蝉時雨響く、八月の初め。
山門を潜り、今年もまた幼馴染みの元へ来た。
照りつける陽射しが境内の石畳を灼いている。その熱さから逃げるように、旅行鞄を抱えて足早で奥へと向かった。
寺務所や母屋へは向かわない。避けるように迂回して、直接離れへと足を向ける。
「――来たよ」
小さく呟きながら、玄関を開ける。
ひやりとした空気が吹き抜ける。沈香の荘厳な香りが鼻腔を擽る。
戸を閉めると、奥から幼馴染みが現れた。
「久しぶり。今年も来たんだね」
浮かべる微笑みは、どこか悲しげだ。
「暇だったからね」
それに気づかない振りをして嘯く。
靴を脱いで上がれば、幼馴染みはそれ以上何も言うことはなかった。
先導するように廊下を歩く。
その変わらない背を見ながら、今年も会いに来てしまったことに、そっと目を伏せた。
毎年八月になると、この村では寺の離れに子供を滞在させる風習があった。
生者と死者が交わる時期。
時間と空間が歪むのを、正しく留めるためだと大人たちは言っていた。
「長旅、お疲れ様。少し休んできたら?」
「そうする。早く荷物を置きたいし」
苦笑しながら幼馴染みと別れ、毎年使う部屋へと向かう。
障子戸を開けて中へ入り、鞄を投げ出すように降ろした。
横になり、深呼吸をする。い草の匂いに混じり、沈香の香りがして目を閉じる。
「今年も、来た」
確かめるように呟いた。
何度も悩み、今年こそはと思った。それでも気づけば電車を乗り継ぎ、バスを待っていた。
誰もいない道を寺に向かい歩きながら、引き返そうと何度も思った。
もしかしたら、今年こそは他の子供たちが担うのかもしれない。そんな淡い期待を最後まで捨てきれなかった。
そんな期待など無意味だと、誰よりも知っているというのに。
一人自嘲し、村の様子を思い出す。
昼間だというのにしんと静まりかえった村は、まるで死んでいるようだった。
子供の姿もどこにも見えない。
ここにいるのは、大人ばかりだ。
「少し、寝よ」
緩く首を振って思考を散らす。
この離れで過ごす夜は長いのだ。今の間に、少しでも休んでおきたかった。
ふと目が覚めると、外はとっくに陽が落ちて、夜の闇に沈んでいた。
急いで起き上がり、時計を確認する。
二十一時。
「――寝過ごした」
軽く舌打ちして急いで部屋を出る。
灯り一つない廊下は暗く沈んでいるが、一時とはいえ何年も過ごした場所だ。向かうべき奥座敷へは苦もなく行ける。
急がなければ。
幼馴染みの悲しい笑みが脳裏に過る。逸る心を抑えながら、廊下を駆け抜けた。
襖を開け、奥座敷へと足を踏み入れる。
暗く静かな部屋とは対照的に、縁側に続く障子の外からは複数の声が聞こえた。
何かを嘆く声。苦悶に呻く声。
怒る声。恨む声。
「ごめん。寝過ごした」
それを気にせず戸を閉めて、座敷の中心に座る幼馴染みの元へ足早に近づく。
俯く幼馴染みは、体を震わせながらきつく手を握り締めている。声が聞こえる度に小さく声が漏れ、身を屈めて自身の肩を抱きしめた。
悲鳴を噛み殺し、何かに必死に耐えている幼馴染みに、唇を噛みしめた。
遅れた後悔に、ごめんと繰り返し。膝をついて、そっと幼馴染みへ手を伸ばした。
「そのまま、寝ていてくれても良かったのに」
「ばか」
か細い声に眉が寄る。言いたいことを飲み込んで、自身の腕に爪を立てている冷たい手を剥がし、自分の手と繋いだ。
「――っ」
途端に脳裏に流れ込む映像に、顔を顰めながら耐える。
それは、どこかの部屋。
床に伏せる自分の周りを取り囲む、大人たち。
「財産は……」
「こんな田舎……」
障子の向こうの声が、映像と重なる。
険しい顔をした周りが、声を抑えようともせず、金銭のことについて話している。
不意に、その内の一人がこちらを見下ろした。
侮蔑や嘲りを隠そうともしないその表情。苛立ちながら口を開いた。
「何の価値もない。家にも、親父にも……せめて、周りに迷惑かけず、さっさとくたばっちまえばいいのに」
伸びる手を視界に入れて、避けるように幼馴染みの手を離した。
「――っ、あ……ぅ……」
荒い息を吐きながら、額に滲む汗を拭う。
きつく目を閉じ、今見た記憶を散らす。
ゆっくりと呼吸を繰り返す。
まだ、一つ目だ。日付も変わらない内から、休んでいる暇はない。
そう自分に言い聞かせ、滲む涙を乱暴に拭う。
目を開けて、もう一度幼馴染みの手を取った。
