あれ。
いつからこんなところにいたのだろうか。
ただ、自分の中にある苛立ちだけが感じ取れる。
どうしたというのだろうか。
まあ、思春期なんてこんなものか。
いつからここまで卑屈になってしまったのだろうか。
過去や環境のせいにしていても、何も得られないというのに。
先人たちはどう乗り越えて行ったのだろうか。
こう考えている時間すら、なんてことなく過ぎていずれ忘れるんだろうな。
時間がどうにかしてくれる。
その時がくるのを待つか。
本気で息を詰めて頭を抱えているのに、先人たちは鼻で笑って茶化してくる。
それに対していちいち抱えきれない感情を抱いていたけど、きっと、自分も先人になれば鼻で笑ってしまうんだろう。
そう想像すると、
きっと私が笑っているのは、過去の、今の自分に対してだ。
ウジが皮膚の下を這っているような感覚がする。
これが、私の思春期だ。
あ、やってしまった。
これは、失言と呼ばれるものなのだろうか。
あぁ、どうしてしまったというものだ。
俺が言いたいことは、言うべきことではなかったのだろうか。
うるさいな。
いつまでも思春期を拗らせる自分が肩に乗っかっている。
ガキの自分に囚われたまま、離されない。
果たして、離さないのはガキの俺か、俺自身か。
早く割り切れたらいいものを。
「トラウマ由来のものだ」
カウンセラーは言うけれど、どうもそうは思えない。
そんな大層なものは何もない。
大したことはない。
それを、一番よく分かっているはずなのに。
気にしないもん勝ちの人生。
どう生きろと言うのだろうか。
いつかの、こんな自分すら忘れてただ普通に生きられている俺がいることを願う。
たまには、何かを描いてみてもいいと思った。
けれど、やはり俺から出てくるものは
なんというか、
くしゃみだけだった。
いつの間にか、取り残されてしまった。
どこかへ行こうとしても、足を引っ掛けられる。
また嘲笑が聞こえてきて、蹲る。
誰なんだ?俺は。
空に円を描く。
ぽっかり、あの世への道が開けばいいのに。
ぼんやりと思いながら。
別に、死にたいわけじゃないのにな。
ふと、気を抜いているときに考えることはこればかりで。
なんともおかしなものだ。
阿呆らしい。
期待をしない。
それには、自立と保身がある。
ただ俺は、保身だけしかない。
雨が降れば、
そろそろ紫陽花が咲くのか。
と、花のことはよく知らないが
いつかに誰かが口にしていた気がする。
そんな朧げな記憶でも、惨めにも拾い、何かに触れようとする。
結局、今日も何も思い出せるものはないのだけれど。
文を綴っても、一瞬で崩れ散るその様は可笑しい。
あぁそうだ、あれは自信作だった。
まだほんの一ページだったが、
久しぶりの物語だったんだ。
珍しく、読みやすさを意識して綴った。
あれは見て欲しかったなぁ。
まぁ、もう無いのだけれど。
君が生きる世界は、どれほど綺麗なのだろうか。
俺は、なにかになれるのだろうか。
例えば、この空に色がついてしまったら、きっとこの人は離れていってしまう。
なにより、俺自身が
あぁなんだ、こんなものか
と、悪態を抑えきれなくなってしまうだろう。
いつだって寒そうに身を縮こめているから、毛布をかけてやりたくなる。
けど君は、「あついからやめて」と言う。
ただ、突き放されたと思えば、俺が悪かったりする。
手に持っていたのは焦げた毛布だった。
ハッと顔をあげて謝ろうとすると、もう君は帰ってしまっていた。
空洞の中に身を詰めようと、タオルを丸めて投げ込む。
いつだって、陽の匂いのするタオルに包まれていたいのに
実際にあるものは埃臭いタオルとも呼べないくたびれたもの。
君に貸してやれもしない。
例えば、
君が雨に打たれて帰ってきても、埃まみれの布切れじゃ温めてやれない。
俺が何もできないのをわかって、君は他の誰かの許へ行く。
まぁ、それで俺ができなかったことを誰かがやって、
その許で君が風邪をひいていないならそれでいいなと思った。
別に、愛とかじゃなくて
罪悪感を抱かなくて済むから。
外には、紫陽花が咲いていた。
あぁ、そういえば梅雨になったんだな
瞬く間に季節が巡って、何回目の梅雨かわからない。
うちにはカレンダーはないし、
時間を感じさせるものがなにもない。
そういえば、あの人は花が好きだった気がする
よく、「そろそろ拳の花が咲く」なんて言っていた
こちらが黙っていれば、勝手に説明し始める
「拳大の真っ白な花が木を覆って、スペード形になるのよ」
聞いてるとも聞いてないともいえない、相槌のような呼吸のような息を漏らすと、
次は隣で口ずさみ始めた。
なにも聞いていないのに、
「なんの歌か、わからないでしょう」
と言う。
「懐かしいわね」
なんて、訳の分からないことばかり言うから
もう理解を諦めた。
やけに静かな朝だなと思った。
正確には、世界が朝かどうかは分からない。
俺が目を覚ました今は、朝だ。
窓の外には、燻んだ空色。
遠くには濃い煙が立ち上っているのが見える。
畑の土が黒い。
また、焦げたのか。
早々に人々は郊外へ出払っているようだ。
この町に残っているのは俺だけか。
伸びをして、攣りそうになった脇腹を抑える。
どこからともなく聞こえた声に、視界が眩い何かに照らされて、引き寄せられた。
目が覚める。
なにか、どうでもいいような夢を見ていた気がする。
そんな夢の中と同じような現実が、また始まる。
好きだったもの
それがわからない。
嫌いなものならわかるのに。
例えば、私のことを好きな人のことが嫌い。
なんとなく、取り留めもなく、違和感や不快感の類の感覚がする。
病名はない。
ただ、
風邪の初期症状のように、喉にちくり棘が刺ささってイガイガする。
そんな症状を抱えている。
この症状がもたらす疲弊という感情を、豪語したいという気持ちはいくらでもあるのに。もはや言語化をするのも億劫に感じて、口は閉ざされている。
溜飲は下がっているのか、下がっていないのかもよくわからない。
新たな空気が入り込んでこない。
胸の中であるだけの酸素が回るだけ。
馬鹿らしいと己を鼻で笑ったところで、ぽつり置いてかれる本心は虚しさでしかなく。
鏡の前に立てば、誰も写っていないように見えた。
形をなぞって縁取ってみても、色が見えなかった。
色を用意しても、顔がなかった。
顔を貼っても貼っても、剥がれてしまう。
粘着力の低いテープと格闘するように、神経にささくれができるような感覚。
人間の形を作るのはあまりに難しい。
窓に反射して映る自分の姿は人間でない気がして、どうしても目を逸らし、怯えて殻に篭る。
じんわりと重さを連れる筋肉痛が、現実を感じさせて。こんな世界と細く繋げてくる。