死にたい少年と、その相棒

Open App

  /大切なもの

「もしも、僕が死ぬ時が来たら、君が一番大切にしてるものを壊して死んでやる」

 何を思ったのか、突然そんなことを言い始めたアイツに、適当な返事を投げる。
「本気にしてないでしょ」
「いや? 手前の事だから本気でやるんだろ」
「の、割に随分余裕げだね」
 アイツの顔は不服げだ。ここ最近俺が適当な返事ばかりだからつまらないのだろう。
「手前に俺の一番大切なもんが分かるわけがねぇからな」
 そういえば、ぱちぱちと目を瞬かせ、考え込み始めた。

「死んだ仲間に貰ったバイクとか、君秘蔵の超高級ワインとか……あ、ワーカーホリック気味だし、職場めちゃくちゃにするとか?」
 あげられたものは確かに、俺が大切にしているものだった。だが一番では無い。
 頬杖を付いて馬鹿にするように笑いながら酒をひとくち煽った。
 アルコールが喉を焼き、カッと体を熱くさせる。

「違うの? なら何さ、仲間?」
 アイツがめげずに言うから黙って首を振ってやる。
「君のくせに。嘘ついてるんじゃないよね」
「ついてねぇよ。言ったろ? お前にゃ分かんねぇよ」

 そう。分かるはずがない。
 自分ですら大切にできないお前の命が、俺が今一番大切なものだって。

 教えてやる気もねぇ。

4/2/2023, 10:32:49 AM