10/31/2025, 10:41:40 AM
伽藍堂になった部屋へ足を踏み入れる。
冷たく澱んだ空気を掻き分け、中心に立つ。
何もない。すべてなくなってしまった。
ほぅ、と吐息を溢す。静かな部屋に、その微かな音がやけに大きく響いた。
ゆっくりと腰を下ろす。手にした篠笛を構え、目を閉じる。
いつかの夢を思い描き。
そして、旋律を奏でていく。
10/30/2025, 10:04:40 AM
花を一輪渡された。
ピンク色した小さな花。
いつものように彼の顔は不機嫌そうで。
でもその頬が、微かに赤く色づいているのに気がついた。
何故だろう。その瞬間、胸が苦しくて堪らなくなった。
10/29/2025, 9:44:34 AM
ゆらり、ゆら。
赤く焔が揺らめいていた。
音はない。ただ静かに、消えない焔が揺れていた。
「あれは、執着だ」
無感情に男は呟く。
伸ばしかけた少女の手を引いて、男は焔に背を向けた。
10/28/2025, 6:50:59 AM
「ねぇ、君は本当に君なの?」
鏡の中の“自分”が問いかけてくる。
「細胞は生まれ変わり、記憶は塗り替えられた。
それでも君は、“最初の君”と同じだと言えるの?」
答えようとするたびに、声は静かに笑う。
「じゃあ、君とは何だろうね?」
10/26/2025, 2:39:20 PM
赤や黄色に色づいた葉に紛れ、空から白い何かが舞い降りてきた。
手を伸ばし、風と踊るそれを掴み取る。見ればそれは、小さな白い羽根だった。
辺りを見渡しても、この羽根の主は見当たらない。
落ち葉よりよほど軽い羽根。陽にかざしながら見つめていれば、突然駆け抜けた一陣の風に乗り、羽根は空高く舞い上がった。
「――あぁ」
不意に込み上げる感情に、思わず胸に手を当てた。
悲しくなどないはずなのに、涙が流れ落ちる。
空を見上げても、あの羽根はもうどこにも見えない。
行かなければいけない。
漠然とした思いに突き動かされ、足は自然と動き出していた。