紅月 琥珀

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2/22/2025, 1:18:24 PM

 はじめて君と会ったのは、私が落ち込んで1人泣いている時だった。
 仕事でミスして怒られて、歩いてるだけで何かにつまずいてコケるし、買ったばかりのタイツはダメにするしで酷い1日で⋯⋯嫌になって仕事終わりに公園のベンチで静かに泣いてた。
 そんな時に、にゃあって声かけて隣で寄り添ってくれたのが君だったね。
 漆黒の猫ちゃん。触っても嫌がらずに寧ろ擦り寄ってくれて、凄く癒やされたのを覚えている。

 あの日から毎日を君と過ごして、何度も家においでって言ったのに袖にされ続けた。それでもここに来続けたのは、いつか君の気持ちが変わって私のお家に来てくれるんじゃないかって下心から。
 でも結局そんな日は訪れないまま、世界は終わりを迎えるらしい。

 数ヶ月前から仕切りに報道されるニュース。
 いきなり軌道を変えた巨大な隕石が地球に向かっていて、撃ち落としても細かな破片が地上に降り注ぐからとか何とか。でも、運が良ければ生き残れるらしい。

 この数ヶ月間考えに考えた結果。私は今までの様に君と過ごして一緒に最後を迎えたいと思った。
 それでもし、運が良くて一緒に生き残れたのなら⋯⋯救われる気がするから。
 その為にこの公園に来て、いつものベンチで待ってたけど⋯⋯今日に限って君が来ないの。
 待ってる間に差し迫っていく時間の中で、きっと届いても君には読めないであろうこの手紙を書いています。

 たくさんの癒しと思い出をありがとう。もし、一緒に生き残れたらまた何処かで会いたいです。
 それが叶わないなら、せめて君だけでも安らかに眠れるように願います。
 そして死後の世界があるのなら、あの日君と見た虹の橋を―――君と一緒に渡りたいです。

 ◇ ◇ ◇

 それは私がはじめて隕石の欠片の落下地点を見つけて2週間程経った頃。
 ある街中を歩いていると、にゃあと可愛い鳴き声が聞こえて、その声のする方に向かって歩いていた時だった。
 猫の鳴き声はするのに、全く姿が見えなくて⋯⋯それでも声のする方へ進むとその先には公園があった。

 中に入るとアスレチックが併設された大きな滑り台の残骸があり、その奥にはベンチとそこに座る少し焼けた人がいる。
 その人は背後にカバンを置いていて、申し訳なく思いながらも⋯⋯そのカバンの中身を見させてもらった。
 すると、彼女の最後の手紙が見つかり一緒にいたかった猫ちゃんの事が書かれていた。

 私はその付近を探し、それらしき黒猫が花を咥えて息絶えているのを見つける。
『君が私を呼んでたんだね。大丈夫、任せて!』
 ちょっとごめんね。そう言ってからその子を抱き上げてあのベンチまで戻った。この子は周りの木が守ってくれていたらしいが、やはり少し焼け爛れている。
 猫ちゃんを彼女の膝の上にそっと寝かせて、彼女の手紙は鞄の中に戻しておく。
『2人で虹の橋、渡れると良いね。良い旅を』
 そう2人に伝えてから、私はその場を後にする。
 いつか、私も綺麗な虹を渡れる日が来るのだろうか?
 そんな、事を思いながら⋯⋯瓦礫と死臭のする街を、旅していくのだった。

2/21/2025, 3:10:19 PM

 煌めく星空を見て、本当に嬉しそうに笑う君が好きだった。
 だからあの時、君が夢に向かって進もうとしているその背中を押したわけだけど⋯⋯もし、こんな事になるって知っていたら止めていたかもしれない。

 覆水盆に返らず。後悔も先に立たず。
 なら僕達はあの時どんな選択をしていたら共にこの終末を迎えられたのだろうか?
 答えのない問いを繰り返し、最後の最後まで女々しくも君に縋り付く僕を⋯⋯どうか嘲笑(わら)って下さい。