拒むように引かれる手を、離れないように強く繋ぐ。そっと寄り添って、目を閉じた。
流れてくる誰かの記憶。
顔を顰め耐えながら、それでも今度は手を離さないようにと指を絡めた。
「――離して」
流れる記憶の合間に聞こえる幼馴染みの声に、首を振る。
返事の代わりに、幼馴染みの肩に凭れた。
こうして自分がいくつか受け入れなければ、記憶のすべてが幼馴染みを苛むのだろう。そんなこと、認められはしなかった。
「大丈夫だから。だって……」
それ以上を言わせないように、強くしがみつく。言われた所で自分の思いは変わらないが、この不安定な関係が請われてしまうのが怖かった。
幼馴染みは知らない。自分が全部知っていることを。
知らないから離そうとする。一人きりで、この地獄を耐えようとしている。
けれど、知っているのだと告げることはできなかった。
「ばか」
一言だけ告げて、新たに流れてきた記憶に耐える。
赤い空。鳴り響くサイレン。
手を繋ぎながら、必死に炎から逃げ続けた。
その手だけは、最後まで離すことはなかった。
手を強く握る。この手を離してはいけない。
すべて知って、敢えて自分はここにいるのだから。
「ごめんなさい」
謝る幼馴染みの言葉に、謝るのは自分の方だと口には出さず思う。
知っている。
この時期、子供が離れにいなければならない、本当の意味を。
大人の言葉はすべてでたらめだ。
自分たちは身代わり。
こうして訪れる、死者の記憶の受け皿だ。
沈香の香りが鼻につく。
幼馴染みの冷たい体に熱を奪われ、体が震え出す。
知っている。
幼馴染みが、もうこの世にはいないことを。
流れてくる記憶の中で見てしまった。
精神を病んでいた。長く受け皿として在り、死の記憶に晒されて、苦しんでいた。
奥座敷で揺れる体。その手には、二人で取った写真が握られていた。
けれど幼馴染みは、死んだ後も解放されなかった。受け皿として、今もこの離れに留められている。
すべて知っている。
知っていて、何も言えないでいる。言ってしまえば、二度と幼馴染みに会えなくなるかもしれない。その不安から、気づかない振りを続けている。
ここに来ることを、何度も迷った。いなくなった幼馴染みの幻と共にいることの意味を考え続けていた。
一年間。迷って、悩んで。そしてここにいる。
来年もまた、訪れるのだろう。
幼馴染みのためではない。況してや村のためなどでもない。
ただ、幼馴染みに会いたい。
その想いで、来年の八月もこの離れを訪れるのだろう。
20250801 『8月、君に会いたい』
彼女の吹く篠笛の音色は、夜の闇に溶けていく。
花の咲かない百日紅の木に凭れ、静かにその音色を聴いていた。
夜はまだ明けない。
朝が来れば、別れの時が訪れる。近づくその時を拒むように、体は僅かにも動こうとしなかった。
不意に音が途切れる。見上げれば、木の枝に座りこちらを見下ろす少女と目が合った。
「帰らないの?」
静かな声が、問う。
視線を逸らし、無言で首を振る。この際後の夜は、彼女と共にいたかった。
彼女はそれ以上、何も言わず。篠笛の音もなく、不思議な静けさが辺りに満ちていく。
何も聞こえない。虫の音も、夜啼く鳥の声も、何一つ。
まるで世界から、彼女と自分だけが切り離されてしまったようだ。
空を見上げる。瞬く星々に、このまま時が止まってしまえばと願いかけ、自嘲した。
「月日が経つのは早いものだ。あの生意気そうな少年が、瞬きの間にこんなにも立派に成長するのだから」
楽しげな、懐かしむような声に、彼女へと視線を向ける。穏やかな笑みを浮かべて遠くを見る彼女は、何一つ変わらない。
「あんたは、変わらないな」
姿も、笛の音も。誰かを想い、切なげに揺れるその目も何もかもが、出会った時のままだ。
「初めて会った時から、何も変わらない……結局、花は咲かないままだったか」
目を伏せて、昔を思う。初めて彼女と出会った時も、夏の陽気を引き摺った、こんな暑い夜だったと思い出した。
丘の上の百日紅の木。
花の咲かないその木には、ある噂があった。
――夜になると、女のか細い悲鳴が聞こえてくる。
学校の生徒や、大人たちも聞いたことがあるという。
幽霊などいるはずがない。ならばそれは風の音など、何か別の音を聞き間違えたのだろう。
しかし何人もの人が聞いたというのが、興味を引いた。
その時の自分は、何も考えてはいなかった。ただその正体を見破りたくて、とある夏の夜に百日紅の木へと向かったのだ。
