紅月 琥珀

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 煌めく星空を見て、本当に嬉しそうに笑う君が好きだった。
 だからあの時、君が夢に向かって進もうとしているその背中を押したわけだけど⋯⋯もし、こんな事になるって知っていたら止めていたかもしれない。

 覆水盆に返らず。後悔も先に立たず。
 なら僕達はあの時どんな選択をしていたら共にこの終末を迎えられたのだろうか?
 答えのない問いを繰り返し、最後の最後まで女々しくも君に縋り付く僕を⋯⋯どうか嘲笑(わら)って下さい。

 自問自答の末に導き出した答えは、君との思い出が詰まったプラネタリウム。その近くのベンチで、君が好きだった本を机がわりに今、この手紙を綴っています。
 きっと君も星の綺麗に見える場所で、終わりを迎えると思うから⋯⋯最後の場所はここにしました。
 死んだら人の魂は星を巡るのだと、君の好きな作品に書かれていた事を信じてた君にならって、僕もその鉄道に乗れたらと祈りながらこの場所できたる時を迎えようと思います。

 でも、本当にもしもだけれど⋯⋯叶うのなら君だけは、夢を見続けて輝き続ける君にだけは⋯⋯この終末を生き抜いて欲しいと思ってしまうのは僕のワガママなのでしょうか?
 きっとその答えもわからないまま、僕の人生は終わってしまうのでしょう。
 死後の世界があって僕の所に鉄道が来なかったら、夜空を駆けて君の街まで必ず会いに行きます。そう誓うから、どうかその時は待っていてくれると嬉しいです。
 しかし今、これを読んでいるのが君ならば、僕の事など気にせずに、最後まで君らしく生き抜いて欲しいとそう思います。
 全く知らない人が読んでいるなら、出来ればこの手紙だけでも彼女の元へ届けて欲しいと願います。
 大変ご迷惑をお掛けしますが、よろしくお願いします。

 ◇ ◇ ◇

 それは大きなプラネタリウムがある街だった。
 町外れの木々が生い茂る中、舗装されていたであろう道を進んでいくと、開けた場所に大きな建物が佇んでいる。
 その少し外れた場所にベンチが2つ並んでいて、その1つにその人はもたれるように座っていた。傍らには有名な作家さんの本。そこに挟まれて、少し飛び出している紙を発見し、悪いと思いつつも勝手に拝借し開いてみたら手紙だった。
 この人は彼女の事を本当に愛していて、だからこそ一緒にいたいのを我慢してまで夢を叶えようとする彼女の事を送り出したんだろうなって、この手紙から凄く伝わってくる。

『私ね、今あるおじいさんの影響で終末(この)世界を旅してるんだ。だからもしかしたら、その人にも会えるかもしれないから、このお手紙持っていくね』
 もう返事の返ってこない彼にそう伝えると、傍らの本に彼の手をそっと添える。
 そうしてそのプラネタリウムを抜けて、また別の街を目指して歩いていく。
 道中夜を越えるために野宿した場所で眺めた夜空はとても綺麗で、彼がこの星空を駆け抜けて彼女に会えたら良いなと思いながら、その日は眠りについたのでした。

2/21/2025, 3:10:19 PM