思い出

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9/7/2023, 10:51:23 AM

その日は、空気の澄んだ朝だった。

もう夏の終わりになり、朝のウォーキングが汗をそこまで気にしないで歩ける様になった。

何時もの様に、彼と二人で田舎道を歩く。
宿題の進捗や、委員会の相談、単なる愚痴。
そんな学生らしい会話をしながら、笑い合う。

〔それにしても、此処本当に人居ないね。びっくりした。
気兼ね無く歩けるのは良いのだけどね。〕

私がそんな事を言うと、彼も頷き、

「だよね。僕もびっくり。散歩にオススメの所って、
マップで調べていたら見つけてさ。こんなに近所にあるなんてラッキーだよね。周りさ、全部田んぼに畑。」

笑って言っている。

一度立ち止まり、体を少しほぐす。ストレッチの大切さが
身に染みる。所々、パキパキと音がなる。

〔ん〜!疲れた!けど、やっぱりストレッチは
気持ちいいね。〕

私は最後に伸びをして、彼に話しかけた。
彼も立ち止まって居て、ストレッチをしていた。

「ホントにね。朝の運動だけで、これだけ体が楽になる。
すごいわ、若さって。」

そんな事を呟いている彼の動きを見ていると、
妙な違和感がある。

なんというか、動きが滑らか過ぎる。
踊っている様に、舞う様に、足のストレッチをしている。

猫の動きに近い様な。のび~とした時のしなやかさが、
よく似ている。ちょっとバレエ感がする、しなやかさ。

思わず見つめてしまうと、彼が気付く。
私はハッとして、

〔ジッとみてごめんね。なんか、凄く動きが綺麗だったから、気になって。〕

ちょっと誤魔化す様にはにかんで言うと、彼は、

「あー、うん。僕、体が凄く柔らかいんだ。
昔、体操してたから。昔取った杵柄ってやつだね。」

苦笑いしながら教えてくれた。
私は成程。と頷き、

〔そうなんだ。知らなかったよ。ありがとう。〕

と言った。
彼はストレッチが終わると、ニコリとして言った。

「さ、帰ろっか。」

私も笑い返して、

〔そうだね。〕

その言葉で、また歩き始めた。

彼の事をまた一つ、知ることが出来た。
特別感を覚えながら、帰りはゆっくりと歩いて行く。

9/6/2023, 11:24:49 AM

とある日の放課後、私達は補修を受けていた。
テスト範囲をもう一度しっかりと復習しようと、
私と彼が先生に頼んで、補修をして貰った。

「はい、お疲れ様でした。今日の補修は此処まで。
また明日。」

五時半になると、先生はそう言ってお辞儀をして教室を出た。

〔ありがとうございました。〕

私達も席を立ち、お辞儀をした。

五時半である訳は、先生の都合である。テスト前云々に、先生は忙しい。それでも快諾してくださった先生には感謝しかない。

「疲れたぁ。」

彼は体を直した後に、両腕を上に伸ばし、呟いた。

私も同じ様に体をほぐし、

〔そうだね。でも、補修頼んで正解だった。〕

彼の方を見ながらに言った。

彼は顔をこちらに向け、不思議そうにする。

「へー。なんか意外。僕はまだしも、キミは受けなくても点数は、平均より上に行くタイプなのに。」

その言葉に、私は首を横に振る。
彼は少し笑って、

「まぁいいや、一緒に帰ろ。」

教科書をしまい、鞄を持ってそう言った。
私は頷き、彼について行く。

「でも、補修のお願い受けてくれるなんて、あの先生も
ちょっとは優しいところあるんだな。」

帰路に着き、二人で歩いていると、彼はふと言った。

もう暗くなり始めた道は、一人で帰るにはちょっと怖い。

〔内申点の大切さが身に染みる。〕

本音が少し漏れてしまった。
彼はその言葉が壺に入った様で、ケラケラと笑っている。

〔だって、本当の事でしょ。こんなに忙しい時期に、
わざわざ時間を割いてくれるなんて、
今迄、面倒事を引き受けて来た甲斐があったよ。〕

苦労が報われるって、こういう事なのかな。
なんてことを考えながら、私はハッキリと言った。

