定まらない

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5/19/2026, 3:48:23 PM

少し遠くの丘にみえるものは、なんだろうか。

そもそも僕はどこに立っているのだろう。

また遠目に僕の背後を捉えている誰かが、いるのだろうか。

空は青い。

雨の兆しなどちらつきもしない。

雲が薄い。


そういえば、喉が渇いていたんだった。

目を開いて、なんの変哲もない白地の天井が目に映る。

体を起こして、キッチンに向かって、コップを手に取る。

蛇口をひねって、水道水を注ぐ。

コップに口をつけ、あおる。

口端から零れた水を、雑に拭う。

腹が痛い。

今日も付き纏う。毎日の微妙な体調の悪さ。

憂鬱が駆け上ってくる。

また布団に入る。

目を閉じる。

淡い無に包まれる。

思考も感覚も解けていく。

「このまま僕を導いてくれ」

またそこで、意識が途切れる。

それの繰り返し。

5/18/2026, 1:28:00 AM

「なにか力になれることがあったら、言ってね」

取り繕う気力もないまま、「大丈夫だよ」だなんて言ったところでかまちょにしか見えないから。

愛想がないから。

当たり障りのない、解決策を提示しやすい悩み事を取っ付けては、相談風に吐露する。

「頼られた」

それで相手が満足するならいいんだと。

それこそが、
人の善意を無碍にしているようなものなんだろう。

捻くれている。拗らせている。

なんとも不器用で哀れだ。

美しいものだけ見て、聞いて、食べる。

そうして生きられたのなら、少しは何かが変わったか。

想像もつかないそんなのものを考えることに意義はないから、
やめた。

伝える努力を諦めれば、もう。

時に人は、何を言ったって伝わらないときがある。

映画が流れている中、ドライアイで滲んだ涙を拭っていれば
他からは“感動”と見られる。

ドライアイなんだ、そう言えば

“強がる”なんて、“子供っぽい”ところもあるんだな。

こういう些細なことに、絶望を感じる。

他者からの自分の印象を、コントロールしきれるものではない。

分かっているはずなのに、自分の知らないところで勝手に解釈が進んでいくのは恐ろしい。

知ったような口を聞かれては、訂正しようとするとそれがまた“否定”に受け取られて。

連鎖、連鎖、連鎖。


優しさの面を被れば、優しくなれる気がした。

だから、俺は。

なんのために優しくありたいのかを失っては、気づけば足がコンクリートに埋まっている。

地を連なる蟻の数を数えては、
通りすがりの子供が踏み潰していく様を見つめていることしかできない。

子供に罪はない。
善悪を知らないのだから、仕方がない。
未来があるのだから、年長者が甘んじて寛容さを示すべき。

その様を横目で見て、子の手を引いてまた遊具で遊ばせる親。

当たり前か。

これだから、子供は。

これだから、人間は。

これだから、世界は。

これだから、俺は。

脚が千切れ、腹が潰れど、
頭がまだついている。
死にきれないまま、残った一つの脚で起き上がろうとしている。
ただ一匹の蟻。

どんっ、

靴底で踏み潰した。

5/9/2026, 3:24:58 PM

カメラをかざす。

小さな画面に縁取られる被造物が、寝息を立てている。

シャッターを押す。

途端、ふっと画面が黒に堕ちた。

最後のシャッターは、押せていただろうか。

それだけが気がかりだった。


冷たい霜が土に聞き慣れない音を作る。

一歩、一歩

その地を踏み締めるたび、
ぱり
しゃり
小さな音が弾ける

顕微鏡で見たくなるような、透明さの中に不思議が詰め込まれた霜。

触れればかじかんで、指先が腐り落ちる。

でも、ウジは集らない。

氷点下に生きるウジも菌もいないから。

冷凍保存された指先が、そのままに時が止まるだけ。


ずるい。悔しい。

誰なんだ。

そんなことを言うのは。

好き。嫌い。

誰の声なんだ。

鼓膜を剥がせば、

嗅粘膜を剥がせば、

脳を破壊すれば。

何も感じずに済むのか?

お前は、誰なんだ。

5/8/2026, 2:39:00 AM


山を越える。

腹の虫が収まらないようだ。

何かを好きになっていい。

何かを嫌いになっていい。

そういう権利は与えられてこなかった。

誰のせいにすればいいのだろうか。

やり場のない感情の消費の仕方は、誰に聞けばいいのでしょうか。

検索バーに入力しても、的外れな答え。

カウンセリングを受けても、当たり障りのない言葉だけが並べられていく。

耳触りの良いその言葉が、呼出煙のように俺の肺に沈澱していく。

まあ、どうせ他人事だから
巻き込まれないようにも
踏み躙らないためにも
こんなことしか言えないのだろう
相手の立場も知ったつもりで、どうにか腑に落とす。

どうしてなのだろうか。

結局、頼ったところで、どんどん不信が色濃くなるだけなのに。

結局、救ってくれる誰かを待ち続けるなんてことはしていられなくて

結局、時の流れは無惨にも待ってはくれなくて

結局、自分のことは自分で救うしかないのに。


自分自身何を思っているのかすら掴めない。

ズレを細かく拾い上げれば、その少しの摩擦が重なり合う。それに耐え得るほどの耐久性は、俺にはないのだと思い知る。

その度に、俺はまた一つ、二つと
できなくなることが増えていく
恐れてやらなくなる。

もう、どうだっていいじゃないか。

疲れた体はそう言う。

なんとまあ、不条理。

胸の底から這い上がる竜を捕まえて、捌く。
刺身で食べれば、その臭みに嗚咽が出た。

煩わしい声。

恐怖心を掻き立てる匂い。

押し込んだはずの記憶を掠めていく、そういう五感が苦痛で
どんどん使わなくなっていく。

そうして鈍くなって燻んだ景色で、
俺はまた消費するだけの生を過ごす。


川に流れる。

5/6/2026, 2:45:38 AM

人生でいちばん、出会いたくなかった人。

そう言うのが、正しいのだろうか。

春風を感じられないのは、あの人のせいだったのだろうか。

燻る花粉に皮膚が剥がれる。

幸も不幸も、半分こにして
どちらが多く余ることないよう、同じだけ食べる。
苦しくならないように。

あらゆる憎しみや葛藤を押しやり、
「ありがとう」と口にしてみる。

そう言えば、なにかを忘れられるのだろうか。


部屋に淡い煙が漂っていて、よく見えない。

どこに扉があるのかは分かっている。

でも、視界を遮るこの煙を手放すのが惜しくて

目隠しに利用する。


やがて、赤い蕾が膨らんだ。

咲いてしまう前に、冷凍庫に入れて凍らせてしまった。

見たくもない。

咲いたら、朽ちていくだけなのに。


今日は雲が低いな

そろそろ初夏か。

特別明るくも、暗くもない、

それなりの晴れ空。

暑さや寒さの温度は感じない。

なんら普通で、つまらない空模様。

そこそこ美しい夕焼け空。

写真を撮るほどでもない、夕焼け雲。


仕方がない。

仕方がない。

仕方がない。

苔を指の腹で撫でる。

青臭い匂いが鼻を掠めた。

一生、ここにいればいい。

もう何も見えないのだから。


山椒を、かける。

箸が進まない。

視界が、床にある。

前を向けない。

花株を植えれば、花畑になるだろうと。

あぁ、足首を擦る雑草が痛い。


これを愛というには、あまりに薄情だろうか。

涙の一つも出やしない。

何に対して燻らせているのかもわからない。

私は風媒花になりたい。

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