 自問自答の末に導き出した答えは、君との思い出が詰まったプラネタリウム。その近くのベンチで、君が好きだった本を机がわりに今、この手紙を綴っています。
 きっと君も星の綺麗に見える場所で、終わりを迎えると思うから⋯⋯最後の場所はここにしました。
 死んだら人の魂は星を巡るのだと、君の好きな作品に書かれていた事を信じてた君にならって、僕もその鉄道に乗れたらと祈りながらこの場所できたる時を迎えようと思います。

 でも、本当にもしもだけれど⋯⋯叶うのなら君だけは、夢を見続けて輝き続ける君にだけは⋯⋯この終末を生き抜いて欲しいと思ってしまうのは僕のワガママなのでしょうか?
 きっとその答えもわからないまま、僕の人生は終わってしまうのでしょう。
 死後の世界があって僕の所に鉄道が来なかったら、夜空を駆けて君の街まで必ず会いに行きます。そう誓うから、どうかその時は待っていてくれると嬉しいです。
 しかし今、これを読んでいるのが君ならば、僕の事など気にせずに、最後まで君らしく生き抜いて欲しいとそう思います。
 全く知らない人が読んでいるなら、出来ればこの手紙だけでも彼女の元へ届けて欲しいと願います。
 大変ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします。

 ◇ ◇ ◇

 それは大きなプラネタリウムがある街だった。
 町外れの木々が生い茂る中、舗装されていたであろう道を進んでいくと、開けた場所に大きな建物が佇んでいる。
 その少し外れた場所にベンチが2つ並んでいて、その1つにその人はもたれるように座っていた。傍らには有名な作家さんの本。そこに挟まれて、少し飛び出している紙を発見し、悪いと思いつつも勝手に拝借し開いてみたら手紙だった。
 この人は彼女の事を本当に愛していて、だからこそ一緒にいたいのを我慢してまで夢を叶えようとする彼女の事を送り出したんだろうなって、この手紙から凄く伝わってくる。

『私ね、今あるおじいさんの影響で終末(この)世界を旅してるんだ。だからもしかしたら、その人にも会えるかもしれないから、このお手紙持っていくね』
 もう返事の返ってこない彼にそう伝えると、傍らの本に彼の手をそっと添える。
 そうしてそのプラネタリウムを抜けて、また別の街を目指して歩いていく。
 道中夜を越えるために野宿した場所で眺めた夜空はとても綺麗で、彼がこの星空を駆け抜けて彼女に会えたら良いなと思いながら、その日は眠りについたのでした。

2/20/2025, 2:10:14 PM

  その人に会ったのは桜の綺麗な季節で、黒い髪を靡かせながら花を愛でるその横顔に⋯⋯目を奪われたのを覚えている。

 彼女は私と同じ新入生だった。同じクラスだったのにも驚いたが、新入生代表として壇上に上がり言葉を述べる姿は、先程見た儚げな印象とは異なり⋯⋯とても凛々しく前回とは別の意味で見惚れてしまった程だ。
 それからはクラスメイトとして、彼女を目で追う日々が続く。
 文武両道、眉目秀麗。この言葉は彼女の為にあるものだと思う程に、どんな事でも完璧にこなしてみせる。勉強も運動も出来て、誰とでも対等に接する彼女は皆からも慕われていて、私なんかが入る隙など最初からなかったと思う。
 それでも、クラスメイトとして彼女を見ていられたらそれで幸せだった。私には無いものをたくさん持っている彼女の隣になんて、恐れ多くて立てる気がしないから⋯⋯きっと卒業まで殆ど関わることなんてないだろう。
 そう思っていたのに⋯⋯⋯彼女は何故か私に構うようになったのだ。
 ある日突然、それこそ何の前触れもなく。そもそも彼女には割と仲良くしていたグループが複数あったはずなのに、なぜ私のところに来たのか⋯⋯全く理解できなかった。
 しかし、本人に聞く勇気もなく⋯⋯憧れの彼女を間近で見れると欲をかいた結果。私は今、最大のピンチを迎えている。

