12歳の独りごと。

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11/19/2025, 12:59:56 PM

ミニトマト。
誰もが食べたことがあるのではないだろうか。
身近にある食材だ。スーパーでも、コンビニでも、買える。もしかしたら、貴方の庭の畑にあるかもしれない。
新鮮な野菜の匂い。
トマト特有の、あの匂い。
ベットに寝転ぶと、その匂いが鼻腔で揺れた。
ベッドから、ミニトマトの匂いがする。
だからと言ってミニトマト食べたいなとも別に思わず、だらだらとスマホをいじって、眼精疲労で限界がきたら、もぞもぞと身体を縮こめて、意識が朝に飛ぶのを待つ。

朝。ここからはこの人間の内なる世界に住む、奴の話。

奴には、顔がない。毛も、ない。服も、ない。指も、ない。爪も、ない。耳も、ない。眼も、ない。声も、ない。
身体が、ない。
四肢のようなものと、頭のようなものがある。ぼやけるような、淡い何色かの物体。


遠くに見える海。正しくは、海のような水である。
沈黙かのように単調なオルゴールが流れるような波。
無機質な白い陽にあたって薄暗くてらてらとしている。
この肉体が呼吸をする度に揺れ、波を作っている。
何もない世界。
けれど奴は同じリズムで同じ場所を通って、何もないところで階段を降り、何もないところに腰掛ける。
何もないけど、当たり前にある。
波の揺れが穏やかなとき、海辺に近寄ってしゃがむ。
ゆらゆらと、ぞろぞろと、深淵の海の向こう側から、何かが流れてくる。
浅瀬に流れついて揺蕩うガラクタ。真正面のは、黒く、重く、刺々しい。斜め手前にはショッキングピンクで、ハートのネックレス。
ぱちゃ、水の中に手を伸ばして、斜め手前のガラクタを掴む。
持ち上げると、水は滴らない。手を濡らす水も、ない。
ガラクタは奴が握っている中で、どく、どく、内側で暴れるような嫌な歪み方をして、
パァンッ!!!
破れた。弾け飛んだ、いろんな色が混ざってできた色のどろどろ、ざらざらした液が、べちゃ。ダイナミックに奴の頭のようなものにへばりついた。
液は、しゅぅぅぅ……と煙を立てて溶かす。
奴は、液がついた部分から削れていく。
奴は、何もない端にがらくたを置く。
分かってるのだから触るなって話なのに、奴は、バカ。ハートが可愛かったのだろう。
靴を脱ぐ動きをして、髪を結ぶ動きをして、海に飛び込む。
奴は、この海の中に入って、水から得られるエネルギーを吸収しなければならない。
充分に得られないと、やがて死ぬ。
そして、海で探すものがある。
それを集めると、奴は、完成する。
奴は、両腕のようなものを上下に動かして、水で歩く。奴のこれは、私たちにとって泳ぐというものだ。
水面に半円の波紋ができる。
脚のようなものは、まっすぐそのまま。水面を通って、すー、と一本の波紋を作りながら、歩く。
水に入っても、液は取れない。ゆっくり、奴を削り続ける。
奴は、探す。
しばらく、歩くと、遠くにきいろい物体が見える。
そこへ向かって、歩く。
触ると、ふわ、と触れたところから、奴の腕のようなものを包み込む。
広がって、全体を包み込み、暖色に滲んで発光して、奴に染み込むようになくなる。
すると、液が消えた。奴の削れた部分が、元通りになった。
そして、奴に、
人差し指が、生えた。
ふと、奴がどこかを振り向く。
視線の先には、遠目にきいろい物体が見える。
奴は、そこへ向かってまた歩き出す。
辿り着いた。きいろい物体に、人差し指で触れる。人差し指を包んで、広がって、腕のようなものを包んで、頭のようなものを包んで、腹のようなものを包んで。
全体を包み込み、暖色に滲んで発光して、奴に染み込むようになくなる。
すると、液が消えた。そして、奴に、
小指が、生えた。
奴は、あたりを見渡す。
きいろい物体は、見当たらない。
果てしない中、当てもなくただ歩く。
すー、すー、すー、半円と線状の波紋を水面に作って、歩く。
先に、きいろい物体を見つけて、向かう。
辿り着いて触れようとしたとき、波が、荒くなった。
どんっ、と押し寄せた波が迫り来る中、足元に気づく。
見ると、カイジュウがいた。
小物のカイジュウは奴を攻撃して追いかけ回して遊んだり、凶暴なカイジュウは虐殺したり、知能があるカイジュウは食べたりする。
奴は、きいろい物体を掴んで、カイジュウにぶつける。カイジュウを包み込みはじめる。広がって、全体を包み込み、暖色に滲んで発光して、染み込むようになくなる。
そのあとカイジュウは、どく、どく、内側で暴れるような嫌な歪み方をして、
パァンッ!!!
破れた。弾け飛んだ物体の破片が、ぼとっ、ぼちゃぼちゃっ、とあたり四方八方の水面にぶつかり海底へと徐々に沈みゆく。
奴の物体にも破片は降りかかり、当たったところはじゅぅぅぅ……と煙を立てて焼ける。
歩いて、破片がぼとん、と海へ落ちても傷口は、焼け続ける。じわじわと、じゅぅぅぅ……
あたりを見渡して、きいろい物体を探す。
それにしたって、波が収まらない。何故か、また波が押し寄せてこようとしている。
と、目先の水面に広がる、ギザギザとした波紋を見つけた。
カイジュウの波紋だ。
きいろい物体がないか探す。
ない。
奴は、今すぐに逃げなければならない。
脚のようなものを動かそうとした瞬間、ブチッ、と奴の脚のようなものが、カイジュウによってちぎられた。
もう、カイジュウがすぐ足元へ迫りきていた。
両腕のようなものと片足のようなものを素早く上下させ、深海へと、深くへ、深くへ潜る。
奴は、両脚のようなものを上下に動かして走る。片脚のようなものがなくなり、不十分のなかで必死に走る。
すぐにカイジュウは奴を追いかける。
カイジュウは、水圧に弱い。深海では身動きが鈍くなり、あまりに深くへ行けば水圧で全く動けなくなり、そのまま時が流れて死を待つのみ。
だが、潜ってもこのカイジュウは速い。
奴は、片脚のようなものを失って、遅い。波と荒い海流になぶられて、物体が焼け続けて、奴の方が動きが鈍い。
海底へ行くと、扉がある。
その扉の先へ行けば、避難できる。カイジュウは、その扉をくぐれない。
 
