sairo

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10/13/2025, 9:14:59 AM

――あと十分。

時計を睨みながら、息を殺してその時を待つ。
深夜の交差点。その端で一人、日付が変わるのを待っていた。
交差点は境界なのだと誰かが言っていた。そして時間は稀にループするともいう。
頭から信じているわけではない。ただ、もしもの世界があるのなら、それを試してもいいのではないかとも思っている。

――あと三分。

時計の針が進んでいく。時間は止まることなく流れていく。
もしもがあるのならば。
考えるだけ無駄だと分かっている。過去に戻れたとしても、きっと起こってしまったことは変えられない。
それでも。刹那の夢だとしても。
あの日、あの時。
家に残っていたのが自分の方だったのならば。

――あと一分。

時計の針を見ながら、交差点に近づく。聞こえないはずの針の音が聞こえた気がして、鼓動が速くなる。

――五、四、三……。

心の中でカウントダウンをしながら、足を踏み出す。

――一……。

時計が十二時を告げたと同時、交差点の中心に立った。

10/11/2025, 9:56:58 AM

たった一輪咲いた花。
その赤が、すべての答えだった。
思わず、膝から崩れ落ちる。込み上げる涙が世界を滲ませ、一輪のコスモスの姿を隠していく。
伸ばした手に触れる花弁のその柔らかさに、息を呑んだ。
触れただけで壊れてしまいそうなほど、華奢な花。
だがその強さを知っている。
他でもない、約束をしたあの人がそれを教えてくれたのだ。

10/10/2025, 10:00:27 AM

涼やかな風が、甘く切ない香りを運ぶ。
また秋が来たのか。ぼんやりと空を見上げ、思った。
浮かぶ月は、僅かに欠けてはいるものの美しさは損なわれてはいない。月は春よりも鋭く、夏よりも冴え冴えとして、そして冬よりも蠱惑的だった。
息を吸い込み、漂う金木犀の香りを取り込んだ。
くらくらとする甘さに、胸の痛みを覚えた。
それはいつかの、静かな恋の痛みによく似てる気がした。

10/9/2025, 9:55:29 AM

彼はまるで風のような存在だった。
気まぐれに擦り寄り、けれど次の瞬間には冷めたように離れていく。手を伸ばしてもするりと擦り抜け、繋ぎ止めておくことができない。
彼は、きっと自由な風なのだ。彼の笑顔を見るたびそう思う。
風に恋をしても空しいだけ。何度も自分に言い聞かせた。
繋いでいた手を離す。何も気づかないで歩いていく彼の背中に、心の内で囁いた。

――好き。大好き。愛してる。

だから手を離すのだ。

10/8/2025, 9:50:48 AM

虫の音も聞こえない、静かな夜。
空を見上げても、星も月も何一つ見えなかった。
ほぅ、と吐き出す息が白い。秋の彼岸を過ぎて、夜はめっきりと涼しくなった。
もう一度息を吐き、手を擦り合わせる。その微かな音すら、夜は呑み込んでいった。

とても静かだ。

一人きり。
誰一人おらず、何一つない。
暗い世界で、ぼんやりとそう思った。

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