『ぼーっとしてどうしたの? 具合でも悪い?』
 心配そうに私の顔を覗き込む彼女がそう聞いてくる。凄く優しい⋯⋯最高に好(はお)。しかし、2人きりでのランチとかいうレアイベントが現在進行形で起きているこの状況で、普通にしてろというのは酷な話だと思うのです神様。

 ただ緊張のあまり何を話して良いのか分からないだけなので、本当に気にしないで欲しい。
 その事を伝えようにもどもってしまい、上手く伝えられないでいた。
『ゆっくりで良いよ。どんなに時間がかかっても、私ちゃんと聞くから』
 緊張して強く握っていた私の手に、彼女がそっと自身の手を重ねる。もう、頭はオーバーヒート状態でどうすれば良いのか分からずにいた。
『⋯⋯間違ってたらごめんね? もしかして、緊張してたりする?』
 彼女の問にこれ幸いとコクコクと頷く。すると可愛らしい笑い声が聞こえて、彼女はまた私の顔を覗き込む。
『そんなに緊張しなくて良いのに。私達同い年なんだから普段通りに接してくれて良いんだよ』
 はぁ⋯⋯本当に好きだな。
 そう思う程に彼女は綺麗な笑顔でそういった。しかし、何故か驚いた顔をした彼女。そのまま少し固まって、次の瞬間には顔が赤く染まっていく。
『⋯⋯ずるい人。本当はもっと仲良くなってから、素敵な場所で私から言うつもりだったのに⋯⋯でも、同じ気持ちだったの、嬉しい』
 はにかみながらそう言う彼女に、私は先程心の中で思った事が口に出ていたのだと理解する。慌てふためく私に―――皆には内緒で付き合ってほしいの、と彼女から言われたら、もう頷くしかなかった。

 そこから秘密の関係を続けている。
 皆の前では友達として振る舞い、2人きりの時には恋人として。
 私達の想いは、他の人達には理解されないだろう。きっとこれからも、もしかしたら死ぬまでそうなのかもしれない。
 そんな秘密の恋を続けながら―――2人で手を取り合って、これからを生きていくのだろう。

2/19/2025, 1:59:58 PM

 夕暮れ時の校舎を駆け回る。
 校庭からは運動部の声。校舎内に響く吹奏楽部の練習音。
 それらを何処か遠くに聞きながら、私は必死に走っていた。

 ◇ ◇ ◇

 それは突然感じた違和感だった。
 昨日まで普通だった友人が、何か変に思えて⋯⋯でも、何が変なのか分からずに酷く困惑したのが今朝の出来事だった。
 それから彼女を観察していく内に、その違和感にようやく気づいたのが昼休み前の授業でのこと。
 幾つかの違いはあれど、1番は利き手と逆の手で文字を書いていた事だった。
 彼女は右利きなのに何故か左手で文字を書き、お箸も左で持っていた。そこからは芋づる式にいつもと違うところを見つけていき、そして放課後になってから私は彼女を空き教室に呼び出して本題に入る。
『あなたは誰? 私の友人を返して』
 そう言うと、彼女の顔はニタニタと笑いながら歪み―――なんで分かった? とおぞましい声で答えた。
そして、私は彼女の違和感を指摘するとそのナニカは、日が沈むまでにこの敷地内の何処かに居る本人を見つけられたら返してあげると、そう言って姿を消した。

 私は自分で見つけた昨日と今日の彼女の違いをノートにリストアップしていく。
 そうすると、浮かび上がるのは全て反対になっているという事実。なら、もしかしたら⋯⋯あれは鏡に関係しているナニカなのかも知れないとあたりをつけてから、他の友人たちにメールを一斉送信して、学校の七不思議でもなんでも良いから鏡に関する噂がないかを聞いた。

 時間は掛かったけど、1人の友人のそのまた友人の知り合い辺りの人から有力な情報を手に入れられた。
 それは旧校舎にある第2音楽室付近、階段の踊り場にある大鏡を使ったおまじない。
 何でも夕暮れ時にその鏡に向かって、あなたは誰? と3回唱えると返事が返ってきて、その誰かが提案した遊びに勝つと何でも願いを叶えてくれるらしい。
 何処にでもありそうな噂話だったが、この情報に辿り着くまでにかなり時間がかかってしまい、もうあとがない状況だった。