熱く湿った空気が纏わり付く、そんな暑い夜だった。
離れていても、耳を澄ませば微かに聞こえる高い音。それは悲鳴ではなく、祭などで聞く笛の音だと気づいた。
甲高く、それでいてもの悲しい旋律。訳もなく胸が苦しくて、気づけば木の元へと走り出していた。
「――ぁ」
見つめる先の光景に、思わず立ち尽くす。
木の枝に座り、笛を吹いていたのは、自分よりもいくつか年上に見える少女。
夜に浮かぶ白の着物。長い黒髪。
幻想的な光景に目を奪われる。ふらふらと彼女に近づけば、笛の音が止んだ。
「誰?」
見下ろす彼女の目は、揺らぐ炎のように赤い。
「こんな夜更けに外に出ているなんて、とっても悪い子なんだね」
くすり、と笑われて、見入っていた自分に赤面した。
「あんたは、誰だ?」
彼女の問いに答えず、逆に問い返す。
恥ずかしさから睨み付けるような格好になってしまったが、彼女は気にする素振りを見せない。穏やかに微笑みを湛えて、座る枝をそっと撫でた。
「この百日紅の木だよ」
あぁ、と納得する。
幽霊など信じていなかったが、彼女は木の精だと心から思えるほどに美しく、そして儚かった。
「夜になると聞こえる女の悲鳴は、あんたの笛の音のこと?」
きょとり、と彼女の目が瞬いた。悲鳴、と首を傾げながら呟いて、次第にくすくすと声を上げて笑い出す。
「悲鳴……悲鳴かぁ。私もまだまだだということだな」
可笑しくて堪らないというように、ただ笑う。
けれどその笑みが、どこか悲しげに見えて、意味もなく胸が苦しくなった。
耐えきれず、何も言わずに家へと駆け出す。背後から彼女の驚いた声が聞こえた気がしたが、足は止まることがなかった。
今でも鮮やかに思い出せる。
彼女の姿も、あの時の思いも、何もかもが胸を熱くさせる。
「最初に会った時が、昨日のことのようだよ。急に駆け出すものだから、気を悪くさせてしまったかと驚いた……もう来ないかと、そう思っていたのにな」
目を閉じ、夜風に吹かれながら、確かにと密かに同意する。
正体を見破ったのだから、彼女の元へ通う必要はどこにもなかった。
それでも通わずにはいられなかった。あの悲しげな笑みを、夜に一人、篠笛を吹く意味を知りたかった。
「あんたの奏でる音色が、気に入ったからな」
正しくも謝りでもない言葉を紡げば、彼女の密やかな笑い声が聞こえた。
ややあって、笛の音が聞こえ始める。その音色を聴きながら、今まで彼女と過ごしたこの夜の一時に思いを馳せた。
何度も彼女の元へと足を運んだ。
彼女は呆れた目をしながらも、笑って何も言うことはなかった。
夏の夜に始まり、秋を過ぎ、冬を越えて。春が来て、一年が過ぎ、気がつけば何年もの年月を彼女と共に過ごした。
あれは夏の終わりの頃だっただろうか。
彼女に花が咲かない理由を聞いてみたことがある。
「そうだねぇ。どうしてだろうな。気づけば花が咲かなくなっていたから、よく覚えてはいないな」
「病気なのか?どこか悪い所があったりするんじゃないのか?」
「違うさ。見ての通り、体の方はこんなにも丈夫で立派だろう……問題があるとすれば、木じゃなくて心の方だろうね」
目を細めて、彼女は遠くを見る。自分の知らない誰かを思い描いているのだろうか。
胸が苦しくなる。その痛みが恋だと知ったのは、ずっと後になってからだった。
「忘れられれば、正しく思い出にできるのなら、また花は咲くのだろうけどね」
そう呟いて、彼女は笛を吹く。
その旋律は、変わらずどこかもの悲しさを含んでいた。
不意に明るさを感じ、目を開け顔を上げた。
遠く東の空が白んでいる。
朝が訪れようとしていた。
「さて、そろそろお別れだ。楽しい時間をありがとう」
笛の音が止まり、彼女が囁く。
見上げる彼女の姿は薄れ、朝陽に消えようとしている。
立ち上がり、手を伸ばした。目を瞬く彼女の手を掴んで、強く引き寄せた。
「なっ、ちょっと……!」
「最後くらい、一緒にいてほしい」
呟けば、彼女の抵抗が弱くなる。
羽根のように軽い彼女を抱き上げ、歩き出す。丘の上、朝陽が一番近くで見える場所へと向かい、彼女を抱いたまま白む空を見上げた。
「――聞いてもいいか?」
「なに?」
「なんで、朝陽を嫌うんだ」
それは、ずっと気になっていたことだった。
彼女は陽の沈んだ後に現れ、陽が昇る頃に消える。
陽を厭う理由は、自分の知らない誰かと関係があるのだろうか。
「――戻ってこなかったからね」
