美貌と愛想があれば大丈夫!
みんな僕のことが大好きだ!
軽いステップ踏んですれ違う人々にニコニコ愛らしい顔を見せつける
周りの人惚れさせるよな愛想を振り撒く
きらきらふわふわ愛され少年のできあがり。
僕の頭柔らかく撫でてくれる手を握る。
第二関節の断面を指の腹で触れる。シャツから刺青が透けて見える。
今夜も部屋に来いって合図に、頬の膨れ上がった鋭い古傷へキスを返す。
上がった片眉にすぐに口へキスを落とせばニッと満足気に上がる口角を目でしっかり辿って、今日も胸を撫で下ろす。
みんな僕のことが大好きだからよく夜中に僕の部屋に勝手に入ってきちゃうんだ。いっぱいくっ付きたいみたいでさ、寝かせてくれないんだ。
まぁどうせ寝れないからいいけどさ。
女性の黒板を爪で引っ掻いたような声が耳をつねる
ママは僕が死んで消え去ることを望んでる
細い手に握られた包丁の鈍い光は、僕に向いて追いかけ回される。
呼吸が 熱が 声が 思考が 感情が 内臓が 身体が
全て蝕まれそうでとても恐い。身体が動かせないや。
パパのあの真っ黒な眼だけ、ワンシーンだけ覚えてるよ
伸ばした手の先にはパパしかいないのに、目が合わされば離され僕なんて見えず聞こえないように消えてった。
ぐちゃぐちゃの黒が纏ったあの顔は覚えてないのに
似た雰囲気を見つけると呼吸が乱れる
低くて空洞な声が脳裏に住み着いて僕を睡眠障害に陥れる。
さよならを言われる前に
裏の世界に片手で突き落とされて
もうこちらは見ていないんだ。
どこで何をしてるの?
僕はママとパパが大好きだよ。
『助けに来てよ』真っ黒な脳内の中毎晩呟いてしまう
売った張本人の貴方たちに。
あぁ僕はどこまで健気なんでしょう。
ほんと馬鹿でしょ
聞こえる言葉と見える口の動きは違うから、あぁまた頭ばかんなっちゃったなってへらへらと笑うことしかできない。
へらへら流して留めないことだけが僕の取り柄だからさ。
握った銃は思ったよりおもちゃと然程変わんなくて
ただのごっこ遊びだと言い聞かせて、口角を上げて鼻歌歌う。引き金に力込めて、跳ね返ってきた鮮明な絵の具を浴びる。一際高い笑い声が出て、
あぁ、
ふふ…
ばかんなっちゃった。
ご褒美だって出された甘ぁい桃色デコレーションのパフェを頬張れば「可愛いな」と頭撫でられる。
もたれて喉焼いて渦流れるパフェが
ほんと美味しく無いなぁ。
好きの数を数えて深呼吸する
痺れて冷たくなった腰やふくらはぎは細くて憎らしい
強ければ。
可憐でなければ、愛想の鎧をつけなくてよかったのに。
無条件のとか、無償のとか、永遠の、とか無いんだしさ、
商売で得たものでも構わないでしょ?
