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8/19/2024, 5:39:33 AM

『鏡』



真実を写す鏡。そんな言葉を耳にしたことがある。
この街に暮らす多くの住人が、幼い頃から立ち入っては行けないと教わってきた森の奥深く。草木を掻き分けて進むと、ボロボロで灰にまみれた小さな小屋があり、扉を開けた先にその鏡があるのだとか。
僕は親のことをあまりよく覚えていないけれど、どうしてかその森に立ち入ろうとして、何時間も何時間も説教された記憶がある。噂によると、森に入った者は二度と帰ってこれないのだとか。
僕の家は母子家庭だった。僕たちは小さな一軒家で暮らしていた。しかし、ある日の夜中、僕たちの家に強盗が入ってきて、母が刺されて亡くなってしまった。僕は刺されはしなかったものの、殴られた跡や切り傷が多数見つかったことから、犯人に酷い暴行を受けたとされた。6年が経った今でも犯人は逃走中で、手がかりも少ないらしい。
当時の僕は9歳とまだ幼かったこともあり、暴行や親の死による精神的ショックで記憶を失ってしまったらしく、これらはあくまでも警察から聞いた話だ。
僕はあの日から毎日のように、悪夢を見続けている。黒く塗られて顔が見えないどこかの誰かに、何度も何度も殴られて罵倒される夢だ。精神科の先生曰く、記憶を失っているといえど、恐怖が体に染み付いてる可能性が高いのだとか。
僕は僕たちを襲った犯人が憎くて仕方がない。母のことは覚えていないから、母が亡くなってしまったことが悲しいかと問われると正直分からないけれど、僕は一時期、悪夢のせいで寝れない日々を過ごし、ご飯が喉を通らなくなり、家の外に出ることさえも出来なくなってしまった。体は痩せ細り、学校にも通えず、もう死んでしまいたいと何度も思った。何故僕がこんな目に合わなければいけないのだと何度も思った。
だから僕は決意した。真実を写す鏡を見つけることを。
決めてから行動に移すのは一瞬のことだった。僕は今、祖父母の支援を受けながら一人暮らしをしているということもあり、行ってはいけないと、行かないでくれと止めてくる人がいなかったから。
夜。僕は念の為、スマートフォンと財布、懐中電灯を持って、その森に足を踏み入れた。
そよそよと風の音が耳をくすぐってくるくらいで、森は酷く静かだった。一時間ほど歩いた頃、僕の目線の先には、灰被ったボロボロの小屋があった。僕は思わず駆け出して、その扉に手をかけた。
「見つけた」
扉を開けた先には、噂通り一つの鏡が置いてあった。僕は一人歓喜の声を上げて、その鏡の前に立った。
噂によれば方法は簡単で、鏡を人間だと思って、知りたいことを尋ねるだけなのだとか。僕は深呼吸をして、声を出した。
「鏡よ鏡。あの日、僕たちを襲った犯人は誰ですか?」
僕が問いかけた瞬間、鏡は白い光を放ち、僕は思わず目を瞑った。目を瞑っている間、やっと犯人を知ることが出来る喜びの気持ちが溢れるのと同時に、何故か犯人を知ることが怖いと感じていて、息が苦しかった。
もう一度、大きく深呼吸をして、そして目を開けた時、鏡に写っていたのは──僕の姿だった。

