どうか、僕を置いていかないで。
蘇る過去の記憶はきっと──。
僕の相棒が亡くなってしまった。
女の子が車に轢かれそうになったところを助ける為に飛び出して守ったらしい。
「お前らしいな」
今日は相棒が亡くなってから1年だった。僕は追悼した。
その時、うっすらとお前の姿が見えた気がする。
「俺が死ぬわけないじゃん!」
そう言ってくれれば、どれだけ良かったか。
僕が何度も夢見た景色だ。
「…薄情だな」
うっすらと笑みを浮かべたが、この頃には後悔と薄寂とで雁字搦めになっていた。
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お題:行かないで
きっと、この空は世界と繋がっている。
果てしなく、永遠に──。
僕は空を見ることが出来ない。
厳密に言うと、空を見るとチカチカしてしまい、まともに見れないのだ。
7歳頃に診断された病気は「光過敏症」。
元から光には弱かったのだが、それまで空を見るのは大好きだったのに、苦痛になった。外で遊びたくても、絵を描きたくても外に出た瞬間目眩がする。
もう治すことは難しい──そう聞いて、僕はどうしようも無い空虚感に襲われた。
それから数年、同じ症状を持っている人に出会った。よく話が合って、すぐに打ち解けた。
その人も絵を描くのが好きだったという。
「貴方と出会えてよかった─。
心からそう思います。この症状で苦しんでいたのは自分だけではないのですね」
そう言われた僕は、もう二度と叶えられない「空を見る」という行為を絵画を通してでも叶えられるようにと、光を弱めたスマートフォンで空の画像を調べる。
ああ、そうだ。空はこんなに綺麗だったんだ。
そう思って筆を走らせた。
この世界には、僕と同じような症状を持っている人は数多にいる。
どこまでも続く青い空の下で、同じように苦しんで生きている人に、希望を与えたいと願うのは不自然なことだろうか?
僕は貴方に贈る、「空」という絵画を。
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お題:どこまでも続く青い空
ここは街外れのコインランドリー。
気持ちも一新、心も衣替えをしよう──。
だんだん肌寒くなってくるこの頃。
コインランドリーにも夏服や掛け布団を洗いに来るお客様が増えてきていた。
正午頃、僕が昼休憩に入って隣の部屋でお弁当を食べている時間に、ひとりのお客様が入ってきた。
うちの近くにある中学校の制服姿の女の子だった。
目にうっすら涙を浮かべていて、洗濯物は──持っていないようだった。
僕はなにか事情があるのかな、と思い、食べかけのお弁当を後にコインランドリーへ戻った。
「こんにちは、僕になにか用事?」
「いえ…っ」
女の子は袖で目元の涙を拭いながら言う。
「…僕でよければ話、聞こうか?」
「あの、…一番の親友だと思っていた子が、他の子ともっと仲良そうにしてて……。」
と途切れ途切れに言葉を発している。
僕は頷きながら色々な話を聞いた。
そして僕は最後に伝える。
「きっと、その親友の子もあなたの事が大好きだと思うよ。」
「時には気持ちの断捨離も大切だから、また話聞いて欲しい時があればいつでも来てね」
と微笑みながら伝えるのだった──。
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(未完成/仮保存)
お題:衣替え
声が枯れるまで貴方に伝えたい。
これは、貴方の為に贈る青春という歌なんだから──。
僕は合唱部員だ。
中学生になって初めて合唱部に入った。
他にも好きなことは沢山あったけれど合唱部を選んだのは必死に歌う先輩に憧れ、一目惚れしたからだった。
僕の学校は中高一貫校なのもあり、高校の先輩方の一生懸命練習する姿を追いながら練習した。
プレッシャーに気圧されそうになっても必死でみんなについていけるように縋り付いた。
最初は合唱部に入って初めて歌を歌い始めたため、楽譜さえ読むのがままならなかった。
レガートやピッチなど、意味のわからなかった言葉は回数を重ねる毎にだんだんとわかるようになっていった。
でも、僕には分からないことも多かった。
よく、「上手だね」なんて言われるけれど、上辺だけの上手さなんていらない。練習とコンクールを重ねているうちに真実の上手さは心を揺さぶることが出来るかどうかだと気づいてしまったからだ。
そう思いながら時が経ち、いつの間にか高校3年生になっていた。
これは、高校生最後のコンクールだ。
中学一年生の時の初めてのコンクール出場と同じぐらい緊張で震えた。僕たちが高校3年生として合唱部を背負っているのだ。
でも、あの日一目惚れした先輩のようになるために、今までやってきたこと、そして恩師のことを思い浮かべながら歌った。
数々の思い出が脳裏に浮かんで目が潤んだが、それでも歌い続けた。
──結果発表の時。
「───高等学校、金賞!」
その瞬間、会場には歓喜の声で包まれた。僕たちの学校は金賞を頂くことが出来たんだ。
涙が溢れ出てきて、止めることなどできなかった。
本当に大変な道のりだったけれど、今まで自分と、それからみんなとで必死に頑張ってきた成果だと、その時初めて自分が好きになれた気がした。
声が枯れるまで伝えたい。
貴方が大好きだってことを。
「あの時の先輩のようになれていればいいな…。」
星空を見上げながらそう願って、僕は歌い続ける。
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お題:声が枯れるまで
「始まり」は完璧ではなくてもいい。
きっと、最後には自分の納得のいく結果になるはずだから──。
僕は何かを始める時、よく消極的になる。
創作活動や友人関係など、色々な始まりはやっぱり腰が引けてしまう。
小説や手紙を書くときなんかいちばん怖かったりする。僕の思いを繊細な所まで文字として具現化し、綴ることが出来るのか、そして完成までこの物語を紡ぎつづけることが出来るのか。
まずプロットを書いてみて、気晴らしに珈琲を1口含む。プロットが完成したら1文字目、2文字目…と徐々に執筆していき、推敲の工程まで進める。こうして完成が近づいてくると安堵の気持ちと達成感で溢れてくる。一個人の考えだが、この時間がいちばん楽しいのだ。
初めの頃はまずは編集者さんとの友好関係を築くために差し入れをしてみたり、気晴らしに一緒に散歩して雑談してみたり。
何のことをしても大変なこともたくさんあるし、小説家やめたいなあ、なんて思うこともある。
けれど、数多の人と人とが繋がってこそ僕は生きていけるのだと実感し、はじめからうまく成し遂げなくても良いと考えるのが大切なのではなかろうか?
まずは1歩、踏み出してみるのが大事なのかもしれないと心の中で思うのだった。
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お題:始まりはいつも