『カーテン』
「朝だよ、起きて」
私に今日もまた一日が始まることを教えてくれるのは、あなたのその言葉だった。私の好みと真反対な白くて綺麗なカーテンを開けるあなたの笑顔は、朝日よりも眩しくて暖かかった。あなたの笑顔を見れば、どんなに憂鬱な日も幸せな日に、どんなに苦しい時も穏やかな気持ちに変わっていった。
高校の入学式で出会ってからもう九年も経つというのに、あなたは私を毎日楽しませてくれた。
夜行性の私と朝が得意なあなた。モノトーンが好きな私と白やピンクが好きなあなた。パンが好きな私と白米が好きなあなた。私たちはいつも正反対で、小さなことで言い合ってばかりだった。それでも長く続くことはなくて、すぐに笑って和解していた。
これからもそんな幸せな日々が続いていくと思っていたし、絶対にこの関係を壊さないと決めていた。
だから私はあなたの"親友"でいた。
あなたに好きな人が出来た時は笑って応援した。あなたが好きな人のタイプになろうとした時も沢山アドバイスをした。あなたが好きな人に告白された時も、喜んで、あなたが婚約した時も、サプライズでお祝いをした。
これで良いのだと、そうするのだと私が決めた。
私が決めたのに、どうしてか、いつもいつも心が苦しくて仕方がなかった。
それでもあなたの前では涙を流しはしなかったし、気持ちを悟られないよう努力した。
あなたが天使のように綺麗な心を持っていることも、あなたが誰よりも努力家なことも、あなたに白が似合うことも、全部全部知っているのに。あなたと一緒に白いドレスを着たいと、今あなたが立っている場所に一緒に立ちたいと誰よりも願っていたのに。
どうして今、あなたの隣に立っているのは私ではないのだろう。
「おめでとう、幸せになってね」
そんな偽りの言葉は流れるように零れ落ちるのに、どうして「すき」のたった2文字は声に、言葉に出来ないのだろう。
「なんであんたが泣いてるのよ」
そう言ってあなたは宝石のように美しい雫を流して、私に微笑みかけた。
「羨ましいなって思って」
「彼氏出来た報告、待ってるからね」
羨ましくて羨ましくて仕方がない。私が一番あなたを愛していたのに。私が一番あなたを幸せにしたかったのに。あなたを幸せに出来るあの男が、羨ましくて仕方がない。私じゃ幸せに出来ないと、逃げてばっかりだった無力な自分自身が情けなくて仕方がない。
私はどうするのが正解だったのだろう。あなたの幸せのためなら私は不幸になっても良いと思っていた。そのはずなのに、今だけは「私を幸せにして下さい、あの子を不幸にして下さい」そう思ってしまう、神に願ってしまう私がいるの。「全てなかった事にして下さい」と願ってしまう私がいるの。
「私はきっと、あなたより幸せにはなれないな」
「何言ってるの。あんたも幸せになってよね」
今想いを伝えたら、あなたはきっと、「私もだよ」って笑うだろう。恋愛的な意味ではないと思ってくれるだろう。だから、今がチャンスだと、これが最後のチャンスだと分かっている。分かっているのに、あなたの姿が扉の向こうに消えるその瞬間まで、私は言葉に出来なかった。
10/11/2024, 2:43:20 PM