潜って、潜って、逃げる。
 
ぐちゃぐちゃの大きな海流に遮られながら、
 
鈍い片脚のようなものを、動かす。
 
深く、深く、潜る。
 
迫り来るカイジュウの波紋を感じながら、
 
痺れ震える両腕のようなものを止めない。
 
重い水を、かいて、かいて。



 
海底に近づいた。
なのに、このカイジュウは、まだ動く。
カイジュウは奴を食べると、より水圧に強く、より速くなる。
このカイジュウは、奴を何個喰ったのだろうか。
扉が、見える。
腕のようなものを伸ばす。その腕のようなものには、じゅぅぅぅ……と火傷が広がって侵食している。
人差し指を、ふるふると、震えるくらいめいいっぱい伸ばして、扉のつまみに触れようとする。

と、

バキャッ、ぐっ、ゴギ、がッ、ゴきュ。






そして、奴は死んだ。

カイジュウは、その場でより強くなり、自力で水面まで戻っていった。

奴は、現れてから92日目で死んだ。



そして、しばらくしてまた新たな奴が、どこからともなく現れる。
前の奴とは、違う奴。
同じじゃない。全く違う、奴。
昨日もその前からずっと、変わらずここに居た。そんな顔をして今回の奴も生活している。

そしてまた、海岸へ向かった。

11/19/2025, 7:08:47 AM

記憶のランタン、灯してみますかぁ。

今でも忘れられない小5の初恋があって、ほんとあれどタイプの顔だったんでしょうね。
とにかく目元が好きでした。広すぎないけど、少し広めの二重幅は綺麗なラインを描いていて、少し眠たげに見えて。本当に長いその睫毛は節目がちに、ふとした時に影を落としてて、綺麗でした。
その子は全体的に線が綺麗でクセがなく、バランスよく整っていたと思います。通った鼻筋に輪郭。ほくろがたくさんありました。でも日焼けで目立たない子でした。
それで今日気づいたんですけど、私の好きなキャラの壁紙画像を漁ってたら、そのキャラの幼少期の画像が出てきて。画面に映る小さい子供の真顔は、私の初恋のあの子にそっくりでした。「あ、あの子もこんな目してたな。この目、懐かしい。」って。
本来、柔らかそうな弱そうな印象を与える垂れ目なのに、冷たいんです。何を考えているんだか分からない眼。ただ真顔でその眼に見つめられると、平常心を保って平静に振る舞うことができなかったなぁ、なんて。
今考えたら好きな人としてあまり上がらない部類の人でしたが、ひっそり好きな人もいたのでは?とは思ってました。けど誰に言っても「え、あいつ?あぁ…」みたいな反応をされました。「えっ!?なんであいつ!?」とは言われないので、“顔は中の上”みたいな感覚なのでしょうか。好みじゃない人からしたら普通なのかも。私だけがこの胸いっぱいになる魅力に気づいているのかな、なんて。
私は本当にどタイプだったから。
『付き合うとしたら』『彼氏としていまいちじゃないか』とか、そんなのとは程遠かった。そうじゃない。
全部どうでもいいくらいには好みでした。

