この話には、実は隠しエンドがあった。
これは、もうひとつの物語──。
勇者の冒険記が終わってから早3年。
僕、ディアリーはヒール役として勇者ナイトを支えた。男装し騎士団に入り、何年も鍛錬を重ね、勇者のヒール役に任命されたのだ。
今となってはとても懐かしい、楽しくも、大変でもあった7年間にも渡る冒険。
途中で深い傷を負った勇者様を必死で回復させたっけ、と思い出しながら懐かしむ。
きっと誰もが勇者様を尊敬し、崇めるだろう。他でもないこの国を救ったのだから。
でも僕は違った。
勇者様に恋心を抱いてしまったのだ。
僕らのパーティメンバーは今も同室で暮らしているのだ。勇者を見かける度にドキドキしてしまう。
今までパーティメンバーの親友でしかなかったからきっと迷信に違いない──。僕はこの気持ちを隠すことにした。
この気持ちに素直に向き合えるようになるのは、また何年か先のことだろう──。
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お題:もうひとつの物語/懐かしく思うこと
前日分のお題も消費させていただきます。
暗がりの中で踊り明かそう。
いつか夜明けはくるのだから──。
いくら僕が強がっても、貴方は誰よりも僕の心が脆く、壊れやすいことを知っている。僕の言葉の全てが嘘で固められているのだから。
僕のことを、天才、狂人だなどと、周囲の人々に表面的なレッテルばかり貼られて、その度に嘘を重ねた。
僕が僕じゃなくなってしまう─。
1度描いたら塗り重なって消えない油絵か、瘡蓋のようなものに感じる。
僕はこの世界が苦手だ。神様から与えられた才能という称号もなければ、努力さえ出来ない。
一つだけ贈り物があったとしたら貴方との出会いだろうか。僕は少しだけ救われたと思う。
カウンターにはじきに消えてしまう蝋燭が1本。
暗がりの中で、灯火が揺蕩う。
今になっては誰も救いようのない僕を助けてくれようとした貴方が恋しい。お酒を1杯、口に含んだ。
遠のいていく意識に恐怖を感じるのと裏腹に、安堵の気持ちも込み上げてくる。
さようなら、そしていつかまた。
脳裏にノイズがかかった。
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お題:暗がりの中で
ほのかに紅茶の優しい香りが漂う。
貴方も1杯、如何ですか──?
ここは街外れの喫茶店。夕焼け空に照らされている店外には星屑のランプが飾られており、小鳥の唄い声が聞こえる。そこに蓄音機の音色が響く。
「いらっしゃいませ♪」
店の奥から歌うような声色で出迎えてくれた。
綺麗な長い白髪を後ろで結っていて、紫陽花を閉じ込めたような艶やかな目が、どこか浮世離れした様な青年だった。
この喫茶店の少しだけ和風な制服がぴったりだ。
「当店おすすめ、紅茶1杯如何ですか?
くふふ、今日は特別に“すいーつ”を作ったので良ければおひとつ試食していきませんか〜♪」
少しだけ糸切歯が見えた気がしたのは気の所為だろうか…?
「…うま!」
僕は感動した。今までこんなに美味しいスイーツと紅茶は飲んだことが無いと。
「えへへ、それは良かったです♪」
そう、満面の笑みで言う店員さんがとても可愛い。
窓からは綺麗な紅葉が見え、まるで幻想の中のような場所だな、と僕は心の中で呟いた。
シックな内装にアンティークな家具。店主のお兄さんに色々と話を聞いてみたところ、骨董品店も兼ねているらしい。
ゆっくりと紅茶を飲み、窓を眺める。
疲れが全て浄化された気分だった。
それから暫くして、ふと時計を見てみるといつの間にか3時間も経っていた。
微睡みのように陽の光に溶けてゆく、儚い時間だった。
「ありがとうございました!
またのご来店、お待ちしております〜♪」
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お題:紅茶の香り
親愛を表す「愛言葉」
貴方に贈りたい、僕たちだけの愛言葉を──。
幼なじみだった僕たちは1か月前に付き合った。
僕の「恋人になる」という長年の夢が成就したのだ。
そして、貴方はお医者さんから余命1年という時間だけを渡された。持病故らしい。
でも、僕はその事は承知の上だった。
貴方が最後まで貴方としての人生を楽しめれば。
僕はそれだけで満足だった。たった短い時間でも。
たった1年だけの儚い恋を終わらせないために、
僕たちだけの愛言葉を言う。
「 」
来世では一生の時間を約束しよう…互いに心の片隅で思うのだった。
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お題:愛言葉
とても脆弱な「友達」という関係。
自分の気持ちを隠していつまでも──。
僕は「友達」という関係がどれ程までも脆いことを知っている。
僕は友達だと思ってた人に裏切られてから、人間不信のようになっていた。
だから、幼なじみの「友達」に恋をしてしまったなんて、誰にも言えない。
この気持ちを貴方に伝えられたらどれほど良かったか。でも、臆病な僕は伝えられなかった。
(この気持ちを、墓まで持っていこう──。)
友達以上てもなく、それ以下でもない。僕は曖昧な関係を一生続かせるだけ。
恋心に気づいても前と同じ振る舞いをした。
心の空白を埋めるためには愛されることではなく、愛することだとわかったから。
「おやすみ」
空を見上げると満月が真上に煌めいていた。
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お題:友達