ね、僕って幸せだよ。
ね。
花の香りと共に塩味を感じる。
頬を頻りに這う涙と垂れ流れる鼻水が口内に混じり入っている
自分で見なくともわかる
見たくもない
酷い顔をしているだろうから、
こっちを見るな。
桜がひらひらと拳に舞い落ちた。
忌々しく
唇がはち切れそうになる
皮膚ごとその花弁を爪でぐちゃぐちゃにしてやる。
扇動も捏造も演技も仕事のうち
感情を殺す対価に事勿れを得ている
商売をしている
損得はもはや分からない。
クラスみんなが手を挙げているから手を挙げた
だから僕は常識人
そういうことで。
浮かぶ思想は大体潰されるから
思考も止めた方が吉だった
気づかないようにそっと目を閉じた
見て見ぬ振りは悪いことじゃ無い
あくまでもこれは保身で
身を滅ぼしてまで人を助けろというのかい
自己犠牲を積極的にと勧めておいてアフターケアなんて無い
口先だけで責任なんて負うつもりないんだ
純粋を穢されて何を思うかは分からない
随分昔のことだろうし
きっと君も思い出せないよ
思い出したくないよ。
正装を纏って
今日も読まれない口角を固める。
鏡に映る奴は自分ではない。
全てを飲み込んで忘れろ。
そんなのあまりに粗治療。
好きは大体冷めてしまうから
真っ赤に見えるのはフィルムに包まれているからで
見たくなくてもどうやったって劣化して剥がれる時が来るし
フィルムを開封して中身を見ると
なぁんだ。
なんて思うから。
お腹が空かなければ楽なのに。
お腹が空くから得られる幸福感があるっていうのに。
『可哀想』
最大限の侮辱発言だと思う。
都合の良い人を被れば都合良くなるならばそれでいい
それで、いい。
善意だけの行いなんて無い
そう言うとそうとも限らないよなんてほざかれるから
もう何も言わない。
どうでもいいなんて言葉に重きを置けば破滅に使われる
舌の上で転がる飴は随分と小さくなっている
ガムのように味がしなくなったような気がするのは単なる気のせいかな
暖色ライトにやけに苛つく夜があった。
むず痒い髪の毛は薄ら緑。
心のざわめき
それはよく知っている
一寸の狂いもないよう測った
ツルが巻き付く喉仏は捨てた。
焼却炉で温めたはずのご飯は、灰になっていて、
後から知って当たり前だと理解する。
人々からの深い視線の色は見えなかった
指で形を作るだけじゃ分かりきらないと知った
安全は食べても消化される
危険は食べたら消化されない
そうして体内にいまだにゴロついてる異物が
ふと、
どうにも…。
公園を通りかかると
視界に浮いた水玉が風に揺れる
見つめる余裕はなくて
足を速めた風で切って消した。
握ったはずの拳はいつしかほぐれていた
自分の意思で握れなくて
あぁ自分のじゃないから当然かと腑に落とす
冷えたボロネーゼが口で弾けた。
草木が薄暗い風にゆらゆらと身体を揺らすものだから
届かない罵倒を溢れた唾液が土染みる
空を見上げれば灰色
眼がおかしい空がおかしいのか確認する気は起きない
降っていたはずの雨は地に横たわっている
もっと暴れてくれよ
エアコンに靡く洗濯物が雑巾に見えた
気持ちの悪い音が耳の奥に住み続けていて
静かな夜が訪れるのがあまりに恐ろしい
いつしか目が覚めたら何も見えなくなって
暗闇に閉じ込められるかもしれない
そんな妄想で私は死ねる
沁み込ませたいものは大体触れると砂屑になって指指をすり抜けて
朽ちていってしまう
触らない方が綺麗だから
ただ笑って見つめている
怖がらせないように
遠く
遠く
遠くから。
人の命を奪いながら生きている
少しずつ削り落としていく
そうしている間に自分も削れていっている
どこにいても
何をしていても。
マスタード色のハンカチが鮮やかで気色悪かった
きっときみからみたら
薄暗い世界で立ち竦む僕の方が気色悪いんだろうけど
薄暗い世界から見る色はあまりに不自然で
込み上げてくる嘔吐物は無臭だった
みんなが明日の方向を向いて時間を決めるなら
僕はその規律を壊すために昨日へ走る
誰かに追いかけられても追いつかれないように走る足を止めない
ほつれて崩れて腐敗するまで止めない
もしそうしたことで全てが壊れたならば僕の本望だ
過去も未来もない
右が左かじゃない
どんな線もないまっさらな世界で
