村人ABCが世界を救うまで

Open App

この辺りでは、最後の妖精族の結界に守られた森だった。

一般の村人もいる。逃げることに成功した兵士たちも。そして地と炎のドワーフ達をつれて逃げた勇者達も。

「その傷で動くのは無理よ」
「でも囲まれたらおしまいだ、今突破口を開いたらもしかしたら…」
「バカね!老人だって怪我人だっているのよ!」
仲間内でも意見が割れ始めた。

最後まで防戦に挑むか、夜の襲撃前に背水の陣を組むか。

もうおしまいよ!もう助からないのよ!
そう村の女が子供を抱えて泣き叫びだしたとたんに、それまで平静であった者達さえも取り乱し始めた。
人はこんなにも迫る驚異に弱いものなのか。
ざわめきが大きくなっていく。終わりが近づいているのに娘が妙に落ち着いているのは、戦えるものだからか、転移者ゆえなのか…。

兵士が静かにしろと叫び、人々は萎縮していく。そのなかで一人凛と立つ青年がいた。
村の若い神父だ。彼は静かに人々を説いていく。

多くの人に祈りを唱え、頭や肩に触れ、不思議な印を切っていく。
そしてやがて私たちの前にやってきた。
まだ青年ともいえる神父だ。宗教のことはわからない。だけど村人たちや兵士の心の支えなのだろう。
「まだ若い御身で、よくぞここまで彼らを導いてくれました」
「いいえ…。ついにここまでかと思うと、自分の無力感を思い知ります」
「あなたはよくやりました」
そして後ろに居るドワーフ達は、人族と違い落ち着いてるなと、今更ながら気付いたのだ。
「彼らは…恐ろしくないのですか」
「どうでしょう」
言葉は通じるけど、根本的な部分が違うと今回の旅で思ったのだ。

「恐ろしいさ。でもな人間。我々は来世を信じているんだ」
ドワーフの中の最年長のジジが言った。
「来世…」
「そうとも。我らは運命を受け入れる。目の前の魔物に一歩も引かぬ。朽ちても命果てとも、更なる強き身体に生まれるだけ。もともと戦士と鍛冶の一族に臆病者は居られんのさ」
ジジは仲間同士と武器を磨いて静かにその時を待っている。

怖がりの人はどうするんだろう…。怖いと思うのは自然な感情だわ。

聞いていて娘は疑問に思った。
人間たちは怯えて髪に救いを求め小さく固まっている。勇者たちに奇異の目を向けていた。
襲われることを恐ろしいと思うのは当たり前の感情なのに。不思議に思ったけど、これが種族の違いなのだろうか。
「お前、番はいるのか」
「つがい、ですか?」
そこのやつも、と、ジジが娘の恋人をごつごつの太い指で指差した。
「つがいって何?」「さあ」
赤髪の優しい青年だ。今回、無理をして付いてきてくれた。

こほん。と、それまで聞いていた神父が咳払いをした。
「結婚相手とか、一生を添い遂げる相手のことですね」
「けっ……!!!」
少女は大声が出そうになって口元を押さえる。
「こちらの宗教の簡略したものであれば私も資格を持っていますが」
彼は司式者になると言うのだ。
今夜死んでしまうかもしれないのに?
確かにとなりの彼はずっと側に居てくれた。でも…
「死後も離ればなれにならぬように。生まれ変わっても縁続きでありますようにと」
そういう習わしがこちらにもありましてね。と、神父が続けた。

「お願いします」
「ちょ…!!」
「死ぬつもりはないけど。離れるのは嫌だ」
彼の大きな手が握りしめてくる。震えていることに気がついた。怖いんだ、高魔力を持つ彼でさえも…。

まるで遠くから自分をみているようだった。
人々は小さな声で祝いの歌を口ずさんでくれた。兵士達は有り合わせの食料を出して、子供達はぼろ布のヴェールを作ってくれる。
仲間達は皆喜んだ。
「素敵だよ!」
「いいね」「やるじゃん」
まだ16なんだけど、ね。こっちの世界では普通らしいんだ。
娘は戸惑いながら、大きな樹に連れられた。まるで教会の段のよう。
「死が二人を分かつとも魂だけは神の身元へ。願わくば輪廻の旅路を」
神父の粛々たる声が、静まり返った森に落ちる。
参列者は見ず知らずの村人、兵士、仲間達。本当に小さな式だった。
「必ず生きる」
「うん…」
「いいかい。私たちは…彼らの希望になるんだ」
判ってる。娘は頷く。あれほど絶望にうなだれていた人々が目を輝かせてこちらを見ている。
私たちは手を取り合い、軽いキスをした。

今夜私たちは、最前線に出るんだ。



幸せに

4/1/2026, 5:49:38 AM