彼の話をするにも、どこから振り返ればいいのやら。
まず、幼稚園の頃からになるのかな。年少の頃に同じクラスだったんです。小話を挟むと後にその人の口からふとその頃の話が出まして、覚えていたのはなんだか意外でした。私の記憶にあるその人は割と、トラブルメーカーとまでは行かないけど、小さい頃から陽キャで、自由奔放な人で、怒られることもしばしばしてました。私はその時から大人っぽいやら面倒見がいいやら言われてますが、思い返してみれば正義感が強いお節介な奴でした。先生が教室から少しいなくなる時間があって、その時間にその人が何かをしでかすとクラスメイトの子が「もういい!〇〇ちゃんに言うから!!」なんて先生のように名前を呼ばれて、先生の真似事をして手を取り目線を合わせ、寄り添うように注意をする、なんてことをした記憶があります。あの時の面倒臭そうな死んだ顔と言ったら…笑笑
そう思うと、再会した時もあまり変わっていませんでした。少し年相応の男の子の恥ずかしげもあったけど、素直ですぐに顔に出て。
再会は小学校に上がってからでした。小学五年生にして同じクラスになりました。最初のうちは関わらない部類だなと思っていましたが、それでもやっぱりどタイプだったんでしょうね。「イケメンだ。近付きたくない」と思っていました。でもそのうち、私が厄介な問題児にだる絡みされて名前やらいじられているところに通りすがりそうになった時、遠目に見やって沈黙を挟んでから、スッと間に入ってその問題児をかっさらっていきました。「お前こそ〇〇だろ」やら言い返して、問題児はそんなこと言われたら当然「はぁ!?んだと!?」とばかりに噛み付くんですが、それを喧嘩にせずそのままじゃれあいに持って行ったんです。男子特有のプロレスみたいなのが始まって問題児もわはわは笑って「ギブギブギブ!!!」とか教室の後ろで言ってるんです。それからがまず始まりだったかな。あとから気づくんですけど、その人その問題児のこと大っ嫌いだったんです。極力近づきたくないし、触れたくもない。
何だか分かりづらい不器用な優しさみたいな。そんなのにその時の私は助かったと思いつつ、何だか掴めなくて「何考えてんだか何も考えてないんだか…」ってぼんやり思ったっけな。

それから私は“認めない”期間があって、それでも彼のことを目で追っているし、席は近くなく遠いけど、彼の死角の席ならいくらでも盗み見できるからむしろ嬉しかったし、掃除メンバーだとか班だとかも、彼がいないと少し残念で。
でもある日掃除当番が同じになって、しばらく一緒にやってたんです。それと同時に理科の移動教室の授業が始まって、教室とは違う席順で、私と彼は隣でした。四人構成の班のはずが、私と彼以外のメンバーが不登校気味で、あまり来なかったので、いつも二人でした。最初の頃こそ私は少し椅子を彼から離して、緊張で身を固めてたんですけど、私のその壁を感じてか、彼も普段は作業をしていると教材が四方八方へ行くような人なのですが、私の方へ教材が混じったりしないようにスッとまとめて、気まずそうに肘をついて窓の方を見ていました。授業中騒がしい声が聞こえると、楽しさにつられてすぐ振り向いて、その同じグループの人たちがいる班を見て楽しそうにしてから、つまらなそうに肘をつく彼の様子に居た堪れなさを感じて、彼のグループのようにはなれなくとも、私から積極的に少しでも似たような雰囲気を作ろうとしました。普段私は優等生像を壊さないように静かに授業を受けているのですが、『うおっ、えぐ!』『すごいな…そんなことなる?』『えぇ〜ほんとかよーww』『ないないw』なんてリアクションをいちいちこぼすようにしました。先生の目につかない程度に、彼にはしっかり聞こえる声量で。それに彼がピクっと反応してる気配を感じながら。彼もだんだんそれに乗っかってくるのに時間はかからず、『いやえぐっ!』『なんか、あれみたい。像の歯磨き粉みたいな…』『だよね?違うっしょ!!ww』『あるわけなーい』なんて。まぁ乗っかってくる彼の声は私より遥かにデカくて離れた彼のグループの人たちをわははっと笑わせて、理科の先生の顔を顰めさせていましたが。急に立ち上がったりして落ち着きがありませんでしたが、すとんっと椅子に戻るたびに私の方をチラッとみた気配がしては、楽しそうに足をパタパタさせていたので、幾分は過ごしやすくなったみたいでよかったなと思いました。
そこからぎこちなくとも会話が始まって、だんだん砕けていって、ふざけて笑って。
そのなかで自然と理科の授業があった日の掃除ではよく話すようになって、『ここのちりとりやったー?』なんて聞いて『やったー』って気だるげな返事が返ってきたら『ないすー』と両手グッジョブをあげると、耳がぴこんっと立ったような幻覚すら見えました。彼はそれが気に入ったらしく、それからは『ないす?』なんて私に報告しにくるようになって、そこには遠慮気味に両手グッジョブ作った彼がいて、私は『ないす!』なんて両手グッジョブを返すと、途端に少し顔を伏せてから無邪気に笑顔を綻ばせて、満足したように行くんです。彼の癖。こちらに向けてくるような笑顔じゃない。一人で笑う。少し隠すように、零すように、顔をほんの少し、伏せて。隠そうがそんな満面の笑みしたら漏れ出てしょうがない。分かりやすすぎるんだけどなぁ…
廊下で遠ざかっていくいつものペタペタとなんだか気だるげで彼らしい足音と共に、機嫌のいい声ですれ違う人に絡む相変わらずデカい通る声が聞こえて。仲良くなっていって。その頃私認めたんです。彼のことが好きだって。