小さく呟く彼女の声は、震えていた。
「別に、約束をしていた訳じゃないんだ。ただ、私に水を与え、篠笛を教えて……いつものように朝陽と共に去って、そのまま」
彼女の頬を、滴が伝う。その目は悲しみを湛えながらも、愛しげに揺れる。
今も待っているのだろう。戻らぬと知りながら、思いを止められずにいる。
愛おしいと思う。彼女のその一途さは、とても美しい。だが同時に、今を見ようとしない彼女の頑なさを憎らしくも思った。
「――そろそろ、陽が昇る」
込み上げる思いを押し殺し、呟いた。
白から赤、そして青へと変わっていく空を一瞥し、そっと彼女を覗いみた。
消えずに色を戻した彼女は、静かに空を見上げている。
その目は涙の痕跡を僅かに残しながらも、穏やかに凪いでいる。目を細め、昇る陽を見つめた。
「眩しいな」
優しい声音。そっと彼女を地に降ろす。
「約束でもするか」
そう告げれば、驚いたように彼女は振り返る。
「あんたが待つ誰かは、何も言わなかったんだろう?なら、俺はあんたと約束してやる」
「約束……」
彼女の顔が泣きそうに歪む。それに気づかない振りをして、彼女の前に跪いた。
「俺は必ず戻ってくる。どんなに時間がかかろうと、どんな形になろうと……陽を連れて、あんたの元に戻ってきてやるよ」
真っ直ぐに彼女を見上げる。ひゅっと息を呑む彼女の手を取り、笑ってみせた。
「いつの間に、狡さを身につけたのやら」
呆れたように微笑みながら、彼女はまた一筋涙を溢した。
立ち上がり、その涙を拭う。そっと抱き寄せれば、彼女は小さく息を吐いた。
「私には陽の光は眩しすぎるよ……眩しくて、咲いてしまいそうだ」
その言葉と同時、強く風が吹き抜けた。
思わず目を細める。彼女の姿が掻き消えて、はっとして、背後を振り返った。
「――あぁ、綺麗だ」
風に吹かれ、満開の薄紅が揺れていた。
篠笛の音。高らかに澄んだ音色を響かせる。
胸が苦しくなる。泣くのを耐えて微笑んで、ただ花を見つめる。
記憶に焼き付けるように。戻る時の導となるように。
陽の光を浴びて煌めく、百日紅の花に改めて誓う。
「必ずかえってくる。だからどうか、この美しい花と旋律で、俺を導いてくれ」
襟を正し、深く礼をする。
「いってくる」
微笑んで彼女に背を向けた。
陽は昇り、朝が訪れた。
心は酷く穏やかだ。心残りなどはなく、足取りに迷いはない。
不意に空を見上げた。眩い陽に目を細め。
だが彼女の笑顔の方が余程眩しいと、柄にもないことを思い、一人笑った。
20250731 『眩しくて』
暗闇の中、太鼓の音が鳴り響いていた。
その音に導かれるようにして、少年はそっと目を開く。
いくつも連なる提灯の灯り。夜道を淡く照らし、奥へと誘う。
夜祭りだろうか。左右に並ぶ屋台からは、香ばしい匂いが漂っていたが、不思議なことに、どの屋台にも人影はない。
祭を楽しむ気配すら感じられなかった。
ふと、太鼓に混じり、甲高い笛の音が聞こえた。
どこか不安を誘う、その旋律。鼓動のように一定の間隔で響く太鼓の音と混じり合う。
その音の方へ、少年はじっと視線を向ける。
その目は恐怖を色濃く浮かべながらも、強い意志を湛え。
やがて少年は目を閉じ、深く呼吸をする。心の中でゆっくり十数えて、再び目を開けた。
静かに歩き出す。
まだ幼いはずの少年にしては、不釣り合いなほどしっかりとした足取りだった。
太鼓と笛の音に誘われ辿り着いたのは、大きな神楽殿のある開けた場所だった。
大勢の顔の見えない観客が、舞台を取り囲む。面を被った奏者たちが、途切れることなく音を奏でている。
その中心で、男が一人舞っていた。
だが、その動きは酷く鈍い。呼吸は荒く、今にも倒れてしまいそうなほどだ。
男が動く度に、汗が舞台に滴り落ちる。あるいはそれは、男の涙だったのだろうか。
笛が一際高く、鋭い旋律を奏でる。
太鼓が力強く打ち鳴らされるが、男の体はもう持たない。
膝をつき、地面に手をついた。
太鼓の音が止まる。
笛が、悲鳴のような高音を一つだけ響かせ、沈黙する。
聞こえるのは、男の荒い呼吸のみ。
それすらも、次第に浅くか細くなっていく。
不意に、舞台の暗がりが蠢いた。
ぞわり、と黒い影が男の足に絡みつき、沈めていく。
「あ……あぁ、まだ……いやだっ……!」
男は怯えた様子で、這いずりながら舞台から逃げようと踠く。
だが沈む足は止まらず、男の体はゆっくりと舞台に呑まれていく。
