お昼のソーメン、食べ過ぎた。
我々モンスター姉弟の食事担当、
テイちゃん(兄)は、料理上手である。
よって、余り物代表格ソーメンは、その座をあっさり下ろされることになるのだ。
「ゴマナッツ汁…あれ、めっちゃ美味かったよ」
流しソーメンパーティを終えた広い畳部屋で、座布団を適当に拡げ、ゴロゴロしている、オレとテイちゃんと、テイちゃん(弟)の上でゴロゴロしている姉さん。
「また作ってね♡」
と言うと、テイちゃんは顔だけこっち向いて、笑顔で頷いてくれた♡
テイちゃんの上で仰向けになってる姉さんが、ゆっくりこちらを向いてきたので、こちらもゆっくり天井に顔を戻す。
そういえば…流し素麺機には、苺や葡萄、チョコボールも流れてたな…あれってウチだけかな?
「ねぇ……っ」
姉さんが直ぐにこちらを見てきたので、直ぐに天井を見る。
ん?…姉さん、うつ伏せになって、テイちゃんと向かい合わせだったぞ。見る。やっぱり。
良いなぁ…オレだって小さい時は、しょっちゅうああやってたけど~…うぅ~。
羨ましがるオレと勝ち誇る姉さん。
……あ~よく寝た…な…!?
「テイちゃんっ」
うつ伏せのオレ、仰向けのテイちゃん、向かい合わせ!ポンポン付き♡照れるオレ。
「姉さん…は?」
隣の部屋を指差すテイちゃん、そこから急にテレビの大音量が聴こえてきた、お気に入りのドロドロドラマの再放送がやっているらしい。
時計を確認。
幸せの時間は、あと32分♡
親父は漁師だと思っていた。
初めて親父の船に乗せてもらって、俺は嬉しくて、はしゃいで、船酔いして、それでも俺は笑っていた。
親父達が他の船から、大漁の網を横取りするのを見るまでは…。
「海賊じゃねぇか!」
親父は不思議そうな顔をした、そうだ、親父は天然でお人好しだった。海賊のやることを、本気で漁業だと思い込んでいた。
「何だ??この女!?」
網を確認していた海賊達がざわつき出した。
拡げられた魚の中に、
銀の髪、大きな獣耳、獅子の様な長い尾が生え、紅い目をした少女がいた。
海から引き揚げられたのだから、人魚だとは思ったが、肝心の魚要素がどこにもない。
少女は海賊達の顔を、一人一人じぃと見つめた後、腕の力だけで前に進み、一人一人の匂いを、クカクカフスフス嗅ぎ回り出した。
下半身は使えない、というより、立ち上がったことがない様な、奇妙な動かし方だった。
やっぱり人魚の一種なのでは…?
その疑惑通り、少女の容姿は美しい。
全員を確認した少女は、用済みとばかりに、海へ帰ろうとする……が、濡れた布を纏った美少女を、男海賊が放っておく訳がなかった。
屈強な男が少女の腕を掴んだ、
すると少女は無表情のまま口を大きく開き、叫ぶ、のかと思ったが声が出ていない、微かに息の音がするだけだった。
まるで誰かを呼ぶ様に。
俺と親父は、こんな事は良くないよな…と目で会話をした、瞬間、
少女を掴んでいた屈強な男の手が、手だけが、ぼとり、と、散らばった魚の中に落ちた。
腕の方も血が出ていない?かまいたち…か?