8/2/2024, 1:28:13 PM

『病室』



真っ白い天井。真っ白い壁。真っ白いベッドに真っ白い服。全てが白で塗り尽くされたこの部屋が、私は大嫌いだ。赤、青、緑、黄。私の部屋がある3階の窓の外では色鮮やかな世界が広がっているのに、私はここから出ることが出来ない。 カラフルな世界を私はもう歩くことが出来ない。
綺麗なお花を持ってお見舞いにきてくれる優しい両親なんてものも存在せず、最後に顔を合わせたのは何時だったかすらももう覚えていない。看護師や医師は、きっと忙しくて来たくても来れないんだよと困ったように笑って励ましてくれるけれど、私だって、両親が見舞いに来ない理由を察せないほど馬鹿ではない。両親にとって私はお荷物。ただそれだけのことだ。
実際、自分がお荷物な存在であることを自覚してさえいる。あと何年生きるかも、いつ死んでしまうかも分からない奴のために莫大な入院費を払う。それはきっと少なくとも嬉しいことではないはずだ。
私が死ねば両親はきっと救われる。そう思って何度も何度も人生に終止符を打とうとしたけれど、恐怖という感情に打ち勝つことが出来なかった。そうやっているうちに、私は自由に動けなくなってしまったほど病状が悪化してしまった。
多分、私はもう長くない。自ら命を絶つことには恐怖を感じるけれど、何故か、いつ死ぬか分からないことに対する恐怖は一切感じない。むしろ、早くその時が来てくれれば良いのにとさえ思っている。
「死ぬ前に、カラフルな世界が見たいな」
鳥の声だけが響くこの部屋を少しでも明るくしたいと思うようになってから、私は独り言が多くなったように思う。今日も食べ残しちゃったな、眠たいな、身体が痛いな、疲れたな。そんなことを呟く日々が増えていった。一方的に呟いて、呟いて、呟いて。それの繰り返しだった。
だから、返事が返ってきた時は酷く驚くと共に、心の底から嬉しいと感じていた。やっと私に誰かが目を向けてくれたのだと、嬉しくて舞い上がりそうだった。私に声をかけたそのヒトは、赤、青、緑、黄、紫、紺と、色とりどりの風船を手に、窓の外からこちらに手を伸ばしていた。
「こっちにおいで」
そのヒトの声音は何処か懐かしくて、その声が耳をくすぐる度に、涙が溢れて止まらなかった。
気がついた時には、その暖かい手を掴んでいて、私の目の前には、鮮やかな世界が広がっていた。
灰色の地面、黄緑色の草、ピンクの花、緑色の木、様々な色の屋根、青色の空、赤い太陽、白い雲。世界が鮮やかで、賑やかで、息を飲むほどに綺麗だった。
「何これ、凄い、凄いよ」
私は思わず走り出していて、走って走って転んで、そのまま寝転がっていた。
いつか、今までで一番幸せだった瞬間はいつですかと聞かれたら、きっと私は今日のことを話すだろう。
私をここに連れてきたヒトは、寝転がる私に近づいて、そして私の頭を優しく撫でてくれた。その瞬間、何故か強い睡魔に襲われて、もっと眺めていたいという気持ちとは裏腹に、瞼を閉じてしまいそうだった。
「まだ、あともう少し……」
ああ、眠くて眠くて仕方がない。あともう少しだけこの世界を目に焼き付けたいのに。瞼を閉じまいと指で広げてみても、睡魔に勝つことは出来なくて。
そして私は、カラフルな世界でそっと深い深い眠りについた。

7/22/2024, 11:41:54 AM

『もしもタイムマシンがあったなら』



昨日、父がよく見るテレビ番組で、もしもタイムマシンがあったらどこに行く?なんて話題が挙げられていた。父は、夕飯の残りの唐揚げを酒のツマミにしながらその番組を見て、つまんない話だななんてテレビに向かって文句を垂れていた。
私にとっては結構好きなタイプの話題だったため、いつもは見ないその番組に、私は釘付けだった。