「助けて……助けてくれ……まだ、終わりたくない……誰か……」
男の悲痛な叫びを、誰一人聞こうとしない。
必死に伸ばされた手を取るモノはない。
走者も観客も、微動だにせず。
ただ、男の終焉を静かに見つめていた。
「どうして……こんな……」
小さな嘆き。
掻き消すように一度だけ、太鼓の音が響く。
それを最後に、男は舞台に呑まれて消えた。
「次は坊主の番だな。舞台に上がってくれ」
不意にかけられた声に、少年の肩が小さく震えた。
ゆっくりと視線を巡らせる。
舞台の上の奏者が、観客が、少年が舞台に上がるのを待っていた。
震える足に力を入れて、少年は舞台に歩み寄る。
階段に足をかければ、太鼓の枹を手にした男が目の前に立った。
「坊主はまだ七つになってないのか。なら、舞台に上がらなくてもいいぞ」
そう言われて、逡巡する。だが静かに首を振り、少年は足を進めた。
「そうか。なら励むことだ……よく聞け。オレの打ち鳴らす音は、坊主の鼓動だ。途中で止まれば、オレも手を止める。そうすれば終わり。一回きりだ……もし、苦しくて諦めそうになるなら、笛の音を聞け。あの音は、坊主が聞いている音だからな」
ちらりと枹を持つ男が、笛を持つ男に視線を向ける。
笛の男はひとつ頷いて、旋律を奏で始めた。
柔らかな音色。しかしもの悲しい旋律に、少年はそっと胸に手を当て目を閉じる。
聞こえる音は次第に少年の中で形を変え、声になった。
ぼんやりとして、言葉として聞き取れない。それでも悲しみ祈る声が、少年の鼓動に熱を持たせた。
笛の音が止まり、少年は目を開ける。
階段を上がり、舞台に立つ。
枹を持つ男もまた、太鼓の前に立ち。
枹を構えながら、不意に少年へと視線を向けて、言葉をかけた。
「坊主。約束はあるか。何でもいい。未来の約束だ」
問われて、少年は首を傾げる。
ややあって、はっきりと頷いた。
「じゃあ、問題ない。坊主は戻れるだろうよ――さぁ、始めるぞ」
力強く、太鼓の音が打ち鳴らされ。
少年は静かに舞い始めた。
太鼓と笛の音に合わせ、少年の手足が動く。
正しい舞い方などはない。心の赴くまま、鼓動の示すままに、只管舞い続ける。
息が上がる。体が重くなり、足が縺れそうになる。
それでも止まらない。少年の目は光を失わず、強く足を踏み鳴らした。
――元気になったら、海を見に行こうか。
両親の言葉を思い出す。
海を見たことのない少年のための約束。
元気になると答えた、あの日の鼓動の高鳴りは、今も忘れたことがなかった。
笛が高らかに旋律を奏でる。
息苦しさに視界が滲む。動きが次第に鈍くなる。
歯を食いしばり、重だるい腕を上げて、くるりと回った。
――誕生日プレゼント。楽しみにしてろよ。
兄の笑顔がよぎる。
明日に控えた誕生日を、兄は祝ってくれると約束した。
ケーキとお菓子と、そしてプレゼント。聞いても教えてくれなかった中身が、楽しみだった。
その時に感じた温かな熱が、じわりと胸に広がる。
一層力強く、太鼓が打ち鳴らされる。
少年の動きはもはや舞うというよりも、辛うじて動いているといった方が正しい。
震える足が何度も止まりそうになり、眩む視界は何も映さない。
胸が痛む。呼吸ができない。
それでも――。
浅い呼吸を繰り返し、限界を訴える体を動かして、少年は必死で踠き続けた。
――また、明日ね。
少年よりも幼い少女との約束が思い浮かぶ。
たくさんの管に繋がれ、それでも笑みを絶やさない少女。一日の終わりに必ず交わす指切りが、痛みとは違う鼓動となって少年を奮い立たせた。
些細な約束。けれどそれは、互いにとって決して破ってはいけない、生きるための楔だった。
いくつもの未来の約束が、少年の中で熱を持つ。それは体中に広がり、熱い鼓動となって少年に力を与えた。
笛の音が響く。太鼓が打ち鳴らされる。少年が力強く舞う。
舞台に光が差し込んだ。提灯の淡い灯りとは異なる、鋭い光。その暖かさに、少年は最後の力を振り絞り手を伸ばす。
見えない誰かが少年の手を掴み、引いた。光はさらに強くなり、その眩しさに耐えきれず少年は目を閉じた。
強く、激しく。太鼓が打ち鳴らされる。
抗うこともできず、そのまま意識は深く沈んでいった。
目が覚めると、少年は病室のベッドでたくさんの管に繋がれていた。
涙で赤くなった目をして、兄が笑う。その後ろでは、静かに泣く母の肩を抱いて、父が目元を潤ませながら微笑んでいた。