そこにいる誰も状況が理解出来なかった。が、今度は俺と親父と少女を除く全員が、見えない何かに凪払われ、次々と海に落とされた。
少女の方に視線を戻すと、
白桃色の髪に紫の目をした青年が、少女を抱えて立っていた。
こんな海のド真ん中、船も無く、どっから来たのだろう。
腕の中の少女は、飼い主にやっと会えた犬の様に、青年の匂いを嗅ぎまくり、顔を舐め回し、体をクネクネさせて喜びを表現していた。
そんな少女を見て、青年はホっとした表情を浮かべながら、こちらを気にも泊めず、一番大きな魚を空いてる方の手で持ち、海の向こうへ、というか空に、跳んで、行った。
親父、仕事探そうぜ。
明日、もし晴れたら、姉さんがキレます。
初めまして、お久しぶりです。
山奥の秘境中の秘境村で暮らしている、
人型モンスター姉弟の謙虚な末っ子です。
山奥とはいえ、今年の暑さの異常さは、村にもしっかり届いております。
八割御高齢の村人の中には、エアコンぜってぇ使わねぇから組がいらっしゃいまして、そのノンエアコン組が、テイちゃん(兄)の説得により、連日ウチに泊まり込んでいるのです。
我が家はエアコン使う組なのですが、ノンエアコン組の為にエアコンを切り、姉さんの特殊能力[冷寒操作]により、家中を涼しくしています。
姉さんは、何ともモンスターらしいこの力を発揮し続ける事に不満なのではなく、いつもベッタリのテイちゃん(弟)を、ノンエアコン組のノンストップお喋り祭りに取られてしまった為、イラついておるのです。
姉さんはモンスターでブラコンなのです。
「しょろしょろ我慢の限界じゃびゃ……」
オレと対戦型のゲームをしていた姉さんが、ポツリと呟き、冷蔵庫から紙パックのかき氷シロップ(大容量)を取り出すと、腰に手を当て、グビグビと飲み干した。※絶対に真似しないで下さい。
外に出た姉さんは屋根に飛び乗り、
「ふり~はずめぇ~た~あしぇ~はっあすもとぉ~ちゃれてぇ……♪︎」
歌い出した!…いや待て姉さん、その曲はダメだよ、替え歌にしたってアカンて、ただでさえ、某Dプリンセ○とドン被り能力持ってんだから。
歌う姉さんが手を空にかざすと、6メートル位の白い氷柱が放射状に降り注ぎ、村を囲む様に山に刺さっていった。多分とけにくい特殊なやつ。
氷柱から村全体に、冷気が届けられる。
す…涼しい。
ちらほらと村人が外の様子を見に、家から出てきて、そのまま散歩やら、農作業を始めた。
ノンエアコン組もウチから出て来ると、
「らりごぉ~らりごぉ~♪︎」
姉さんはテイちゃんのたくましい腕を、小さな腕と、大きな胸で、がっちり掴み、家に入り、玄関の扉(横にスライドするタイプ)を閉めながら、
「しゅこぉ~しもっあちゅくにゃいわ♪︎」
……確かに。
体が参ってるのは分かってる。
次から次へと入る絵の依頼に、休みが埋められ、元々自分の休め方も解らないのも相まって、エネルギー解放ノンストップ状態に陥り、もはや不眠症とやらに成りかけている気がする。
何とか時間見つけて入ったこのカフェ。
所場代と称してドリンクが五百円超えるのは、大人になった今でも納得がいかない。
フライドポテトを注文したらチョコソースが付いてきた。このカフェへの好感度上昇。
で、そのチョコソースを狙う、隣の席の獣耳付き見た目AV女優…。
無言でチョコソースを差し出してみた。
「お主、良いやちゅ!」
こうして私は今日も徳を積む。
獣耳AV女優はチョコソースを全て、平皿のライスにぶっかけた。見なかったことにしよう。
「…じぇ、お主の悩みちょわ?」
獣耳AV女優は唐突だった。
流れに乗ろう、今の私に、流れに逆らう気力等無いのだから。
「良い人の顔して、人のネタをパクりまくる奴の評価が高いのが、胸くそワルいんですよね」
吐き出してみた。
「しょんなん、無視すりばエエよ。見なけりば、ソイツばお主の世界から追い出しぇるじぇ」
……そっか、そうだね。
「ありがとう」
「うむ」
カフェを出る時、背の高い獣耳男性と高校生の二人組と、すれ違った、獣耳AV女優の仲間だろう。
私はまた、最近の私のいつもの場所に戻る。
少しずつ、強くなってやる、
無敵になってやんよ。
モンブラコン*
~~~~~~~~~~~~『狭い部屋』
何となく狭い空間に居たい時って、ありまして。この時期のムシムシした部屋が、エアコンの除湿で調度良くなってきて、開け放して置いた押入れの上の段、畳まれた布団の上。
「極楽…」
丁度エアコンの風が当たるもんで、涼しい。
寝返りを打って顔に風が当たって、涼……!
「テイちゃん…♡」
両腕を布団に乗せ、重ねた手に顔を乗せ、オレを見つめる兄が居ました。背が高いもんで、押入れ上段なのに前のめり気味だ。
「あは…姉さんは?」
テイちゃんは上を指差してから、ヘッドホンの仕草をした。姉さんは二階で一人DVDを視ているらしい。ちなみにテイちゃんは喋れない身体なのだ。
一階にもテレビが有るのだが、二階でヘッドホンということは、いかがわしいDVD決定。
「姉さんたら…。ねぇテイちゃん、ここめっちゃ涼しいよ♪︎隣来る?…なんちゃって♡…わっ」
テイちゃんが隣にいらっしゃいました。
大の男が狭い押入れで二人、密着♡
テイちゃんがこっち向いて、背中に腕を回してポンポンしてくれた♡腕の重みが心地良い…。
オレが小さい頃もこうして寝かし付けてくれたよね、あの時は手の重みが心地良かったっけ♡
……あれ、マジで寝てた、重みが全体的に…!姉さんが、オレの上で寝てるぅぅぅ。
そういえば小さい頃、オレ姉さんの枕にされてた、今は敷布団か…。
姉さん、体温低いからワルくないな…。
また寝よ。