村人ABCが世界を救うまで

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4/2/2026, 10:34:36 PM

大きなゴーレムを把握できなかった。
小さな衛兵の影を落とすのにいっぱいだったからだ。

風圧と共に巨大な手が伸びてくる。見た目通りに物理攻撃だ。
避けるのでは間に合わない。避けても周りの術師から集中攻撃を食らう。

「2人とも動くな!」

翼兵2人とも防衛本能よりも命令を優先し身体を硬直させた。
小さな2人の前に跳んで、いくつもの防御壁を作ってそのまま受け止める。
一瞬止められるような反動があったが、長くは持たない。ビシッっと嫌な音がする。


左舷を任せていた騎馬兵であるヨーテ、オーガ風の鎧兵ドリアンが割って入ってきたのを見て、防御壁を反射させて落ちた。2人を抱えて。

一瞬、記憶がとんでいたらしい。
「リーダー!リーダー!死んだら嫌だ!」
翼兵の一人が胸の上でおうおうと泣いていた。なんだか息苦しいと思ったらこれか…。
「僕たちは代わりが居ます、もうやめて」
お決まりのプログラムされたセリフが出てくる。
「いつもそういうね…」
動く方の手で、ボサボサの頭を撫でる。まだ小学2年とか、そんな小ささだ。

表情は悔しげで、大事にしていたものを壊された男の子なんだけどね。
女の子の方も無事だ。言葉はもともと喋れないが、瞳に悲しそうな光が浮かんでいる。
「お前も無事ね」
こくんと小さな顎が揺れた。
そして大泣きしている失敗作。感情を出して止まらない男の子のほうを抱きしめる。
「お前のかわりも居ないんだよ。もう製造も止まってるNo.9。お前以外は全部処分された」
「知ってる…」
「そうね」
何度も何度も聞かせた話だ。
お前たちが居なければどうやって立てっていうの。
「頭は動く」
首も異常なし。足首も大丈夫。
「行くよ」
掛け声で2人の目が戦闘体系に変わる。

掛け声をかけたら、2人は応戦している仲間めがけてすっ飛んでいった。
そして私も後ろから援護する。何年も変わらない、ずっとこれからも。失うわけには行かないからね。
「お前も代わりは効かないからね」
「存じております」
私を抱いて受け止めていた兵に言う。こちらの青年とも長い付き合いだ。
回復師呼びますか、と言われたけど断る。

「お前も居なきゃ私は生きていけないんだよ。肝に銘じときなよ」

「光栄です。僕も貴方がいなきゃ死にますよ」

最後の方は茶化して終わらせた。お互いよく性格を知ってるからね。

大切なもの

4/1/2026, 5:49:38 AM

この辺りでは、最後の妖精族の結界に守られた森だった。

一般の村人もいる。逃げることに成功した兵士たちも。そして地と炎のドワーフ達をつれて逃げた勇者達も。

「その傷で動くのは無理よ」
「でも囲まれたらおしまいだ、今突破口を開いたらもしかしたら…」
「バカね!老人だって怪我人だっているのよ!」
仲間内でも意見が割れ始めた。

最後まで防戦に挑むか、夜の襲撃前に背水の陣を組むか。

もうおしまいよ!もう助からないのよ!
そう村の女が子供を抱えて泣き叫びだしたとたんに、それまで平静であった者達さえも取り乱し始めた。
人はこんなにも迫る驚異に弱いものなのか。
ざわめきが大きくなっていく。終わりが近づいているのに娘が妙に落ち着いているのは、戦えるものだからか、転移者ゆえなのか…。

兵士が静かにしろと叫び、人々は萎縮していく。そのなかで一人凛と立つ青年がいた。
村の若い神父だ。彼は静かに人々を説いていく。

多くの人に祈りを唱え、頭や肩に触れ、不思議な印を切っていく。
そしてやがて私たちの前にやってきた。
まだ青年ともいえる神父だ。宗教のことはわからない。だけど村人たちや兵士の心の支えなのだろう。
「まだ若い御身で、よくぞここまで彼らを導いてくれました」
「いいえ…。ついにここまでかと思うと、自分の無力感を思い知ります」
「あなたはよくやりました」
そして後ろに居るドワーフ達は、人族と違い落ち着いてるなと、今更ながら気付いたのだ。
「彼らは…恐ろしくないのですか」
「どうでしょう」
言葉は通じるけど、根本的な部分が違うと今回の旅で思ったのだ。

