モンブラコン*

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 親父は漁師だと思っていた。
 初めて親父の船に乗せてもらって、俺は嬉しくて、はしゃいで、船酔いして、それでも俺は笑っていた。
 親父達が他の船から、大漁の網を横取りするのを見るまでは…。
「海賊じゃねぇか!」
 親父は不思議そうな顔をした、そうだ、親父は天然でお人好しだった。海賊のやることを、本気で漁業だと思い込んでいた。
「何だ??この女!?」
 網を確認していた海賊達がざわつき出した。
 拡げられた魚の中に、
 銀の髪、大きな獣耳、獅子の様な長い尾が生え、紅い目をした少女がいた。
 海から引き揚げられたのだから、人魚だとは思ったが、肝心の魚要素がどこにもない。
 少女は海賊達の顔を、一人一人じぃと見つめた後、腕の力だけで前に進み、一人一人の匂いを、クカクカフスフス嗅ぎ回り出した。
 下半身は使えない、というより、立ち上がったことがない様な、奇妙な動かし方だった。
 やっぱり人魚の一種なのでは…?
 その疑惑通り、少女の容姿は美しい。
 全員を確認した少女は、用済みとばかりに、海へ帰ろうとする……が、濡れた布を纏った美少女を、男海賊が放っておく訳がなかった。
 屈強な男が少女の腕を掴んだ、
 すると少女は無表情のまま口を大きく開き、叫ぶ、のかと思ったが声が出ていない、微かに息の音がするだけだった。
 まるで誰かを呼ぶ様に。
 俺と親父は、こんな事は良くないよな…と目で会話をした、瞬間、
 少女を掴んでいた屈強な男の手が、手だけが、ぼとり、と、散らばった魚の中に落ちた。
 腕の方も血が出ていない?かまいたち…か?
 そこにいる誰も状況が理解出来なかった。が、今度は俺と親父と少女を除く全員が、見えない何かに凪払われ、次々と海に落とされた。
 少女の方に視線を戻すと、
 白桃色の髪に紫の目をした青年が、少女を抱えて立っていた。
 こんな海のド真ん中、船も無く、どっから来たのだろう。
 腕の中の少女は、飼い主にやっと会えた犬の様に、青年の匂いを嗅ぎまくり、顔を舐め回し、体をクネクネさせて喜びを表現していた。
 そんな少女を見て、青年はホっとした表情を浮かべながら、こちらを気にも泊めず、一番大きな魚を空いてる方の手で持ち、海の向こうへ、というか空に、跳んで、行った。

 親父、仕事探そうぜ。

8/23/2023, 8:12:07 PM