死にたい少年と、その相棒

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「人間には心臓がひとつしかねぇ」
「そうだね」
「その心臓が止まったら、人間は死ぬ」
「そんなこと知ってるよ」
「止めてやろうか?」
 そこまで言って、アイツはようやく顔を上げた。まん丸く見開かれた黒い目は、どういう感情だろうか。

「ほんと?」

 言われた言葉は子供のようだった。「君に殺されるのだけはごめんだ」なんて言っていたくせに、今日は気にならないらしい。
「良いぞ。最高に痛くて苦しい方法でじわじわと心臓を止めてやる」
 そう言ってやれば「ばか」と聞こえてきた。
「楽に死ねるだなんて思い上がんじゃねぇよ。まず生きたまま心臓くり抜いてやるから大人しくしてろ」
「ちょっとやめて。痛いの嫌いなの」
「死にてぇんだろ?」
「僕は楽に静かに死にたいの。知ってるでしょ?」
「だが、俺が叶えてやる義理もねぇ。知ってるだろ?殺してもらえるだけ感謝しろ」
 ナイフを片手に馬乗りになろうとすると、アイツはすぐさま逃げ出した。
「絶対ヤダ! 痛くないよう一思いにして!」
「やなこった。おら、大人しくしてろ」
「馬鹿!」

4/3/2023, 11:27:09 AM