「おかえり。頑張ったな」
兄に頭を撫でられて、少年は目を細めた。
とくとくと、自身の鼓動が強く感じられる。それは太鼓の音のように聞こえて、少年は目を瞬いた。
長い夢を見ていた気がする。しかし夢から覚めてしまった今はもう、何も思い出せない。
「七歳の誕生日、おめでとう。プレゼント、楽しみにしてろよ」
兄の言葉に、あ、と小さく声を上げる。
誕生日。今日で七つになったのだ。
とくん、と鼓動が跳ねる。遠くで、力強く太鼓が打ち鳴らされた気がした。
胸に手を当てる。ふわりと微笑んで、少年は家族を見つめ。
「――ただいま」
神の手を離れ、現世に戻ってきたのだと、誇らしい気持ちで帰還の言葉を告げた。
202507230 『熱い鼓動』
楽しげな笑い声が聞こえた。
それが友人の声だと気づいて、その声の方へと歩み寄る。
何か楽しいことがあるのだろうか。近づいて、でも誰かと一緒にいることに気づいた。
「――でね。これは秘密なんだけど」
友人の囁く声に、時折誰かの相づちが混ざる。鈴を転がしたような、水が流れていくような、そんな綺麗な声。
無意識に音を立てないようにしながら、ゆっくりと近づいた。
「凄いでしょ。優しいし、真面目だし……」
くすくすと笑う声。木の後ろに隠れながらそっと覗き込む。
綺麗な水辺で、友人が誰かと話していた。けれど友人の視線の先には誰もいない。
誰と話しているのだろうか。じっと目を凝らしていると、不意に、差し込む光が何かを反射した。
透明な、人の姿。綺麗な長い髪の女の人が、友人の話に相づちを打っていた。
その姿に見覚えがあった。それが誰か記憶を辿っていれば、見えない女の人と目が合った。
「――ぁ」
思わず小さく声を上げた。
その声と女の人の様子から、友人が弾かれたように振り返る。友人の驚き見開かれた目が私を認めて、くしゃりと泣きそうに歪んだ。
「な、んで……」
呆然と呟く声に、何か言わなければと口を開く。
けれども何かを言う前に、友人はこちらに背を向けて走り去ってしまった。
「待って……!」
追いかけようとしても、足の速い友人には追いつけない。
気づけば女の人もいなくなってしまったようだ。
一人きり、水辺に座って揺れる水面を見つめ溜息を吐いた。
「どうしよう」
意味もなく不安になる。このまま友人と離れてしまうのではないかと苦しくなって、じわりと涙が滲んだ。
今度こそ、会えなくなってしまったら。
ふとそんな思いが込み上げ、同時に疑問が浮かぶ。
前にも、こうして会えなくなる不安になることがあった。
記憶を辿り、揺れる水面を見つめて思い出す。
「あの時……川遊びの……」
すべてを思い出して、水辺をぐるりと見渡した。
数年前のことだ。
川遊びをしていた友人が、流されてしまったことがあった。
止める私を気にせず川の中に入り、笑いながら手を差し出す。怒られるよとしか言えない私の腕を取ろうとした友人の体がぐらつき、そのまま流れてしまう。
一瞬でいなくなった友人を追いかけることもできず、ただ泣きじゃくっていた。その声に気づいた大人たちが、何人も集まって探したけれど、友人はすぐには見つからなかった。
見つかったのは、翌日だ。
流されたのとまったく同じ場所で、友人は倒れていた。
「女の人……あの時、一緒にいた……助けてくれた」
思い出す。その時の光景を。
川辺で倒れていた友人。急いで駆け寄れば、朝の光が煌めいて、友人の側にいる見えない誰かの姿を浮かばせた。
長い髪の、綺麗な女の人。優しく、けれどどこか悲しく微笑んで朝霧と共に消えていった誰か。
あれからずっと、女の人は友人の側にいたのだろう。そしてそれは、他の誰かに知られてはいけない秘密だったのかもしれない。
もしも、もっと早く、あるいは遅くに来たのなら。そもそも近づこうとしなければ、このまま何も気づかないで友達でいられたのだろうか。今更な後悔に、唇を噛みしめ俯いた。
「あなたは、いつもタイミングが良い時に現れてくれる」
不意に声がした。顔を上げると、陽の光を反射して浮かぶ、女の人の姿が見えた。
「大丈夫。あの子、知られることを怖がっていただけなの。本当は知ってほしかったのに、それを言えなかった。だからあなたが来てくれて、知ってくれて嬉しい」
「――本当に?」
「えぇ。あの子、いつもあなたの話をしてくれるのよ。自慢の友達ですって。優しくて、真面目で、可愛くて……悪いことをしても、いつも側にいてくれる。怖い時、寂しい時、悲しい時……一人でいたくないと思った時に、必ず来てくれる」
