「君に、アメリカについてきて欲しいんだ。一緒に新天地に来てほしい」
資金繰りが苦しいのは知っていたけれど…。
リアはあまりに突然の依頼にしばし呆然とした。
初老の雇い主はもともとジョークが好きな御仁ではあったけど、今回は目が真剣だ。
昼間に子供達と校庭で遊んでいる時に、急に呼び出しが掛かったのだ。あの人は多忙でいつも突然帰ってきては飛んでいくから、珍しいこととは思わなかった。
(また1から自分の居場所を作るのね)
諦めと言うよりも、降りかかった運命には従う質だ。もとより波乱万丈な人生ではなかったか。
リアはもともとは商家の3人目で、メイドに産ませた所謂妾の子であったが、先代が面目も考えて引き取った娘だった。
産みの母も死んでしまったし、何不自由なく商家の娘として育ててやろう。
ところが、貿易船に乗ってやってきた病で突然家督の父親が死んでしまってから話は変わってしまった。
後見人と幼い長男にすべてが渡り、怪しげな最新機器を買い尽くし、地域住民の反対もあり、一気に路頭に迷ってしまったのだ。
後押しがあったのはリアだけ。
信心深くよく教育されていたのだが、やや東方向けの教師に師事していたのが良かったようだ。
オフシーズンで郊外に訪れていた時に老子爵にだいぶ気に入られた。家は没落したというのに、粘り強く下町で看護婦として働く姿に何を見たのだろう。
そのまま、投資家オーウェンに推薦される形で教師兼看護師兼保育士として校外の計画都市に住み込み採用をされる。
まだ15かそこらだったのにだ。
「アメリカに…ですか」
「そう。きっと成功させる。ここは息子たちに託すよ。一緒に来てほしい」
その時オーウェンは40は超えていた。脂の乗り切った余裕のある男に見えた。
父親の居なかったリアにとってはまさに理想の人であったのだろう。無意識下に。
結果としてアメリカの東の海岸に邸宅を構え 何年も教師を務め、教え子は何百人にもなったとか。
最後は大勢の孫に看取られたというから、きっと彼女は幸せだったのだろう。
「旦那? そんなのもいたわね…」
なんて言いながら90まで生きたのだから大往生である。
ハッピーエンド
3/30/2026, 2:40:24 AM