「ねぇ、タイムマシンがあったらどこに行きたい?」
朝、いつものように雅と2人で登校していたとき、ふと気になって尋ねてみた。雅は突然何よとでも言いたそうな顔で笑って、考える素振りを見せた。そんな雅の返事を待ちながら、私も考えてみて。
私は江戸時代だとか旧石器時代だとか、歴史を感じる時代に行きたい。歴史が大好きな私の脳みそに詰まった知識を使って、争いや革命の展開を変えてみたい。勿論そんな上手く行くはずもなければ、タイムマシンなんて存在しないのだから、あくまでも”もしも”の話だ。
「1年後かな」
そんなことを考えていると、考えがまとまったらしい雅がそう呟いた。
「1年後?どうして?」
1年後。それはあまりにも小さな数字で少し驚く。タイムマシンといえば、10年後だとか10年前だとか、100年後だとか100年前だとか、大きい数字で答える人が多いものだと思っていた。しかし雅はどうやら違うようで、1年後とハッキリ答えた。
「1年後生きてるのかなーって思って」
「何それ、せめて5年後とかじゃないの?」
「ううん、1年後」
雅の考えには納得がいかなかったけれど、世界には色々な考えの人がいるし、強要するつもりもないから、そっかあと言って話を切る。
やがて学校が見えてきて、私たちは校門前で左右に別れた。私たちの学校には専門科と一般科が存在し、校舎が別れていた。私は一般で、雅が専門。朝別れてからは、放課後まで会話をすることも、顔を合わせることもない。それくらい専門科は忙しいらしい。
いつもと変わらない会話にいつもと変わらない道、いつもと変わらない校舎、いつもと変わらない授業。また今日も勉強をして、放課後に雅と寄り道をして、そして家に帰る。そうやって変わらない日々が繰り返されていくと思っていた。
それなのに。
バンッ。そんな銃声のような鈍い音と共に、数人の悲鳴が、専門科の校舎からハッキリと聞こえてきた。クラスはざわつき、先生が状況確認のために教室を後にした時、耳を疑うような校内放送が入ってきた。
──生徒が1名、屋上から飛び降りました。教師が対応中のため、生徒の皆さんは席に座って静かに待機をお願いします。
私は、いつもと違う雅を思い出し、冷や汗が止まらなかった。雅に限ってそんなことあるはずない。雅は私に相談してくれる。大丈夫。大丈夫。大丈夫。
でも。大丈夫なんかじゃなくて。
一斉帰宅することになり、私は誰よりも早く教室を出て、専門科へと走った。雅の様子がいつもと違かったから。雅から連絡が返ってこなかったから。
走って、雅のクラスに辿り着いた時、そこに雅の姿はなくて。
「雅は、竹本さんはどこですか」
そんなはずはないと、自分に言い聞かせながら先生にそう尋ねた。冷や汗は止まらず、声は震えて、今にも泣き出しそうだった。
先生は、そんな私の顔を見て暗い顔をした後、ただただ、ごめんなと小さく呟いた。

家までどうやって帰ってきたか分からなかった。お母さんが心配そうな顔をしておかえりなさいと声をかけてくれただろうけれど、多分私は顔も見ず、返事もせず部屋に入ってしまった。
私は何度も何度も雅に電話をかけた。夜になっても、日が昇り始めても、日が昇りきった後も、また夜が来ても。それでも雅が電話に出ることはなくて、私も部屋から出ることが出来なかった。もう、薄々気がついていたから。飛び降りた生徒が、雅であるということに。
部屋から出ればきっと、お母さんが暖かいスープをくれる。部屋から出ればきっと、お母さんが真実を伝えようとする。部屋から出ればきっと、雅は本当に居なくなってしまう。
そうして月日が経って、事実が明らかになった。
それは私が学校に行けなくなって、家族とも直接話さなくなった頃だった。
飛び降りた生徒は雅で、クラスメイトからいじめに合っていたらしい。先生は新人ということもあり、いじめグループが怖くて、止められなかったのだとか。
私は腹が立って仕方がなかった。先生にも、雅をいじめた愚図共にも、見て見ぬふりをした奴らにも。でも、それ以上に、気づいてあげられなかった自分自身に、腹が立って、憎くて、殺してしまいたかった。
雅、私の大切な友達。私に勉強を教えてくれた優しい友達。私を叱ってくれた頼れる友達。私を笑わせてくれた暖かい友達。一緒に笑いあった私の親友。
雅は完璧主義で他人に弱みを見せたがらなかった。けれど、多分、あの日、1年後と答えたのは雅なりに助けを求めていたからなのだと思う。1年間、耐えられるかな。そう伝えていたのだと思う。
私がもっとしつこく聞いていたら。私が雅の異変に気づいた時にもっと寄り添っていたら。雅はまだここに居たのかもしれない。
ごめんなさい。本当にごめんなさい。気づいてあげられなくてごめんなさい。
もしもタイムマシンがあったなら。私はあの日に戻りたい。