それからは彼が学校を休むと、一日がとてもつまらなくて。そんな自分がいることを否定せず居られるのが楽なのと同時に、少し落ち着かない気持ちになりました。
その横顔が綺麗で、少しでも触れたくて、そのサラッとしててすとんと落ちた焼け色の髪だけでも、この指先で触れられないかな…って、魔が刺して、掃除終わりなんかによく『髪の毛にゴミついてるよ』なんて言ってスッと手を伸ばして髪の毛に触れるんです。なんてことないように『…うん、とれた』なんて言って。そうすると、最初こそ気づかなかったけれど、だんだんと彼がちょっと嬉しそうな表情で少し顔を伏せて、『ありがと』って言っているのを目で捉えて、内心発狂しながらも『どういたしまして〜』なんて、涼やかな顔を保ちました。きっと、貴方は私にこの顔でいてほしいだろうから。
だんだんと私の自己満足でしかなかったはずのその仕草で、思いがけず物理的距離が縮まり、相手の好感度が上がったのが目に見えて分かるようになりました。相手から絡んできたり、話かけてきたり。その中で彼はよく言いました。『〇〇(私)は陽キャだから』と語尾にしばしばつけていました。
いまだに彼のこの言葉が曖昧で、不可解です。
彼が賑やかさで囲まれるんだとしたら、私も注目の的にこそなるけど、それは優等生としてで。
「仲間だ」という引き入れるような距離感の近づけ方だったのか、私を認めていたのか、私が喜ぶと思って言っていて、まぁつまり仲良くなりたい気持ちからの行動だったのかなとは思っているけれど。
会話の中に出てくる「どういう意味?」って思うけど言わせないような、彼の意味のない言葉の中に詰まった感覚や感情があって、本人も無意識で意図していないからこそ、憶測を持つのはまた邪道に感じて。彼にとって慣れた“ノリ”での会話は不思議なものでした。

彼は私の優等生キャラを気に入っているような感じがしました。それは私たちが本質的に仲良くなることができなかったから、未だすれ違い誤解していただけなのかもしれないけれど。
彼は一軍グループにいる陽キャでした。
私はと言うと、陰キャでこそないけど陽キャでもないみたいな立ち位置でした。
通知表のコメント欄に書かれるのは、『空気が読めて聞き分けがいい』『話し方や考えがしっかり地に足がついていて、大人の話に入れる聡くよくできた子』そんなことばかりで。
よく代表に立たされ、よく私のが手本として黒板に貼られ、故に“先生からの信頼が厚い”と教員に、生徒に、親たちにと、認識が広がって。行き場は無くなって。
器用な方とは言えど、何事も中の上。たまに上へ触れれば賞を取った。
見た目なんかも背が頭一個分抜けてたから、目立っていたのかもしれない。人並みに身だしなみは気を遣っていたけど、小学生にしては清潔感があったのかもしれません。
よく「羨ましい」なんて言われて。
色んな“ステータス”が集って私は優等生のショーケースに入れ飾られていたんでしょう。
なんでも完璧にこなさなきゃいけない、みんなに優しくあらなきゃいけない、みんなと仲良くしなくちゃならない、優等生。素直に表情も出せない子供でした。

修学旅行や林間学校では、同じ班になることこそしませんでした。けど、バスでの思い出があります。そのくらいの距離感がいちばん楽しくいられて、いい思い出です。バス席は班でまとまって座るのですが、なんとなくお互い班を近づけている節が感じられて。私はその人の姿が見たかったから、奥の窓側じゃなくて廊下側に行って、彼も何故だかまでは分からないけれど、『窓見たいっしょ?』なんて班の人に窓側を譲って。
彼の方から私の席と廊下を挟んで並ぶか、一個ずれくらいにしかならないところをなんとかキープしてる姿を見て嬉しさを感じました。バス移動中、ガッツリ私の方に身体を向けて、違う人との産まれた話題なのに、話すたびに私の方を向いて一緒に笑うんです。もう嬉しくって、愛おしくって。同じグループの人も近くにいたのに、それより私の方を気にかけている姿が可愛かったです。『それ〇〇(私)が先に言ってたし』とか『〇〇がやってた!』とかふにゃっと笑う赤ちゃんみたいな顔が好きでした。そんな顔でそんなことを話すのが可愛くて、可愛くて。
その他にも色々思い出ありますね。
授業中に目が合えばいたずらげに笑い合いました。私は優等生らしく前向けよってジェスチャーして。
急に私の手を繋いでぐるぐる回してきて。三半規管を揺さぶられた私のよそに『なんか俺三半規管強いんだか酔わないんだよね』とか言ってて『急に作業止めさせて呼んだと思ったら…』って呆れたように返して。手の平に残る彼の体温を見つめて。
学級会なんかで席を移動して近くになった時は、彼の気を引く為に自分からリアクションを口に出して、なんとか彼の眼が私に向くようにしていました。それで会話なんかをしたりして。
体育の時間、たまたま二人とも見学だった時に、自然と隣に座れていたけど、もう二人の男子が見学として増えた時、その人のところに集まってわちゃわちゃし始めて。その人は絡まれているのに珍しくつまらなそうで鬱陶しそうにして。私は少し考えてから、そっと隙を見てその人の隣を確保してスッと隣に腰掛けると、その人がすぐにこっちを向いて私に話かけてきて。その人の膝が私の方に傾いていて、身体をこっちに向けてくる夢中さが可愛くて。男子たちが隣でわちゃわちゃいじってきたりしても『うるせーな』なんてあしらって、『あ、あっち〇〇だったよ』なんて言って興味をひいて、私と話を続けて。その僅かな時間の中で、気づけばその人の不機嫌さは和らいで、最初私と二人で話していた時のように戻ってて、なんだか勘違いかもしれないと自己防衛を挟みながらも、すごくすごく嬉しかった。
結局二人はすぐに戻ってきてしまって、私は離れたところに腰を掛け直して、つまらなく思いながら肘をついて遠目にクラスメイトたちのドッチボールを眺めました。彼は私が引くとその後はいつも通り談笑していた。
少し残念だったけど、穏やかな日に思えました。

