで、寂しいようだけど、心が温かくなった。
「私ね、昨日彼氏出来たの」
とても、衝撃を受けた。だって、いつも私と貴方で彼氏なんていらないって、話してた仲だったのに。
「へぇ、おめでとう。お幸せにね~」
笑顔でそういった私の内側では、ドロドロな感情が渦巻いていた。
それが、朝のホームルームの前に起きたから、しばらくモヤモヤしてた。
忘れようとしたら、他の嫌なことが頭の中から離れなくなった。
今日は、色々と最悪な日でした。
人の幸せを素直に喜べない私も、最低最悪。
誰にも言えない秘密なんて、誰にでもある。
「じゃあ、貴方にはあるの?」
「あるよ。もちろん」
「おぉ、ちなみに何?」
「誰にも教えられないって言ってるでしょ~」
「そっかそっか。ちなみに私もあるよ」
「えぇ、それってなに?」
「あ、貴方も人のこと言えないね!」
「あ……」
貴方の顔を見て、照れくさそうに笑う私は、きっと偽物。
私は、人に嫌われるのが、怖い。
それがバレるのが嫌で、バレて気を使われるのが嫌だから、笑顔で隠してた。
だから、貴方にも教えられない、誰にも教えられない秘密。
「秘密があるからこそ、自分にしか分からないことが分かるようになるよね。秘密を、大事にしてね」
そういう貴方は、天使のような笑顔で私を包み込んだ。
天使の裏に隠されている秘密は、可愛らしいものなのか、それとも悪魔なのか。
それが分かるのは、貴方自身だけらしい。