彼も頷き、

「確かに。あの生活指導のキビシー事で悪名高い先生が、わざわざ時間割いてくれるなんてな。
徳って積んでおくものだね。」

悪い笑みを浮かべ、そう言った。

〔悪名高いじゃなくて、高名でしょ。〕

少し笑いながら言うと、彼は僕から見たらだよ。と
今度は素直な笑顔で言った。

緩く穏やかな空気の中、二人でそんな事を言いながらに
歩いて帰っている。
すると、彼がふと

「…今度の休みってさ、空いてる?」

と、聞いてきた。
私は淡い期待を込めて、

〔うん、空いてる。〕

そう答えた。

彼は立ち止まり、私をしっかりと見つめて、

「もし、よかったら、なんだけど。さ。
一緒に」

ドキリとした。
次の言葉を息を飲んで待っていると、
一番大切な所で、

ピリリ!

彼のスマホが鳴った。

彼はビクッとして、慌てて携帯を見る。
ため息をついて、

「友達からだよ。最悪。」

と、ポツリと呟いた。
私も気が抜けてしまって、ふぅ。と息を吐く。
ふと、自分のスマホを見てみると連絡が有った。

私は「まだ?」と、帰りの催促の連絡だった。

私もため息をついてしまい、彼と顔を見合わせる。

お互いに、間の悪いものである。

時を告げるにしても、もっと空気を読んで欲しい。

9/5/2023, 11:51:23 AM

「この前は、本当にありがとう。凄く嬉しかった。
これ、良かったら受け取って欲しいの。」

彼女は花の咲いた様な笑顔で言った。
その掌には、美しい貝殻のイヤリングが有った。

〔大切な人の辛い時だし、隣に居られて良かったよ。
綺麗だね、ありがとう。〕

私はそう言って、イヤリングを受け取った。
掌の上に有る小さな貝殻は、キラキラと光を反射する。
とても可愛らしい。

先程の言葉に少し恥ずかしがった様子の彼女は、
少し顔を赤くして言った。

「本当に、もう。
折角だから、付けてみて。貴女に似合うと思うの。」

私は少し苦笑いをしてしまう。

〔こんなに可愛らしいデザイン、似合うか不安だね。
…嗚呼、そうだ。キミに付けて欲しいな。〕

少しイジワルに言うと、彼女は思っていたよりノリノリで
私の掌の上に有る、イヤリングを手に取った。
そして、

「良いよ。付けてあげる。」

そう言って、私の顔と彼女の顔が近づく。
ふわり、と良い香りがした。ドキリとする。
先程迄私がイジワルしていたのに、仕返しをされている。
ドギマギしていると、耳に僅かな痛みが走った。

「…付いた。やっぱり、とても似合っているわ。」

そう言って彼女の顔が離れていく。少し、ホッとした。
彼女は何処となく誇らしげにしている。

その時に、普段は髪の毛で隠れている耳がちらりと、
見える。イヤリングが付いていた。

気になった私が耳元をじっと見つめると、
彼女は気が付いた様で白く、華奢な指先で、髪を耳に掛けてみせる。

やっぱり。お揃いだ。

「勝手にお揃いにしてごめんなさい。」

と、申し訳無さそうにしている。

私は慌てて、彼女の手を優しく握り、

〔いや、全然大丈夫。寧ろ、すっごく嬉しい。〕

そう言って笑った。

すると彼女は嬉しそうに、笑って

「ありがとう。」

と言った。

一生大切にする。

そう云えば、彼女は私の耳を触り、嬉しそうに頷いた。

9/4/2023, 11:23:00 AM

夜中十一時、私は自転車に乗って、丘の上にある学校に
走って来た。

何故夜中に?何て理由は簡単な話で、年頃の私と、
心配をしてくれる親との言い合いになった。
内容は在り来りで、帰宅時間が遅いとか、もっと勉強しなくて大丈夫?だとか。

別に、帰宅時間が遅い事に関しては心配かけてごめん、で終わったのに、その後の勉強の事に関して、私は口を出されるのが大嫌いだった。

私なりのペースで、学校の勉強にはついて行けている。
だから、私はその事には口出しをしないでと、ハッキリと伝えていたのに、こちらが下手に出ると、ここぞとばかりにしつこく聞かれて言われて、余りに腹が立った。