私が廊下を歩いていると筆箱なんかを後ろから滑らせてきて、急に足の隙間からぬっと彼の筆箱が出てきて、後ろを振り向くと、気だるげに『…驚けよ』なんて言ってました。
美術の授業の間にある休憩時間にはたった1回、ふらっと私の席に来ては絵を褒めてまたどっか行く。『参考にー』なんてたま〜に2回目くることもあって。
私が先生に怒られるという激レアイベが起きた時。教室に戻るとゆらっと現れてきたかと思えば、ぎこちなさを隠すような…ほんとに一見するとこちらに興味なさげでひんやりとした気だるげな目をしながら、私に話しかけてきた。私から彼に私語をふっかけないし、班以外の交流での会話の始まりなんて彼からしかないのですが、それでも彼からまっすぐ私に向かってくるのは…要は班でとか授業でとかで“自然な流れで”みたいなもの以外の二人の会話は頻繁なわけではないので、珍しいなぁなんて思っていたんです。献立表だとか教室の壁の掲示を見ながら、『今日の給食はー…うわっ銀杏あんの?』なんて呟きながら、私をチラッと見やる。『あ〜、銀杏、癖強めだもんね』なんて返してみると、私の眼をすっと見据えてくる。『〇〇って苦手なもんあんの?なんか好き嫌いするイメージないわ』なんて。私にとってはどうでもいい話…って、ほんとここから彼との違いをよく感じますね。彼にとっては日常会話。私は相手が彼じゃなければ下手したら『えーなんだろなぁ』なんて適当に流して応じないかもしれない。
彼は普段から私の反応を観察している節があるけど、その時はやけにこちらの様子を伺っている気がして、なんだろう?と思っていたら、ふと気づいたんです。もしかして優等生の私が先生に怒られたから、傷ついてるんじゃないかとか思ってくれたのかな。だから大丈夫だよって言うみたいにいつも通りな様子を見せてあげたら、『そか』とばかりに確認完了。納得した様子で『んじゃワゴン持ってくっか〜…あ、〇〇マスクちょーだい』なんて言って、『まーた忘れたんか』なんてランドセルに予備のマスクを取りに行くと、後ろから他の女子が『あたし持ってるよー!貸したげる』ってすっと手渡したんだけど、『え、いいよ〇〇にもらうから』とか言って。なんで手渡されまでしたのに断るんだろ?そっちの方が早いし…とか思いつつよく分かんないけど結局私が取り出しに行ってあげて(喜)。『なんか…マスクって匂い大事じゃん』とか謎に何も言ってないのに言い訳みたいなことこぼして。『…まぁ、私のマスクは個梱包だからね。衛生随一、他には負けないよ』って謎にフォローを返して。『そそ、ありがとっ』って言ってパタパタ廊下へ駆けて行って、ワゴン運ぶだけなのにまたわちゃわちゃした、通る声がよく聞こえてきて。
班を組む時は積極的に一緒になったり二人きりの状況で……なんてことこそなかったけど、集団の時は絡みやすかったらしく、私が通学路にいると駆け寄って『あーーっ!!〇〇だ!!』って一緒に帰るんです。あんた、みんなを置いてきてるけど大丈夫か?と思いつつ嬉しさが溢れました。
彼は感情の読めない、冷ややかで突き放すような真顔を人に向けることがあります。でも私が思うに、彼は感情が昂ったり空回りそうになったりだとか、照れ隠しをするんです。澄ました顔で、恥を晒さず冷静になろうと自己防衛みたいに一線を引いて、平静を保とうとする。そんな風に見えて。勝手な憶測でしかないけど、どれだけ私があなたのことを盗み見ているか。あなたの細かい感情まで分析してしまう嫌な奴になってしまっているんです。
私が帰り道に彼を見つけて、『あ、今日予定空いてる?』って聞いたら『空いてるけど』なんて返ってきて、その声は少し距離があるように感じるけど、彼はいつもこう。私の隣には他の女子がいるから。『△△(友達)と今からマック行くんだけど、一緒に行かない?』って言って、彼は『んーまぁいいよ』とか言っちゃって。つい『やった!!』なんて声をあげてガッツポーズ決めると、顔をふいとそらしながら嬉しそうにふにゃっと笑っていました。ガッツポーズはついキャラにもなく溢れてしまった内心だったけど、彼はいつも表情が出にくい私をよく見て表情を拾おうとするから、彼にとっては分かりやすく喜ぶ様子が嬉しかったのかな。結果オーライだったな。
 