迷走する誰かがいるなら
線を生み出す誰かがいる
そんな奴を僕は異端者と言って火炙りにしてやる
いつかの君みたいに。
願いが1つ叶うならば。
そんなことを口走る程の想いは何一つ無いはずだ。
だけどふとした瞬間、脳裏をよぎるのはただ一つこの言葉で。
だから彼のこと、多くは語らないでおこうと思う。
あまりに朧げな記憶…いや、視界。
淡いフィルターがかかったような世界が広がっていた。
どこからか垂れ下がる目元の位置に広がる藤の花はどこか白けていた。藤を分けて、焦る気持ちに押されて前へ進むと、その先に彼がいた。その人の顔を見ようとすればするほど見えない。ピントが合わなくて、ぼやぁっとしている。
ただ彼のかき分けた藤そのものの、長く垂れ下がる髪をよく覚えている。
今でもあれが夢だったのか、それとも違うのか。ハッキリしない。
だってあの時見たあの人は、今僕の目の前にいるから。
「ねぇ、ただの嘘をつけばそれは嘘吐きだけど、人々を魅了するような嘘なら、小説家になれちゃうんだよ」
落ち着いた低めの声は、酷く穏やかで一定の何所を彷徨い続ける。いつかに聴いていたオルゴールみたいだ。
大抵はこっちの反応なんて気にしちゃいない。独り言かのように遠目をして話す彼だけど、それは確かに俺に向けられている。
「僕がついた嘘」
あ、俺の眼を見た。
「君だけはずっとずっと、知らないふりしてね.」
まただ。
「きっとだよ。」
“きっとだよ。”約束だよという意味だと、解釈している。
こういう独特な言い回しも今となっては慣れたもので、それらは耳を優しく撫でる。
嘘…何のことなのか分からない。
俺は知らない、
彼のついた嘘なんて。
そう言っても、
『いいや、君は知っているよ』
そう言われる。
深い黄緑が太陽のもとで涼やかに微笑む森の中、こぢんまりとした木造りの小屋がある。中はたくさんの花が溢れている。奥には白いシーツのベット。両開きの窓から吹き抜ける森の風の匂いが、さりげなく肌を撫でる。ベット上の彼が靡かせるいつかに見た藤が、何かの柔軟剤によく似た甘くて柔らかい、自然の布団。そんな匂いを纏わせている。
そんな小屋に足を踏み入れると、どこか身体が上も下もないぬるま湯に浮遊しているような感覚に陥って、生温かくて鈍い。
儚い夢をずっと見せさせられている。
「ところで君はさ、僕が何で床に臥せっているのか知ってる?」
出会った時から…いや、どうだったかな。いつからかハッキリと記憶になっているものから振り返ってみれば、記憶の中の彼は常に蒼白い顔と細い手脚。咳なんかを時々して、いつも調子が悪そうで、大体ベットで過ごしている。
「知らない」
「ふふ、おかしいね。毎週末お見舞いに来てるっていうのに」
ふわふわと漂ってしまう向けられた言葉は見当も付かないもので、俺のどこにも留まらない。
考えることも無い
考えたくても、考えられない
少し頭がくらつく甘い匂いはずっと鼻腔でゆらゆら踊っている。いつまでも。
「僕が死んだら、君に夢の目覚めを教えてあげられる」
「気になる?」
鼻腔をツンと刺す。その芳香を目で辿る。
「…葉っぱ? 花じゃない…」
「ヒサカキっていう木だよ。よく見てご覧よ、花は咲いているよ」
「あ…ほんとだ」
小さい花が、ところどころ咲いている。蕾がたくさん、木についている。
「俺、そろそろ行きます」
「梟に尋ねにでも行くのかな?」
「自分の家に帰るんだよ」
「わぁ、君の家か。どんな家なんだろう」
「今度招待するから、来てよ」
「やだなぁ。………」
「…死なないでね」
「…参ったな、君にそんなことを簡単に言われちゃうなんて」
「また来週 。」
毎度どこか掻きむしりたくなるような淋しさが滲むこの帰りは、喉から搾り出した“また来週”。どこか掠れてしまって、我ながら不器用な微笑みを残して、軋む木のドアを閉じた。
閉まるドアの狭まる隙間から見た彼は、もうこちらを見ていなかった。
「ねぇ、貴方ってブラックコーヒー飲めないんじゃ?」
毎回品種はマンデリンに、必ず角砂糖を11個入れる貴方が、何でもない顔をして角砂糖一つも入れずブラックコーヒーを飲みながら、夜明けの空を窓越しに見つめている。
「あぁ、本当だ。ブラックコーヒーだ」
「……本当だ、って貴方十日間便が出ていないからって頭にまで支障が出たのね」