くすくすと、綺麗な声で女の人が笑う。
「あの日から、周りは皆気味悪がって離れたのに、あなただけは変わらず側にいる。助かった命を喜ばれないなんて、とても悲しいから。変わらないあなたがいてくれるだけですくわれる」
笑いながら、あの川辺で見た時と同じ目をする。
優しいのに、どこか悲しげな目。寂しそうな微笑みに、気づけば手を伸ばしていた。
「悲しいの?寂しいの?」
息を呑む音がした。すり抜ける手を掴んで、女の人の姿がはっきりとし出す。
「少しだけね。でも大丈夫」
手を引かれて、抱きしめられた。頭を撫でられて、いい子と囁かれる。
「優しくて、可愛い子……もしもあの子が戻らないなら、このまま連れていってしまおうか」
「なに?」
「水に引かれた子は、戻らないのが普通だもの。だから――」
女の人の話を最後まで聞く前に、強く後ろに体を引かれた。
目を瞬いて後ろを見る。険しい表情をした友人が女の人を睨み付け、次いで私を見て強く抱きしめられる。
「駄目。私の友達は渡さない」
「いいタイミング。でも少し力を緩めないと、苦しそうよ」
そう言われても、友人の腕の力は緩まない。眉を寄せて、はっきりと首を振った。
「どこまで話したの?」
「そうね。自慢の友達だって、いつも話していることくらい。大切で、大好きな――」
「それ以上言わないで!怒るよ」
もう怒ってる。
現実逃避気味に口には出せないことを思いながら、友人から目を逸らす。けれどそれに気を悪くしたのか、抱きしめる腕の力がさらに強くなった。
ひゅっと息を呑む。痛みすら感じる強さに僅かに顔を顰めれば、それに気づいた友人に慌てて解放された。
「ご、ごめんね。苦しかったよね」
「ん、大丈夫。平気」
笑ってみせれば、友人は泣きそうな顔をする。宥めるために背を撫でて、大丈夫だと繰り返した。
「ごめん……逃げたのも、秘密にしてたのも。いろんなことに無理矢理巻き込んできたことも、全部。本当にごめん」
「気にしてない。友達だから……秘密は少し寂しいけど、仕方ないこともあるし」
「――っ、大好き!」
泣きながら抱きしめられる。痛さや苦しさのない程度の力加減。それでも離れない強さに、苦笑しながら、同じようにそっと抱きしめる。
不意に、風が吹き抜けた。見えなくなった女の人の声を残して遠くへと去って行く。
「またね。今度は三人で」
再会の約束に、穏やかな気持ちで笑う。またねと呟いて、友人の背を軽く叩く。
ゆっくりと離れていく友人に、手を差し出す。
「そろそろ帰ろ?今日も泊まりにおいでよ。お母さんが夕飯作って待ってるから」
「――うん!」
友人の目から涙が零れ落ちるのを見ない振りして、手を繋ぐ。
「いっつも、側にいてほしい時に来て、欲しい言葉をくれるよね。タイミングが良すぎる」
「友達だからね」
小さな呟きに、笑って返す。
友達なのだから、変化に気づくのは当然だ。気にかけていれば、すぐに分かる。
それに、きっとそれはお互い様だ。怖がりで、一歩を踏み出せない私の手をいつも引いてくれるのは友人なのだから。
「早く帰らないと。ご飯が待ってる」
「そうだね。お腹すいちゃった」
笑いながら、手を繋いで一緒に帰る。
タイミング良くお腹が鳴った。顔を見合わせ、くすくす笑う。
帰ったら話してくれるだろうか。タイミングを見て、聞いてみるのもいいかもしれない。
あの女の人のこと。話していた内容のこと。
「今日もたくさんおしゃべりしよっか」
期待を込めて、繋いだ手を軽く振った。
20250729 『タイミング』
雨上がりの午後。空に虹が架かったのを認めて、学校の裏山へと駆け出した。
虹のはじまりを探す遊び。
誰が言い始めたのか。いつからか流行っていた遊び。数年前のあの日も、友人たちは虹のはじまりを探して裏山へ遊びに行ったのだという。そしてそのまま、誰一人帰っては来なかった。
その日は、熱を出してしまい遊びに行けなかった。数日後、熱が下がり学校に行った時に話を聞いた。
今も帰らない友人たち。誰もが皆の存在を忘れていく中で、自分だけは忘れず覚えている。
――虹のはじまりには宝がある。見つけてもらうのを待ってるんだ。
誰かが言った言葉。宝を求めて、虹の始まりを探しに行った友人たち。
今も、見つけてもらうのを待っているのかもしれない。