「恐ろしいさ。でもな人間。我々は来世を信じているんだ」
ドワーフの中の最年長のジジが言った。
「来世…」
「そうとも。我らは運命を受け入れる。目の前の魔物に一歩も引かぬ。朽ちても命果てとも、更なる強き身体に生まれるだけ。もともと戦士と鍛冶の一族に臆病者は居られんのさ」
ジジは仲間同士と武器を磨いて静かにその時を待っている。

怖がりの人はどうするんだろう…。怖いと思うのは自然な感情だわ。

聞いていて娘は疑問に思った。
人間たちは怯えて髪に救いを求め小さく固まっている。勇者たちに奇異の目を向けていた。
襲われることを恐ろしいと思うのは当たり前の感情なのに。不思議に思ったけど、これが種族の違いなのだろうか。
「お前、番はいるのか」
「つがい、ですか?」
そこのやつも、と、ジジが娘の恋人をごつごつの太い指で指差した。
「つがいって何?」「さあ」
赤髪の優しい青年だ。今回、無理をして付いてきてくれた。

こほん。と、それまで聞いていた神父が咳払いをした。
「結婚相手とか、一生を添い遂げる相手のことですね」
「けっ……!!!」
少女は大声が出そうになって口元を押さえる。
「こちらの宗教の簡略したものであれば私も資格を持っていますが」
彼は司式者になると言うのだ。
今夜死んでしまうかもしれないのに?
確かにとなりの彼はずっと側に居てくれた。でも…
「死後も離ればなれにならぬように。生まれ変わっても縁続きでありますようにと」
そういう習わしがこちらにもありましてね。と、神父が続けた。

「お願いします」
「ちょ…!!」
「死ぬつもりはないけど。離れるのは嫌だ」
彼の大きな手が握りしめてくる。震えていることに気がついた。怖いんだ、高魔力を持つ彼でさえも…。

まるで遠くから自分をみているようだった。
人々は小さな声で祝いの歌を口ずさんでくれた。兵士達は有り合わせの食料を出して、子供達はぼろ布のヴェールを作ってくれる。
仲間達は皆喜んだ。
「素敵だよ!」
「いいね」「やるじゃん」
まだ16なんだけど、ね。こっちの世界では普通らしいんだ。
娘は戸惑いながら、大きな樹に連れられた。まるで教会の段のよう。
「死が二人を分かつとも魂だけは神の身元へ。願わくば輪廻の旅路を」
神父の粛々たる声が、静まり返った森に落ちる。
参列者は見ず知らずの村人、兵士、仲間達。本当に小さな式だった。
「必ず生きる」
「うん…」
「いいかい。私たちは…彼らの希望になるんだ」
判ってる。娘は頷く。あれほど絶望にうなだれていた人々が目を輝かせてこちらを見ている。
私たちは手を取り合い、軽いキスをした。

今夜私たちは、最前線に出るんだ。



幸せに

3/31/2026, 3:23:04 AM

部屋に彼女が戻ってきた気がする。

音が鳴らないんだ。足音がしてようやく確証に至る。

自分はスマホでプロジェクターじみた映像を見ていた。
支出計算表と、各部署の活動記録を合わせたような解説動画だ。
通過度が高いにも関わらず裏からも横からも、閲覧者の背後からも見えない作りになっているから本当に良くできている。
「今日、休みではなかった?」
彼女の短い言葉には色々な含みがあって、読み間違うと捻れるから厄介だ。
「休みですけど」
「どこか行くのかと思っていた。昨日誰かと話していたでしょ」
あ、聞かれてたのか。
「ずっと先の話ですよ」
「そう」
スマホの電源を落とし、ボディポーチを手に取る。必要なものは最低限。最近のこちらのスマホは、時代に反するように小型化している。不思議なものだ。
あ…と椅子に座る彼女と目が合う。寂しそうで、何も言えないでいる顔。
「午後には帰ってきます」
「そう…」
今見たぞ。少し嬉しそうにしたな。
「何年一緒にいると思ってるんですか」
って言ったら貴女は照れるんでしょうね。
美味しいご飯でも食べに行きましょうか。


何気ない振り

3/30/2026, 2:40:24 AM

「君に、アメリカについてきて欲しいんだ。一緒に新天地に来てほしい」
資金繰りが苦しいのは知っていたけれど…。
リアはあまりに突然の依頼にしばし呆然とした。
初老の雇い主はもともとジョークが好きな御仁ではあったけど、今回は目が真剣だ。

昼間に子供達と校庭で遊んでいる時に、急に呼び出しが掛かったのだ。あの人は多忙でいつも突然帰ってきては飛んでいくから、珍しいこととは思わなかった。
(また1から自分の居場所を作るのね)
諦めと言うよりも、降りかかった運命には従う質だ。もとより波乱万丈な人生ではなかったか。