「わぁ、なんでそれを知ってるの?慢性的便秘だけどここ最近はやけに出ないんだ。しばらく自分の糞を見てないから、どんな色だったか忘れちゃったよ。恋しいな」
微かに目頭に力が入ったのを、私は見逃さない。
苦しい時に無意識に出る貴方の癖。
苦しむくらいなら、下手な嘘を並べなければ良いのに。
あんなこと、しなければよかったのに。
「彼を殺害したのは貴方でしょう」
「……どうして?」
目頭に筋が浮かぶ。
静かにブラックコーヒーを喉に通すけれど、随分とその喉は乾いているようね。
この男は本当に馬鹿だ。
「何となく?」
「何となくって…これで違ったらとんだ濡れ衣だよ。まぁ、君のその何となくの信憑性は異常だって僕はしみじみ思うよ」
「……」
ほら、また。“苦しい”
終始変わらない顔色は、私の見る貴方と違う。
「平気になったみたいだ」
「何が?」
「ブラックコーヒー。苦味なんてもう分からないや」
「……馬鹿ね。ブラックコーヒーの良いところを失うなんて」
「はは、今ならミルクチョコレートを食べてもあの軽い甘さが分からないかもしれない。ところでブラックコーヒーは後味が随分と爽やかだ」
「マンデリンなんて趣味の悪いのを飲むからよ」
「君はブラックコーヒーをいつも飲んでいるけど、ブラックコーヒーってどこか君に似てるよ」
「貴方も大概マンデリンに相応しい人間ね」
「…ふはっ」
ほら、また。
—-side
「ねぇ、貴方ってブラックコーヒー飲めないんじゃ?」
一人の部屋で誰かに話しかけられ、そちらをゆっくり向く。
その静かな深い声質は僕の鼓膜の表面に浸透した。
彼女は気づいたらいる。
閉じたはずの扉。だけど彼女はこの部屋の中で、閉まった扉の目の前に居る。
そこに気配も何も無い。
“いつからそこに居たんだい?”こんなようなつまらない質問、きっと君は嫌がるだろうし、今更動じたりなんてしない。
「あぁ、本当だ。ブラックコーヒーだ」
「……本当だ、って貴方十日間便が出ていないからって頭にまで支障が出たのね」
「わぁ、なんでそれを知ってるの?慢性的便秘だけどここ最近はやけに出ないんだ。しばらく自分の糞を見てないから、どんな色だったか忘れちゃったよ。恋しいな」
固唾はどこかにへばりついて、飲み込めすらしないでいる。
「彼を殺害したのは貴方でしょう」
「……どうして?」
彼女が今、僕の目の前に現れたんだ。
彼女に隠し事なんて通用しないことは分かりきっているし、最初からこのことで来たのは分かっていた。
「何となく?」
「何となくって…これで違ったらとんだ濡れ衣だよ。まぁ、君のその何となくの信憑性は異常だって僕はしみじみ思うよ」
「……」
蛇のように音が無く、恐ろしく鋭いその眼は、僕の眼は見ていない気がする。もっと、その奥を。
まるで彼女の獲物かのように、固まってしまう。
一挙手一投足、一字一句を見逃さず見る彼女。
僕自身ですら知らない暗がりを、君は知っている気がする。
彼女が本当に蛇ならば、神経毒を持っているだろうな。
時折感じるこの何か違う視線は、その鋭い歯に噛みつかれて神経が麻痺する感覚だ。
浅い一息で言う。
「平気になったみたいだ」
「何が?」
「ブラックコーヒー。苦味なんてもう分からないや」
「……馬鹿ね。ブラックコーヒーの良いところを失うなんて」
「はは、今ならミルクチョコレートを食べてもあの軽い甘さが分からないかもしれない。ところでブラックコーヒーってのは後味が随分と爽やかだ」
「マンデリンなんて趣味の悪いのを飲むからよ」
「君はブラックコーヒーをいつも飲んでいるけど、ブラックコーヒーってどこか君に似てるよ」
繊細な花で彩られたカップ。中身の動きのない黒さを見つめた。
話しているうちにすっかり冷え切っている。カップの陶器に薄ら映る自分の顔は、どこか他人のようだ。
「貴方も大概マンデリンに相応しい人間ね」
「…ふはっ」
そんな別れの言葉は、あまりに彼女らしくてつい笑ってしまう。
僕は夜逃げする。遠い、遠い国へ。
でも君にはまた会える気がする。それはきっと何でも無いような場所で、どことない時で、また会うんだろう。
そうして一言や二言を交わせば、またすれ違っていくんだろう。君はきっと、そういう人だから。