sairo

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12/4/2025, 10:11:06 PM

さく、さく、さくり。
音を立てて霜柱を踏みつけ遊ぶ弟を見ながら、そっと手に息を吹きかけた。
冷たい木枯らしが吹き抜け、体を震わせる。少し前までの暖かさなど欠片も抱かない風と遠い陽に、眉を下げ空を見上げた。
さく。さくり。
小さな足音。落ち葉の道を歩いた時のような、けれども少し違う音に季節が過ぎていることを感じる。
秋は過ぎてしまった。今、ここに在るのは冬なのだと、風や大地が教えてくれていた。

12/4/2025, 8:42:39 AM

手のひらに収まるほど小さな箱。
箱の中に収まる小さな貝殻に、恐る恐る指先を触れさせた。

「なんで……これ……」

忘れることのできない、過ぎた過去が脳裏を過ぎる。
青の海。青の空。白い砂浜で二人、時を忘れて遊んだ幸せな思い出。
宗が苦しくなって、箱を抱きしめ俯いた。

12/3/2025, 9:42:50 AM

窓辺に座り、暗い空を見上げる。
細い三日月が笑う星空は、どれだけ見ていても動く様子はない。
凍てつき、時を止めてしまったかのような星々に誰かの背が重なって、眉を寄せ唇を噛み締めた。
嫌なものを思い出した。視線を下ろし、暗いばかりの周囲を見つめる。星空以上に冷たさしか感じられない暗闇に重なる何かを振り切るように、音を立ててカーテンを閉めた。

12/2/2025, 9:49:58 AM

くしゅん。
小さなくしゃみと共に、毛が逆立った。

「そろそろ寒くなってきたからね」

くすくすと彼女は笑いながら、四本の尾で体を包まれる。
暖かい。逆立つ毛を丁寧に毛繕いしてくれる神使の姿の彼女は、白くてきらきらしていて、とても綺麗だった。

「さて、今度はどんな物語が聞きたい?それとも遊びに行こうか」

柔らかな彼女の声と毛繕いの気持ち良さに目が細まる。
次は何をしようか。そう考えて、ふと気になっていたことが口から溢れ落ちた。

「神使のことについて知りたいな」

神使とは、ただの役割だと彼女は言った。お役目を持った長くを生きた狐。それが自分なのだと。

「そうだねぇ。神様のお使いがほとんどかな。人間からのお願い事は、私は専門外だったし」

聞きたい?そう聞かれて、頷いた。
彼女のことが知りたい。秘密を知って前よりも仲良くなれて、なのにさらにもっとと欲しくなる。
我が儘だろうか。そう思うが、彼女の尾が優しく背を撫でて、思わず甘えるように擦り寄った。

「じゃあ、特別に教えてあげる。昔々――」

そう言って物語を語るように、彼女はゆっくりと語り出した。

12/1/2025, 6:38:08 AM

口を開き、息を吐き出した。
喉は震えない。ただ息が溢れ落ちるだけ。

「大丈夫。必ず治るよ」

優しく頭を撫でて姉は言う。それに小さく頷きを返すものの、それを心から信じられるほど子供ではなかった。

声は出ない。
きっと二度と歌えないのだろう。

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