 藁にも縋る思いで旧校舎まで駆け抜ける。
 走って、走って、息苦しくなるのも構わずに⋯⋯足が疲労で縺れそうになるのを堪えながら。
 そうして辿り着いた旧校舎も全力疾走で駆け上がり、第2音楽室付近の階段踊り場の大鏡に辿り着く。
『美織! 美織、居たら返事して! お願いだから!』
 大鏡に向かって声を張り上げた。
 すると鏡に写っていた私の姿が歪み、探していた彼女の形になる。
 段々と鏡面が波立っていき、そこから飛び出すように美織が私に向かって倒れてきた。
 それを咄嗟に受け止めようとしたけど、ここまで来るのに足を酷使していた為⋯⋯踏ん張りがきかず、一緒に後ろへと倒れ込む。

『後、少しだったのに⋯⋯どうして―――』
 あのおぞましい声が聞こえると、その大鏡には形容し難い化け物の姿があった。
 真っ赤に染まった旧校舎とおぞましい化け物が鏡面に写り込んでいたが、少しすると完全に消えさり私達だけを正しく写すようになる。
 近くの窓からは微かに夕日が漏れており、ギリギリだったけど⋯⋯何とか間に合った事に安堵した私は美織を起こす。
 彼女は不思議そうに私の名を呼ぶが、それに構わず私は事の経緯を説明した。
 段々と思い出してきたのか、顔を青ざめさせる彼女に私はどんな理由があれ、2度とこんな危ない真似はしないと約束させて、2人で教室へと戻り帰路へと着いた。

 それから、私の周りで変な事は起こっていない。
 けれど、時々耳にする。
 旧校舎の第2音楽室付近の大鏡のまじないの噂。あれは正しくは魂魄返しというらしく、この地域に昔から伝わるまじないの一種なのだと言う。
 古くから口伝で伝えられていたものだから、何処かで曲解されて伝承されたのでは? と、今回の事をおばあちゃんに話たところそう返された。
『もう、2度とあんな体験したくない』
 そう吐き捨てる私に、おばあちゃんは笑いながらも、良く頑張ったねぇと呑気に言って頭を撫でた。

2/18/2025, 5:26:51 PM

 最近、風の噂で耳にした。
 ずっと好きだったあの人が天へと昇ったことを。

 初恋は実らないなんてよく聞くけれど、事実⋯⋯私の初恋もそうだった。
 とはいえ、私の場合は伝える気がなかっただけなのだけど。それでも、実らなかった事に変わりはなかった。

 他の子達は恋人同士で色々としたかったみたいだけど、私は同じ空間で彼の一喜一憂する表情を見てるだけで良かったし、たまに話せただけで充分幸せだったから⋯⋯それ以上なんて考えられなかったのだ。
 今思えば、恋と言うには欲が足りず。愛と言うには拙過ぎる。どっちつかずの初恋だったのだと思う。
 そんな私も、もう大人になって忙しなく働く年齢になった。色んな事を経験して、社会に揉まれて大変な思いをしつつもお一人様を謳歌していた⋯⋯そんな時に、昔馴染みから彼の訃報を知らされる。

 そうして1つ思い出したことがあったから、訃報を聞いた日の週末に実家へと帰った。
 両親は驚いていたけど、私は曖昧に返してさっさと自室へと向かいクローゼットの奥にしまったクッキー缶を取り出し開ける。
 そこに詰まっていたのはたくさんの手紙。私は伝える気がなかったけど、それでも募る思いを吐き出す場所が欲しくて⋯⋯何年も彼宛に書き連ねた手紙だった。
 懐かしくも少し恥ずかしい気持ちになりながらも、一つ一つ開封して読み返していく。
 それは酷く拙い文章で書かれた恋文(ラブレター)だったけど、それを読み返す度にあの日々が昨日のことの様に鮮明に思い出せた。
 読み返す度にどうにもむず痒い感覚はあるけれど、本当に好きだったんだと今も思える内容だった。だからこそ、彼の訃報を聞いて⋯⋯これを供養してやろうと思ったのだ。
 もう決して届かない手紙。でも、あの時の私の気持ちがたくさん詰まった大切なモノだから―――このタイミングで私の気持ちごと全部燃やそうと決意する。