このままだと、自分がストレスで鬱になりそうで
反射的に家を出た。スマホと、財布は持っている。

そのまま自転車に乗り、走り出した。

そして、学校まで来てしまった。
勿論門が開いている訳もなく、自転車を門の前に止めて
そのまま門にもたれ掛かった。

ため息が漏れる。そんな時に、ピコンとスマホが光った。
何かと見れば、彼女からの連絡だった。

「今ひま?」

私は既読を付け、返信をする。

〔学校に居る。〕

それだけ送ると、すぐに電話が掛かって来た。

「もしもし!?大丈夫?何があったの?
今からそっち向かうから!電話繋ぎっぱなしにしといて。自転車で向かうから、少しかかっちゃうけど待ってて。」

彼女はそれだけ言うと、電話越しにガチャガチャとした
音がし始めた。
チリン、と彼女の自転車のカギの鈴の音が鳴る。

〔ありがとう。〕

スピーカーモードにして、彼女を待つ。
時折、彼女の声が聞こえる。

しばらく待つと、彼女が汗を垂らしながら、坂を登ってきた。ゆっくりと登りおえると、深く息を吸い、汗を拭った。

籠の中には、缶のドリンクが入っていた。
彼女は、それを差し出しながら

「こんばんは。良かったら飲む?ジュースとお茶、どっちが良い?」

目線を合わせて、優しい声で彼女は言った。
私はジュースを受け取って、

〔ありがとう。ごめんね。〕

とだけ言った。

彼女は笑って、首を横に振っていた。
そして、私の横に座った。

「いやぁ、こんな時間に外出るの初めてだから、ちょっと
ドキドキしちゃう。」

お茶を飲みながら、少し茶化した様に言われる。
こんな時に、何も聞かないで、いつもと同じ様に話してくれる彼女の優しさに、荒んだ気持ちが落ち着いていく。

ふと、景色に目を遣る。
こんな時間なのに、色々な所がきらめいている。
しばらく居たのに、ゼンゼン気が付かなかった。

彼女も気付いたらしく、

「おぉー!いい夜景だね。ちょっとムードある感じ。」

と、私の方を見てニコニコとして言った。

私も彼女を見て頷くと、もっとニコニコとする。

「今夜はもう少しここで、デートしていきます?
夜景も綺麗だし、月が見てるだけだし。
宜しければ、二人だけでこのとっておきのきらめきを、
見ていきませんか?」

私の手を優しく握って、彼女は飾った様に話した。

〔うん。見てく。〕

それだけ返して、私も彼女の手を握る。

きっと、貴女と一緒だから、こんなにきらめいてる。

9/3/2023, 11:32:13 AM

在る日の朝、今日も学校が有ると落ち込んでいた日。

勿論、学校を面倒いの一言だけで休めるわけも無く、

「おはよ。今日の授業何だっけ?」

面倒い、と考えながら自転車を信号待ちで止まっていると後ろから彼の軽い声が聞こえた。

私は振り返り、

〔数学、国語、日本史、化学、体育、ホームルーム。
確か、こんな感じ。〕

と答えた。自分でも驚く程に低い声が出た。

彼はその声を聞いてだろう、苦笑いしていた。
あと、人の顔を見て一瞬固まらないで欲しい。
能面みたいな顔になっている事なんて、朝、鏡見た時に気付いてる。

「よく覚えてるね。ダルい授業のフルコンボ。
5時限目の体育程、しんどいものはない。」

私はその言葉に深く頷いた。
彼は続けて、

「体育って、室内?バスケならやる気出るのになぁ。」

自転車のハンドルに両腕を乗せ、其処に顎を乗っけて言った。分かる。

だが、私は彼に、現実を告げた。

〔バスケなら良いのにね。現実は校庭で体力作りとか。〕

それを聞いた瞬間、彼は天を仰いだ。

私はそんな彼に、

〔信号変わったから行くね。〕

と、一言だけを告げ、走り出した。

同じ体育なのに、校庭という場所。体育作りという内容。
体育館という場所。バスケという内容。

そんな教師から見れば割りと些細な事の差だろうに、
どうしてこうも、学生からすれば重大な差になるのか。

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