そんな日々だったけど、私はその頃ついに潰れました。
元々対等な扱いを受けられなかった。理不尽な先生の贔屓はもはや周囲の同級生との明確な差別に変わり、“大人としてのこと”を子供の私に押し付けて。『信頼』と言う名の放置であり仕事の放棄で、私に枷と錘をつけて拘束する。
私は何も求めてこなかった。何も望まなかった。何も自分のことを言わず、言われたことをやるだけ。何のために私は無償で与え続けさせられるのか。
それに加え、ライバル心を剥き出しに隙をついて衝突してくる同級生。
疲れが出れば勝手に「失望した」だなんて優等生の私は言われる。
ただ私は弱かった。耐えられなかった。
私が悪いわけじゃないけど、誰かのせいにしたいとも思わない。もう、それでいい。疲れるから。
まぁどうであれ表向き、私という人間は、学校に適合できなかった。それだけのことなんでしょう。
今までの全てに飲み込まれるようにして、崩れた。
思うように動いたり喋ったりできなくなって。
そんな時になぜかタイミング悪く教室で彼と隣の席になれちゃって。私は黙りこくるようになっちゃって。彼も距離を感じ取ったようで。そういうのに敏感だから。居た堪れなさうにして、つまんなそうにしていて。理科の授業の時のように、私がリアクションするだとか、そんなのできるわけなくて。だって学校にきて席に座っているだけで喉の奥が苦しくて、どこかが痛くて。
だんだん気まずくなっていって、そのまま私は学校に行かなくなっていて、不登校になって。その後一回も教室に行くことなく卒業しました。
たまにの別室登校ができていた時があって、その時に運悪く彼とすれ違ってしまったことがありました。彼は気だるげそうにあくびをして歩いていましたが、私に気づいて驚いたように二度見して足を止めた彼の気配を感じて、私はすぐさま駆け足で校舎の裏口に入ったのが最後でした。
小学校での不登校期間中、よく連日彼と楽しく話したり、彼がまた分かりやすい態度で私に懐いた様子が夢として出てきて、目が覚める度に憂鬱でした。もう一刻も早く、全てを忘れたかった。好きな彼とか関係なく、それすらも巻き込んでしまっていいから、首を締め続ける全部壊してしまいたい。

はたっと道が被った時に、すれ違おうとして被って、0.数秒の沈黙が流れて何事もなかったようにすれ違って…彼の私を捉えていない冷たい瞳が苦しくて。彼のことがよく分からなくなってきて。でもきっと彼の瞳にも彼と同じような私の姿が写ってたんでしょうね。
そんな気まずさの後にも座る席は隣り合わせで。隣にいるのにこんなにも遠くて。怖くて。彼の教材をスッと私と反対側の机の端っこにまとめる仕草が嫌で仕方なかった。よく動くから、その度に机から落ちるのに、それでもその度変わらず端にまとめた。
二人きりになるたびに気まずくて。彼の失望したような、興味のない相手にする顔、眠たげな節目が目の前にあって。
彼のことを思い出すと苦しくなるけど、今日話してみたら、思ったよりいい思い出がたくさんありました。小学校全貌を忘れようと必死なのか、彼とは後味が悪かったせいもあるのか、思い出さないようにだけして日々をやり過ごしていたせいで、全部忘れたかのように思いました。本当はこんなにも鮮明に覚えているのに。
今でも好きだけど、思い出の人、って感じが強いです。素敵な私の初恋の人。付き合いたいとかは当時からなくって。いや、あったけど、触れたいだとか、あったけど…好きだと伝えたところで、付き合ったところで。私たちはまだ幼くて。そもそも彼は恋愛だとかいうのに疎い感じで、彼の無邪気さに恋愛は似合わなかった。告白する勇気もなかったし、未熟な恋愛もどきをするつもりもなかった。この恋に叶う叶わないなんて言葉があまりに見当違いだけれど、確かに私の恋の形だったんです。

不登校期間中ずっとリモート授業を受けていたのですが、彼は私が入っているパソコンを気に留めてはおらず、画面を見ることはありませんでした。チラッとたまに視線が数秒こちらを見つめていた時もあった気がするけど、気がするって、それだけ。
でも彼があまりにも気にしないから、至近距離のカメラで、PCの無機物目線でしか見られない彼の顔が見れて。よくよく思えばまじまじと彼の正面の顔を見れたのは初めてかもしれません。いつも目が合わせられなくて、しっかり見れなくて、記憶の中の同じ空気に過ごす彼は横顔ばかり。
機械越しでも彼はこんなに綺麗な人なんだなぁ、なんて。
やがて六年生になってから、いつも拾っていた聞き慣れた声はリモート越しに聞こえなくなって、あぁクラス別れたんだ。って知りました。
クラスが別れれば接点もないし、話す理由もない。
私には積極性がないし、彼もまた澄ましたようにするんでしょう。横目で私を捉えて、それだけ。彼は騒がしいグループの中で談笑しながら、私は委員長なんかと打ち合わせをしながら手元のメモから顔を上げないまま、廊下ですれ違うんでしょう。振り向いて彼の後ろ姿を盗み見て、堪えるようにまた歩を進めて打ち合わせを続けるんです。そんなのが安易に想像がつく。私が不登校にならずとも関わりはなくなっていたと思います。
今でも推しの画像を漁っていたらすぐにその人を思い出すくらいです。ずっと私の中にあの人はいるんでしょう。