リアはもともとは商家の3人目で、メイドに産ませた所謂妾の子であったが、先代が面目も考えて引き取った娘だった。
産みの母も死んでしまったし、何不自由なく商家の娘として育ててやろう。


ところが、貿易船に乗ってやってきた病で突然家督の父親が死んでしまってから話は変わってしまった。 
後見人と幼い長男にすべてが渡り、怪しげな最新機器を買い尽くし、地域住民の反対もあり、一気に路頭に迷ってしまったのだ。

後押しがあったのはリアだけ。
信心深くよく教育されていたのだが、やや東方向けの教師に師事していたのが良かったようだ。
オフシーズンで郊外に訪れていた時に老子爵にだいぶ気に入られた。家は没落したというのに、粘り強く下町で看護婦として働く姿に何を見たのだろう。
そのまま、投資家オーウェンに推薦される形で教師兼看護師兼保育士として校外の計画都市に住み込み採用をされる。
まだ15かそこらだったのにだ。

「アメリカに…ですか」
「そう。きっと成功させる。ここは息子たちに託すよ。一緒に来てほしい」
その時オーウェンは40は超えていた。脂の乗り切った余裕のある男に見えた。
父親の居なかったリアにとってはまさに理想の人であったのだろう。無意識下に。

結果としてアメリカの東の海岸に邸宅を構え 何年も教師を務め、教え子は何百人にもなったとか。

最後は大勢の孫に看取られたというから、きっと彼女は幸せだったのだろう。
「旦那? そんなのもいたわね…」

なんて言いながら90まで生きたのだから大往生である。

ハッピーエンド

3/28/2026, 6:16:32 PM

最初は男の方が来た。まだ子供だ。
髪の柔らかい線の細い男で、高校のいけてるグループより少し大人しそうな感じ。格好が大人だから不自然な感じだ。
「宗教かなんかなん?」
「そういうつもりじゃないですけども…」
会うのはいつも昼間の公園だった。服装はグレーのスーツにノーネクタイ。浮いてはいないけど目立つ要素はない。VTuberの話、近所のイオンモールの話もぜんぶ通じないの。
「で。どうです。死にません?」
まじうける。こっから近くの駅どこですか?みたいな空気で聞いてくるのだ。
神は信じますかーて省いてそれなの。
「夜また来ますよ」
へいへい。コンビニのアイスコーヒー片手に適当に見送った。いつものように空間にぺらっと吸い込まれるように消えていった。
で、夜だ。真っ黒なレザージャケットの女が来た。
閉めたはずの窓から、秋の夜風がごぅと吹いてくる。季節外れの肌寒さを覚えて羽毛布団をかき集める。
「来るかい」
女が笑う。風さらにが吹いて、布団が剥ぎ取られる。
目を開けると都会の上空に居た。
「お、落ち…」
「落ちない」
薄茶の髪が上空の風に揺れている。
「お前が気に入らないもの、燃やしてやるよ」
見下ろした先は入ったばかりの中小企業の会社だった。予備校でバイトしながら苦労して苦労してあちこち駆けずり回ってやっと入った会社。
「やめてくれ…」
今時でない黒いレザージャケットを着た娘は、夢でみた通りに鉈を持ち不思議な印を赤く空中に描く。
「やめて欲しくないだろお前なら」
真っ黒な瞳がこちらを見つめている。
吸い込まれるような漆黒。笑顔なのに吸引力のある、何かを見通しような余裕の瞳だ。
鉈を縦に構える間に、昼間の男もやってきた。
「ここですか」
「そう」
「やりますか」
「やろうかね」
青年のほうも物騒な長いものを携えている。二人がこちらを見る。
もう身体どころか眼も動かせない。
「なぁ、どういう宗教なん」
「心外だな。死神だよ」
炎が二人の身体を取り巻いていた。



みつめられるだけで


普段皆の中心にいるあのこが、おっぱいを強調する服を寄せながら恥ずかしそうに見てくる。終電もいった、飲み会であれよあれよと残されたのは自分たち二人だけ。
色白のほほに薄いメイク。隣を通るといい匂いがする。お酒に酔った大きくうるんだ眼だ。
どんな声で名前を呼ぶんだろう。
どんな声で…。腰の奥がぎゅっとなった。
「今日泊めて下さるんですよね?なにもしない、ですよね」
するわけない!するわけないよ、後輩に、そんな…。と、心にもないことを呟く。なんでそんなにおっぱいを見せてくるんだ意味判るけど解りたくないわ!



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