 本当は会えなくなった今でも忘れられなくて、でももう叶わないってわかってたから、何度もこの気持ちを捨てようと思ってた。それでも出来なくて、違う人を好きになろうとしても彼を思い出して比べてしまう。
 今までお一人様だったのも、初恋を拗らせていたから。
 あの日もし気持ちを伝えていたら全部変わったのかなって何度も思って、その度に手紙を書いていた。
 その日々を終わらせるために実家から離れて、仕事に没頭し考えないように日々忙しなく過ごしていたのに―――いつまでも彼は私の中から消えてくれなくて⋯⋯そんな矢先に聞いた訃報だったから、これを気に全てを燃やそうとここまで来たのだ。

 季節は秋。食べ物が美味しい季節であり、それを口実にするためにしっかりとさつまいもと⋯⋯ついでにマシュマロも買って偽装は完璧。
 私は早速、両親に焼き芋作りたいって口実で庭を借り、缶の中の手紙と⋯⋯昨日新たに書き綴った彼への最後の手紙を持って、庭先に落ちた枯れ葉と枝で火を起こし、少しずつ手紙を燃やしていった。
 アルミホイルに包んださつまいもを中に入れコロコロ転がしながら、合間に手紙を焚べつつ逝去した彼への祈りを捧げる。
 手紙を全て焚き火に入れ終わったら、今度はマシュマロを串に刺し、焼いて食べながら焼き芋が出来上がるのを待つ。

 ゆらゆらと炎と共に、少しの灰が舞う。天へと昇るようにひらひらと。
 もう死んでしまったから、きっとこの手紙が彼に届いても時効だろうと―――そんな事を思いながらその炎を見つめていた。
 そうして全てが灰になった頃に焼き上がった焼き芋を両親と分けながら食べる。
 そのまま燻り続ける初恋ごと飲み込んで、全てなかった事に出来る事を祈りながら⋯⋯その日は実家に泊まって、昔を懐かしく思いながら眠った。

 次の日には両親にお礼を言って帰ったのだが、その翌週。
 今度は両親から呼ばれて実家に帰る羽目になる。
 家に着くと知らない夫婦がリビングに居て、私は会釈するとお母さんの隣に座った。
 端的に言うと⋯⋯この夫婦は彼の両親であり、遺品を整理していたら出てきた物を渡しに来たのだという。
 正直、そこまで仲が良かった訳では無いので、私宛の物がある事に驚きを隠せない。それでも、せっかくなので受け取るとそれは少し色褪せた手紙だった。
 気になった私は許可を得て、その場で手紙を読み進めていく。
 読んでいく中で、段々と堪えられなくなって⋯⋯それでも涙で手紙を濡らさないように、注意しながら最後まで読んだ。

 それは十数年越しの恋文(ラブレター)。
 上手く喋れなくて、今まであまり話せなかった事への後悔と、私のどんな所が好きだとか。あの日私と2人で作業出来て嬉しかったとか⋯⋯そういう事がたくさん書かれた手紙だった。
 2人して同じ様な後悔をしていたみたいで、泣きながら笑ってしまう。
 せっかく先週燃やしたのに、結局違う形で帰ってきた私の初恋は―――ともすれば、私が死ぬまで終わらないらしい。
 いや、もしかしたら⋯⋯死んでから、はじまる初恋なのかもしれない。なんて馬鹿な事を思うくらいには、衝撃的な出来事だった。

 気持ちを捨てたくて燃やした手紙の行方は、きっと彼の腕の中。
 彼が出したくても出せなかったその手紙が、あの手紙への返事なのだと勝手に思いながら―――私は今日も、あの日の初恋に振り回されながら生きていくのだった。

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