7/19/2024, 11:09:14 AM

『視線の先には』



憎らしいほど空が青い今日、私の視線の先には家を出た母の姿があった。髪を巻いて、キラキラと輝きを放つ黒いパンプスをはいて、唇を紅く染めて女を謳歌している母は、私たちと暮らしていた時よりもずっとずっと綺麗で、ずっとずっと幸せそうだった。
私は今、父と2人で暮らしている。私には今年27になる兄がいるけれど、兄は父に負担をかけまいと早くに家を出た。兄は、父と2人で暮らす私を気にかけて、定期的にいくらか送金してくれる。私ももう子供じゃないし大丈夫だよと伝えても、俺がしたいからと言って辞めようとしない。大丈夫なのかと問うと、友人とルームシェアをしているから、勿論大変なことは多いけれどやっていけていると返答が帰ってきたため、兄の善意に甘えることにしている。
母は9年前、私が高校生になったばかりの春に突然家を出ていった。夫婦喧嘩が多かったわけでもなければ、金銭面で困っていたわけでもない。家族間のトラブルがあったわけでも、仲が悪かったわけでもない。むしろ仲つむまじい家族だったと思う。
それでも母は誰にも何も言わず、小さな置き手紙を1枚だけ残して夜中に家を出ていった。
父は状況が理解出来なくて、受け入れられなくて、お酒を頼るようになった。
酔って暴力をふるうなんてことは一切なかったけれど、アルコール依存症になり、精神を病み、父は壊れていった。反抗期、受験期まっさだなかだった兄はそんな父と母を見て、日に日に家に帰ってこない日が多くなっていった。
私は父を支えようと必死に力を尽くしたけれど、何一つ上手くいかなかった。バイト漬けの毎日で勉強に力が入らず、眠れない日が続き、ついにはご飯が喉を通らなくなった。父と母は、周りの反対を押し切って結婚したらしく、祖父母とは縁を切ってしまっていて、顔も知らなければ連絡先も知らず、誰も頼ることが出来なかった。
そして私は限界が来た。
限界が来て、夜中に家を出て、死のうとした。そんな時に、兄が久々に帰ってきて、私を見て、頭を下げてきた。目が覚めた。今まで好き勝手して押し付けてごめん。そうやって兄は私に何度も頭を下げ、抱きしめてきた。私は別に兄を恨んではいなかった。反抗期というのもあったと思うけれど、兄だってショックだったに違いないし、兄には気持ちを整理する時間が必要だと思ったから。崩壊した家に帰りたくない気持ちも痛いほど分かるから。
兄が力を貸してくれるようになってからは、信じられないくらい楽になった。兄は受験勉強をしながら、バイトをして、父を病院に連れていった。
そして、2年という年月をかけて、父は完治した。
とはいえ、またいつ発症してしまうかは分からないし、また父が壊れてしまわないか不安ということもあり、現在、父と私は2人とも働きながら2人で暮らしている。

25歳を迎えた今だって、あの時の記憶はハッキリと残っているし、母の顔も忘れていなかった。とはいえ、もう何年も会っていなかったから、引っ越した先で母を見つけるだなんて微塵も思っていなかった。
私には、母に声を掛けるべきなのか分からなかった。聞きたいことは沢山あった。どうして出ていってしまったのか、どうして戻ってきてくれなかったのか、どうして連絡さえしてくれなかったのか、どうして貴方の隣に今、母にそっくりな女の子がいるのか。
私は母のことが憎かった。もう二度と会いたくないと思っていたし、どこかで野垂れ死んでしまえばいいのにとさえ思っていた。
はずなのに、どうしてか今、涙が溢れて止まらない。
どうして。どうして。どうして。
いい歳した大人なのに、涙が次から次へと流れ、頬をつたり、虚しく地面にこぼれ落ちていく。
どうすることも出来ないこの感情を消したくても消せなくて、忘れたくても忘れられない。
「お母さん」
そう小さな声で呟く。こんな人混みの中、小さな小さな声で呟いた言葉に母が気づいてくれるはずもなく、母の姿はやがて消えていった。
私はただ立ち尽くし、涙が止まるまで、そこから離れられなかった。