最初の頃、仲良くなりたい気持ちと近寄りがたさが変にから回って彼に変な絡み方をしてから、羞恥心と後悔で私から絡むことはなくなった小さく可愛らしいトラウマ。
私にはいつも綺麗な字を求めた彼。
手を洗っている姿を彼にじっと見つめられるのが居心地悪くて適当に洗うと、彼が何とも言えない“違う”って顔を浮かべていた。
勉強を教える私に「天才だ」だなんて言って、変に私も動揺して「飲み込みが早いから教えがいがあるよ」なんて返して、「いやいやそっちが…」って二人で言い合って。むず痒く顔が熱くなった。
 同じグループの女子に肩を組まれて密着しながら、嬉しそうに笑っている顔。私にだけ見せるわけじゃないって分かってるし、私にもその子にもある感情は恋愛感情じゃないって分かってる。ちょっと距離を置きたくなった瞬間。
 そしてその女子に授業中後ろから消しカスを投げているところを見て、心底呆れていると目があって、居た堪れなさそうに笑いかけてきて、咎めるような目線を送りつつも、目が合ってこちらに笑いかけている彼を逃したくなくて、笑い返してしまった。仲が良くなるとなのか、遠慮がなくなる悪いところ。
私の決して涼しくない笑った顔を彼に見せたくなくて、顔を逸らして、彼がわけもわからず壁を感じて離れそうになって、こんな些細なことで!!と彼の繊細さを再度認識した。後からフォローに回って慣れない絡みをしてみたら、彼はふはっと笑ったけど、なんだかその後の理科の授業でもちょっと拗ねてた日。
私の記憶に生きる貴方はどうしようもなく素敵な人です。

11/1/2025, 7:26:02 AM

これは胸のあたりなのか、腹なのか、頭の中なのか、分からないけど。音がザラついた空間を通って入り込んできて、不快だ。耳が痛いほどにうるさい。
吹き荒れる砂漠のようで。砂埃でノイズが酷くて、渇ききって苦しくて。
物理的な視野と内面的な視野は同期されてる気がした。
スマホの小さなこの画面から目を離さず前のめりに姿勢を潰す度、呼吸がしづらくなった。
上を見上げれば、信じられないほど穏やかな青空が広がっていた。肺に空気が入って、鼻から疲労のような、安堵のような、そんな息がひとつ抜けた。
手を伸ばしたら届くのに、手を伸ばさないのは、求めているのがそこにあるものじゃないって、どこかで分かっているからなのかもしれない。
結局僕は、幻想にしか固執できなくて
淡くて甘いそれは、雲のようだ。
小さい頃、雲に乗りたかった。ふわふわで、柔らかくて、心地いい。そうなんだろうと思い込んでいた。

価値も意味もないものを、信じたいんだ。
ただ感情のままに、欲望のままに、今ある生を楽しめたなら。

自分が何が欲しいのか、それすら漂って流れて、掴めなくて

側にいると思ってた理想は、フィルムだけで中身はただの虚しさだったのかもしれない。

価値を可視化させるSNS社会。

充実感を得られなくて、目を瞑りたくなるけど、瞑れば余計に色々なものが瞼の裏に見えてきて、どこにいて何をしたって休まらないんだ。

色々なものに食べられそうになる。

自分を扱いきれない。こんな僕を周りが扱えるわけもなく、孤立して。

共感がなければ理解されないのかもしれない。

権力者が言えばどっちにだって簡単に転がる。
サイコロゲームでもしているのかもしれない。

「美しい」そんな言葉すら僕を檻に囚わす

自分の中でただ生まれただけの思想が、ニーチェの哲学に当て嵌まれば「天才の真似事」と偽者扱いされる。

胸の圧迫感と肩凝りと眼精疲労が、まだ生を感じさせる。

7/31/2025, 5:06:33 PM

正直言って僕は平凡なわけで。多数の中で埋もれる存在で。
僕自身がそんなだからと言って、じゃあと周りに特別な繋がりがあるという訳でもないし、居場所になるような人がいるわけじゃない。そんなストーリー性も何もない僕だけど、僕なりの生き方があるわけで。

本当に全部どうでもよくなったら死んでいいことにしている。
だいたいこんなことを口に出せば色々なことを言われるけど、今すぐ死にたいと思ってるわけでもない。
ただこれが、僕なんだ。

あの頃の僕は特に、何をするにも恐ろしくて、全てが不安だった。だから毎日何十回でも“どうせ死ぬから”って唱えて、ずるずると持ち堪えてきた。
どうやったって生きていればしなくちゃならないことがあって、それがたとえ自分にはできなくたって、できるできないじゃなく、やるかやらないかの基準がほとんどなんだから。

僕は動けなかった。意思とは反対に足は竦んで後退りして。疲れたから休む。それがうまくできないようで。
立ち止まるのが苦痛で、足掻いて、余計に自分にムチを振るって。
立ち竦むことしかできない自分が嫌で、それ以上に周りの目が怖くて。

ただただ全てが不安定で。思考も感情も覚束なくて。
やっとの思いで身体を持ち上げても、次にどうしたらいいか分からなかった。前を見ればそこには失敗する未来があった。
失敗だとか、とてもあの頃の僕には耐えられなかった。その度に、耐えられなくていいや、死んじゃえ。って下手な防衛本能で最低限、感情を逃がしていた。

自分が今どんな表情をしてるのか分からなくて、目が合わせられなくて。落ち着かなくて。「挙動不審だ」なんて言われたところで取り繕う余裕がなくて。
逃げるように会話を避けて。
自分がコントロール不能になって、全ての自信が崩れ散った。

社会はそこまで優しくない。
「病気じゃないから、ただの怠惰の表れ」と突き放されるばかりで。そこに文句を言いたいわけでもない。
怒られ責められ、自己責任。
笑顔を作れない翳った顔に「感じ悪」と背中越しに吐かれ、気づけば誰も居なくなっていた。

