死にたい少年と、その相棒

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4/6/2023, 11:07:10 AM

  /君の目を見詰めると

君の目は大空をそのまま移した色をしている。僕と同じ国で生まれたはずなのに、この国では珍しい色をしている。
僕の目が生きる事を憎んだ、地を這う黒い色なら、君のそれは生きる事を謳歌する自由の青だ。

正反対だから苦手だった。
正反対だから嫌いだった。

生きていたって何も楽しいことなんかないのに、そんなにも必死になる意味が分からない。

けれど、なぜだろう。
いがみ合う時に見詰めた君の目に映る僕は、いつも楽しそうなんだ。
鏡を見たって見ることの出来ない。君の目に映る時だけ見える自分の顔が、とても楽しそうで。
死にたくて仕方がないはずなのに、生きていることを君みたいに楽しんでいるみたいなんだ。

君にしか見せない、僕の顔が映るその目が、やっぱり嫌いだ。

4/5/2023, 10:49:23 AM

  /星空の下で

 彼が踊っている。
 星空の下で。華麗に、軽やかに。

 生きている中で、それを見ている時が、一番好きだった。
 なんたって彼は、僕の為に踊っているのだから。僕の為に、僕だけの舞いだった。

 だから、それを見ている時が一番好きだ。


 宝石を散りばめた星空の下で、夕焼けの色をそのまま移した髪を散らせ、青空を移した瞳を真っ直ぐ空へ向け、夜よりも黒い服を靡かせて。

 あぁ。なんて綺麗なんだろう。

 あれを見ている時だけが、生きている事を純粋に楽しめる。

4/4/2023, 10:47:07 AM

  /それでいい

 天井からぶら下げたロープに首をかけ、勢い良く椅子を蹴った。
 今日は完璧だ。
 選び抜いた頑丈なロープ。解けないよう何重にも結んだ結び目。体重をかけ続けても落ちないよう、わざわざ天井に金具まで取り付けた。

 気道を絞めず、しっかり頸動脈へロープを置き、あとは勢い良く足を宙へ投げ出した。
 一瞬の衝撃と痛み、そしてそのすぐあとに感じる、意識が沈んでいく感覚。

 あぁ。やっと。やっと成功した。
 望んだ死に、笑みが溢れた。



 ギィ、と軋んだ音を立てて揺れるロープをナイフで切る。重く、鈍い音を立てて床に落ちたアイツに、意識は無い。
 首にはっきりと付いた絞首の痕が随分と痛々しい。
 だが、死んだとは思わなかった。
 首が絞まりすぎたのか、体が痙攣を起こし、その刺激でアイツが目を覚ました。
 まるで状況を理解していない目が、ぼんやりと俺を映す。
「はよ。相変わらずしぶといな、手前は」
「……よけい、な……こと……しない、でよ」
 掠れた声が返ってきて、向けられる視点に力が宿る。
 相変わらず、コイツの生命力は相当なものらしい。

「せめて俺の家じゃねぇとこでしろ。止めてくれっつってるようなもんだぞ」
「きみに、ぼくの死体を、みせたいから、それでいいの」
「趣味悪ぃぞ」
 コイツが小さく笑った。

4/3/2023, 11:27:09 AM

  /1つだけ

「人間には心臓がひとつしかねぇ」
「そうだね」
「その心臓が止まったら、人間は死ぬ」
「そんなこと知ってるよ」
「止めてやろうか?」
 そこまで言って、アイツはようやく顔を上げた。まん丸く見開かれた黒い目は、どういう感情だろうか。

「ほんと?」

 言われた言葉は子供のようだった。「君に殺されるのだけはごめんだ」なんて言っていたくせに、今日は気にならないらしい。
「良いぞ。最高に痛くて苦しい方法でじわじわと心臓を止めてやる」
 そう言ってやれば「ばか」と聞こえてきた。
「楽に死ねるだなんて思い上がんじゃねぇよ。まず生きたまま心臓くり抜いてやるから大人しくしてろ」
「ちょっとやめて。痛いの嫌いなの」
「死にてぇんだろ?」
「僕は楽に静かに死にたいの。知ってるでしょ?」
「だが、俺が叶えてやる義理もねぇ。知ってるだろ?殺してもらえるだけ感謝しろ」
 ナイフを片手に馬乗りになろうとすると、アイツはすぐさま逃げ出した。
「絶対ヤダ! 痛くないよう一思いにして!」
「やなこった。おら、大人しくしてろ」
「馬鹿!」

4/2/2023, 10:32:49 AM

  /大切なもの

「もしも、僕が死ぬ時が来たら、君が一番大切にしてるものを壊して死んでやる」

 何を思ったのか、突然そんなことを言い始めたアイツに、適当な返事を投げる。
「本気にしてないでしょ」
「いや? 手前の事だから本気でやるんだろ」
「の、割に随分余裕げだね」
 アイツの顔は不服げだ。ここ最近俺が適当な返事ばかりだからつまらないのだろう。
「手前に俺の一番大切なもんが分かるわけがねぇからな」
 そういえば、ぱちぱちと目を瞬かせ、考え込み始めた。

「死んだ仲間に貰ったバイクとか、君秘蔵の超高級ワインとか……あ、ワーカーホリック気味だし、職場めちゃくちゃにするとか?」
 あげられたものは確かに、俺が大切にしているものだった。だが一番では無い。
 頬杖を付いて馬鹿にするように笑いながら酒をひとくち煽った。
 アルコールが喉を焼き、カッと体を熱くさせる。

「違うの? なら何さ、仲間?」
 アイツがめげずに言うから黙って首を振ってやる。
「君のくせに。嘘ついてるんじゃないよね」
「ついてねぇよ。言ったろ? お前にゃ分かんねぇよ」

 そう。分かるはずがない。
 自分ですら大切にできないお前の命が、俺が今一番大切なものだって。

 教えてやる気もねぇ。

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