sairo

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12/25/2025, 2:08:01 PM

そっと、目の前の小さな命を手のひらに掬う。
微かに響く鼓動と、伝わる確かな温もり。ほぅ、と吐息を溢し、目を細めた。

「いっしょにかえろ?」

問いかけに反応はない。
例え応えがあったとしても、何も変わらなかった。

「いっしょにかえろうね」

温もりを抱いたまま歩き出す。
帰ると決めた。だから一緒に帰る。

幼さ故の傲慢さを、今になって少しだけ後悔していた。

12/24/2025, 12:39:16 PM

ゆらゆらと炎が揺れる。
暗い部屋。燭台の蝋燭に灯された炎が、テーブルを囲う人々を淡く照らしている。

「如何でしたか」

誰かの声に、返る言葉はない。
沈黙が彼らの表情に影を落とす。それこそが、問いに対する何よりの答えだった。

12/23/2025, 9:45:10 AM

暗い道を歩いていた。
どこまでも続く一本道。辺りには何の気配もなく、一人きり。
何故ここにいるのか、ここが何処なのかも分からない。
ただ行かなければという焦燥感だけで、足は只管に前へと進んでいく。
何も聞こえない。何も見えない。
僅かな不安が込み上げ、足が次第に重くなる。立ち止まりこそしないが、その歩みは先ほどよりも明らかに遅い。

不意に、目の前に小さな光の点が見えた。遥か遠くに灯りがあるらしい。
その光を認め、息を呑む。変化に怯えるように、体が震える。
けれど足は止まらない。ゆっくりだが、確かに光へ向かい歩いていく。

――おいで。

声が聞こえた。頭に直接響く声。
意思に反して、歩みが速くなっていく。行くのが怖いと怯える心を無視して、体は速く行きたいのだと進んでいく。

「おいで」

光の向こう側から声がした。気づけば小さな光の点は大きくなり、口を開いて待ち構えているようだ。

行くのが怖い。
行かないと苦しい。

二つの気持ちが渦を巻く。立ち止まることもできずに光の元へと速足になり。
大きく開いた光の中へ、飛び込むように駆け出した。

12/23/2025, 6:24:31 AM

深々と雪が降り積もる。
大地が白く染まっていく。何もかもすべて、覆い隠していく。
厚い雲に覆われた空を見上げ、白い大地を見下ろす。
微かな吐息もまた、白く染まっていた。

「寒い……」

ふるり、と肩を震わせる。
このままここにいても意味はない。どれだけ待っていても白以外の色は見えず、況してや待ち人の影すら見えない。
もう一度息を吐く。踵を返し、降り積もる白に跡をつけながら歩いていく。
きっとその跡も、すぐに白に覆われてしまうのだろう。
ずっと待っていたのだと、募る思いすら雪は消してしまうのだ。

12/21/2025, 12:16:43 PM

髪を櫛で梳く従姉妹の手の心地よさに目が細まる。

「ちょっと、みかん食べながら寝ないでよ。寝るなら布団で寝なさい」

手を止めないまま従姉妹に言われ、閉じかけた瞼に力を入れる。
意識しないと、すぐに寝てしまいそうだ。
仕方がないと、心の中で言い訳をする。
暖かい部屋。暖かいこたつ。従姉妹の手の心地よさ。これで寝るなという方が難しい。
みかんを一房口に入れる。酸味と甘さが口の中に広がり、口元が緩む。ふわふわとした気持ちに、益々瞼が閉じていく。

「だから、食べながら寝ないの……ほら、ちゃんと綺麗に結んであげたんだから、起きなさい」

従姉妹の手が離れ、目を開けた。目の前に置かれた卓上の鏡に視線を向ける。
綺麗に結えられた髪。白のリボンが結ばれていることがどこか気恥ずかしいながらも嬉しくて、小さく笑みが浮かんだ。
だがすぐに、笑みは驚きと恐怖に引き攣った。

「どうしたの?」

不思議そうな従姉妹の声に、彼女には見えていないのだと悟る。
きっとこれは、自分にしか見えないのだろう。

白いリボンの不自然に伸びた端の先。自分の背後。
無表情に佇む幼い頃の自分の手首に、リボンは巻き付いていた。

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