7/18/2024, 1:21:32 PM

『私だけ』



「私だけってって言ってたじゃん」
今、俺の目の前には、頭が痛くなるくらい甲高い声で泣き叫ぶ女がいた。どうやら俺が他の女と出かけたことが気に食わないらしく、何度なだめても聞く耳を持たず、ヒステリックは止まりそうになかった。そもそも俺たちの関係はコイビトだとかオトモダチだとかそんなものでは一切なく、大人の関係を持つだけの仲、所謂セフレみたいなものだった。
俺には何人もそういう仲の女がいるし、この女もそれを理解した上で俺に近づいてきた。それなのに今更詰められたってどうすることも出来ないし、わざわざこちらが優しくする必要性も感じない。
「面倒臭い女は嫌いって言わなかったっけ」
わざと大きくため息をついてみると、女は涙を流し続けながら俺のズボンの裾を引っ張ってくる。あぁ、気持ちが悪い。これだから面倒臭い女は嫌いなんだ。
「離せよ。俺たちはもうお終い。やり直すこともなければ二度と会うこともない。じゃあ、さようなら」
女の肩を強く押し、ズボンから手を離させて言葉を放てば、女は、絶望という言葉がピッタリな表情で俺を見つめて、ごめんなさいと謝罪の言葉を繰り返し始める。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったの。ごめんなさい、ごめんなさい」
耳障りな声で、気持ちが悪い顔でねだられても、泣かれても、可愛さなんて感じられなければ何とも思えもしない。むしろ、彼奴を思い出して気分が悪くなる。男に泣いてすがって、依存して、そして馬鹿を見た彼奴を。
ただひたすらに気持ちが悪かった。どうしてそんなに低脳で何も出来ないのか、俺には理解出来なかった。
「私なら、私だけが、蓮くんの全部を愛してあげられるっ」
突然、女がそう叫んだ。
全部を愛す?この女は一体何を言っているのだろうか。俺の全てを知っているわけでもないくせに何故そんな事を言い切れるのだろう。そもそも俺は誰かに愛されたいだなんて微塵も思わないし、愛したいとすら思わない。愛なんてものは残酷で、気持ちが悪くて、嘘にまみれている。そんなものを信じ
ることなんて出来るわけがない。信じたくもない。
信じたってどうせ、時の流れと共に愛は薄れ、移り変わり、失われ、みんな離れていくのだろうし、実際、みんな離れていった。

だから俺は愛されたいだなんて思わない。思いたくない。なのに。
どうしてか彼女を見ていると、愛したいと、愛されたいと思ってしまう。もう誰も信じないと決めていたのに。
俺だけ見てほしい、俺だけ愛してほしい。
そんな気持ちが悪いセリフは言いたくないのに、想いが溢れて爆発しそうだった。
離れていかないで、捨てないで、忘れないで。
そんな想いが溢れて、自分でもどうしようも出来なくて、酷く苦しい。苦しくて息がつまる。この感情を寂しいと言うのかもしれない。
そして俺はまた、女を作る。負のループだって、辞めるべきだって自覚はしてるけれど、辞められない。辞めたくない。
もし仮に遊ぶのを辞めた時、一体何人が離れないでいてくれるのだろうか。誰が俺を見てくれるのだろうか。誰が俺を愛してくれるのだろうか。誰にも愛して貰えないのは酷く怖い。

考えるのはもう辞めよう。俺はただ、好きに生きるだけ。やりたいようにやるだけ。俺が辞めなければ女は増え続けるし、満たされ続けるんだ。
俺はちゃんと、シアワセだ。

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