帰りたくない。
ミルキーブルーの綺麗な空と岸壁の荒々しさのミスマッチが、私を夢か現実の狭間に押し込める。
「誰も知らない南の海に行きたい」
ぼやいて二時間で、今日の予定も明日の予定も隅にやり旅に出た。
太陽の反射が眩しくて海は穏やかだけど風は冷たくて。
午後の潮騒だけでとても静かだった。
この時間がずっと続けばいいのに。
やっと涙がでて。
このまま溶けてしまいたいと思ったんだ。
失敗したくない。特に好いた女の前でなら尚更。
悪友にあれこれ入れ知恵され、親友にも世話を焼かれ
それでも踏み出せず。
彼女は野菊だ。踏み荒らしてはならない。手を伸ばしても届かないこの関係ままでいいとさえ思った。
ある晩に彼女が囁く。
「貴方の本当のお嫁さんにして下さい」
茶を吹いた。
「は、はぁ!?意味わかってんのかよ?!」
頬を染めてこくんと頷く彼女が煩わしい。
言わせてしまった。
「やめろ、そういうこと言うのやめろよ…」
燃え滾るような欲が抑えられなくなる。情けない口許を隠す。
耐えてきた。蹂躙してしまう。手折ってしまう。
それさえも言い訳だ。ちくしょう格好悪いな。
ただ私は彼とたくさん話をしたかったのだ。
黙ったままで本当に大事なことは何一つ言ってくれない。
私もそうなのかもしれない。
「そりゃ、あれだ…」
「あれじゃ分かりませんもん」
頭をかいて、目線をウロウロさせて、なぁなぁで終わらそうとしないで。
彼のひんやりした頬を両手で触れる。
「きっと私達は、分かってくれているはずだからと闇雲に信じて、大事な言葉を避けていたんですね」
一番大切な人にこそ、思いを違えてはいけないはずなのに。
太陽の下で胸張って生きたい!!!
あなたとならどこへでも行きます、と見上げてくる彼女となら。正直どこまででも逃げて住み移る生涯でも悪くないとさえ思えた。
「でもな。そうじゃないんだ」
「どういうことですか」
「なんだろうな。男としての…なんていうんだろうな」
友人が声を上げた。
P「なんとなく分かるぜ」
全員が固唾をのんで見守る。
P「男のプライドってかな。あれだよな」
H「矜持ともいえるか」
「そうさ。オレは正々堂々と胸張ってこの世界でお前と生きていきたいんだ」
「よくわかりません…」
「だよなぁ。オレもよく分からねぇんだが、オレん中がうるさいんだよ。隠れ住んでも生きて行けるかもしれねぇけど。オレはお前と世界を飛び回りたいんだ」
H「フッ。お前はそういうやつだ。よく分かる。免罪符といえばオレもそうだ。この世界で思い切り彼女を愛したいのだろう」
P「げっ…お前そーゆうサムいこと言う…」
H「許されるのならば。そう思ったことはいくつもあった。腐る程な。奴は自ら過去を払拭しようとしているのだ」
「え、あ。いやぁそこまでは考えてなかったけど」
P「か、考えてねーのかよ!」
「許しってのは違うけどよ。お前とお天道様と顔つき合わせてよ。この国を見届けてぇんだ。じゃねぇと…あっちにいったときに顔向けできね~って思ってな!そんなオレでも着いていてくれっか!」
「…無理はしないと約束してくださいますか」
「おう! なにより丈夫だってのは知ってっだろ」
「はい」
耳元で彼女の消え入りそうな声が聞こえた。
着いていきますから…ずっと
「二言は…ねぇよな…」
「は…はい…」
P「家でやれ!!」
H「フッ…」
本日のお題「太陽の下で」と関連付けさせつつ覚え書きに使わせていただきました!!!すみません!
抱き締めたときに、衣服のふわりとした感触の奥に、華奢な身体を感じた。
意匠を凝らした編み目の上からしつこいぐらいに柔らかさを堪能する。首筋にキスをするとくすぐったいと高い声があがった。身をよじるたびに香木が登る。
その声がまた可愛いのだ。
ニットの裾からするりと指を滑り込ませる。気づいたときにはもう遅い。いじめてやろう。
オレの手は悪くない。そんなよく伸びる可愛い服を着るお前さんがわるい。