きっと「全人類」とは言わなくとも、多くの人が人生で経験することなんだろうと思う。
夜は眠れなくて、ただ明日が来ることに怯えて涙が止まらなくて、声を押し殺して。朝、目が覚めると虚しくて憂鬱で。
全てに絶望して、何も見えなくて、ただひたすらに苦痛で、死んでしまいたかった。
常に気分は最悪で、ベットから一歩も動けず疲れ切っている。

休む。
最初のうちは「ゆっくりしてね」なんて優しくされても、そのうち態度は一変して冷たくなって。
態度や視線や言葉、そのため息に、存在を責められている気がした。
何度も死ななくちゃと思っては死ねず、残ったのはどこにもやりようのない深すぎる絶望。
自分の身体に傷をつけることに向けるしかやりようがなくて。

苦しさが口から溢れれば、周りは一斉にこちらを振り向いて口を揃えて突っ込まれた。
「夜更かしばっかしてるからだろ」
「生活リズム整えろよ」
「散歩でも行けばいいのに」
「運動したら?」
「スマホばっかり見てるから」
「何もしてないじゃん」
「育て方間違えたのかな」

“言ってもしょうがないか”とばかりに口を閉ざされ見過ごされる日々に、どんどん自尊心が擦り削れていった。

周りが悪いとは言えない。
どうしたらいいか分からないだろうし、
こんな状況の奴にずっと寄り添ってやってたりしたらそっちの身が持たない。

自分の未熟さを痛感して、それを突き放すでもなく苦笑で流すように努める日々だ。
自分と向き合って受け止めるって簡単じゃないから。

朝方の散歩が好きだった。
車ひとつ通らないような、夜中の狭間の朝焼け空。
季節によっては濃い霧が呼吸を重くさせたけど、普段の呼吸より遥かに澄んでてて、息がしやすかった。静まり返った淡い空気が、僕の存在すらその淡さでぼかしてくれる気がした。
住宅街を抜けて何もない道を歩く。何もないけど、僕にとってはたくさんあった。
散歩の為に早く眠って、昨夜のかけらの星が沈殿したような、しっとりした温度で目を覚ます。静かに顔を洗って、水を飲んで、ジャージに着替えて、玄関ドアを開け、僕の空気に触れる。

でも、いつしか崩れていった。
外の情報量に耐えられなくて、ぐちゃぐちゃになって呼吸は乱れて意味もなく涙が溢れて。
毎晩悪夢を見て。
夜には眠れなくなって、空気の温度も感じられなくなった。
目を開けていても何も見ていなかったからか、記憶に残っているものがほぼない。
起きているのか寝ているのか、自分でも曖昧だ。
身体が沈んで、自分の身体じゃないかのように重く、動かせない。
トイレに向かうのに立ち上がり、数歩進むのですら、姿勢を保てない。目眩すら引き起こして、トイレに着いた頃には息切れが酷い。自分の呼吸の荒さが目眩と吐き気と重さを混ぜ合わせていく。便座には座らず崩れ落ちてしたのは、排尿じゃなく嘔吐だった。
動ける気がしなくて、そのままトイレの床で蹲って、陽が落ち一日が終わるまでただじっと待った。いや、待っていたというより、時間の流れが待ってくれなかっただけだ。

こんな日々を過ごした地獄の数年間。

こんなことになるまで、何があったのかよく分からない。
産まれてきてからの自分を振り返っても、考えれば考える程、何を原因として取ればいいのか分からない。
ただ、どうにも何もできなくなった。その表れは唐突だったけど、本当に急にそうなったってわけでもないだろう。徐々に、徐々に崩れていって。

日常生活を送れるようになっては途端に周りから、社会からの要求が降りかかってきて、生きているだけじゃだめだなとしみじみ思った。

自分をコントロールできなければいつも気分は荒んでいて、口から出るのは相手を困らせる湿った陰気なことや、何に向けて言っているのか自分でも分からない汚い罵詈雑言ばかり。
そんな自分に嫌気がさして、人目が恐ろしくて。
人と会って、言葉を発して、やりとりをするたび、自分の中で何かが削り落ちていった。
こんなことが言いたいわけじゃないのに。今話している自分は誰なんだ?これが僕?
嫌にべっとりとした汗でぐちゃぐちゃになっていく。
僕、今どんな顔してる?
毎回そんなことを思っていた。

6/12/2025, 4:14:36 PM

静かに絶望を受け入れていく
目を凝らしてよく見ても分からないほどの微笑みすら浮かべながら。
それは余裕なのか、それとも諦めなのか。

愛を語るにはまだ浅い月日。
相手の愛に応えてみせる。
分かっている。自分が誰かの特別で、一途に好意を向けられて。優越感に浸れる都合の良さ。
“自分が愛されている”ことにしがみついて、相手が離れてしまえば“自分の価値が減る”気がする。
ただの依存だ。
自分の感情は見えないふりをする。
自分に空いた穴を塞ぐために好意を利用する。
相手のことを傷つけることになると分かりながらも後戻りはできない。
「×△□」
口から出た愛の言葉はあまりに歪だ。
全て嘘なのに。年齢も、性別も、学校も、学歴も、出生も、家庭も、環境も、明かした“自分の事情”ですら。何もかも、嘘なのに。
そんな嘘で創られた俺を抱きしめて、『本当の貴方を、どんな貴方でも、愛してる』だなんて、言わないでよ。君は何も知らないんだから。
何が嘘で、何が本当か、分からなくなってくるんだ。

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