そう思うと、心が騒めき落ち着かない。見つけなければという焦燥感に胸が苦しくなる。
だから虹が出る度、友人たちを探して裏山へ向かう。
あれからずっと、虹のはじまりを探している。
何度も足を運んだ裏山は、今日は何故だかひっそりと静まりかえっていた。
虹を一瞥し、辺りを見渡しながら進んでいく。
秘密基地を作った広場を抜け、奥へと向かう。木登りを競い、木の実を探して探索をした裏山で、知らない場所などはない。
木々の合間を抜け、ただ虹を目指す。思い起こされる過去の楽しかった日々に、唇を噛みしめた。
早く行かなければ。今度こそ見つけなければ。
見上げる虹は、まだ鮮明な輪郭を保ったままだ。
今日は何かが違う。
静けさ。澄んだ空気。光の加減。
木々の合間から、七色に煌めく光が差し込んでいた。
――虹の始まりで、待っている。
鼓動が跳ねる。ようやく会える期待に、知らず駆け出していた。
光を追って向かう木々の向こう。
山道の先に、見覚えのない鳥居が立っていた。
鳥居を潜ると、空気が変わった。
微かに水音がする。木漏れ日のように降り注ぐ七色の光が、誘うように煌めいた。
水音に向かい進んだ一番奥に、小さな淵があった。
その前に、誰かが静かに立っている。白い着物を着た少年。まるで死に装束のようなその姿に、思わず足を止めた。
「やっと、来てくれた」
振り返る少年に、見覚えはない。けれども何故か懐かしさを覚え、胸が苦しくなる。
「虹の……はじまり?」
「そう。でもまだ不完全」
柔らかく微笑んで、少年は手を差し伸べた。
白く、細い腕。光を反射して鱗が浮かび、息を呑んだ。
「おいで。君は僕の霓《げい》だ。君がいなければ虹にはなれない」
穏やかでありながら、有無を言わせぬその響き。
行かなければという衝動と、行ってしまえばもう戻れない恐怖に、立ち尽くすことしかできない。
「私……私、友達を探して……だから……」
「その友達とは誰のこと?」
問われて、愕然とした。
「どんな容姿をしているの?名前は?」
口を閉ざし、首を振る。
誰一人、思い出せなかった。顔も、声も、名前すらも何もかも。
じわりと涙が浮かぶ。何かひとつでもと思い出そうとすればするほど、何も思い出せなくなっていくのが怖ろしい。
友人のことだけではない。住んでいた場所のこと。家族のこと。自分のことも思い出せない。
あるのはただ、目の前の少年に対する懐かしさと、満たされない欠落だけ。
「ちゃんと全部消化したみたいだね……これで準備は整った」
動けない自分の側に少年は歩み寄り、手を取った。涙を拭われ、目を合わせられる。
蛇のような細い瞳孔が、慈しむように歪んだ。
「さあ、食後の微睡みから、そろそろ目覚めておいで?」
歌うような囁きに、ゆっくりと瞼が閉じていく。力が抜けて、少年に凭れながら意識が落ちていく。
「まったく。一人で捧げられた時にはどうしようかと思ったけど、君が迷い込んできてくれてよかった……これでようやく虹に成れる」
長かった、と喜びを露わにする少年の声が聞こえた。
その声に重なるようにして、朧気に人影が浮かぶ。
こちらに手を伸ばす誰か。逃げてという声はもう届かない。
意識が落ちる。人影が消えていく。
そうして何もかもが暗闇に消えて、自分すらもなくして冷たい腕の中へ身を委ねた。
小さく気泡が上がる。
虚ろに漂いながら気泡を見上げていれば、背後から伸びた腕に引き寄せられる。
虹色に煌めく鱗に覆われた腕。着物の白もまた七色に揺らいでいる。
「おはよう。しっかりと馴染んだようだね」
直接鼓膜を震わせる、穏やかな声音。
彼の指先が腕を伝って手を取った。彼と同じように浮かぶ虹色の鱗をなぞっていく。
周囲で煌めく七色の光が、囲うように集まってくる。揺らぐふたつの影をひとつに溶かし、それは大きな龍の姿へと形を変える。
「行こうか。恵みの雨を降らし、約束の虹を架けに」
その言葉に振り返る。彼を見上げて小さく頷いた。
こぽりと気泡が上がる。言葉はすべて気泡に変わり、大地を求めて水面へ上がっていく。
水面から光が差し込んだ。七色に煌めく光は階《きざはし》となって、向かうべき道を指し示す。
ざわり、と体中の鱗が揺れる。彼に寄り添い、階を辿って。
彼と二人。天へと舞い上がる。
柔らかな雨を呼び。過ぎる後には、虹霓を残して。
どこまでも高く、昇っていく。
20250728 『虹のはじまりを探して』