思い出

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その日は、空気の澄んだ朝だった。

もう夏の終わりになり、朝のウォーキングが汗をそこまで気にしないで歩ける様になった。

何時もの様に、彼と二人で田舎道を歩く。
宿題の進捗や、委員会の相談、単なる愚痴。
そんな学生らしい会話をしながら、笑い合う。

〔それにしても、此処本当に人居ないね。びっくりした。
気兼ね無く歩けるのは良いのだけどね。〕

私がそんな事を言うと、彼も頷き、

「だよね。僕もびっくり。散歩にオススメの所って、
マップで調べていたら見つけてさ。こんなに近所にあるなんてラッキーだよね。周りさ、全部田んぼに畑。」

笑って言っている。

一度立ち止まり、体を少しほぐす。ストレッチの大切さが
身に染みる。所々、パキパキと音がなる。

〔ん〜!疲れた!けど、やっぱりストレッチは
気持ちいいね。〕

私は最後に伸びをして、彼に話しかけた。
彼も立ち止まって居て、ストレッチをしていた。

「ホントにね。朝の運動だけで、これだけ体が楽になる。
すごいわ、若さって。」

そんな事を呟いている彼の動きを見ていると、
妙な違和感がある。

なんというか、動きが滑らか過ぎる。
踊っている様に、舞う様に、足のストレッチをしている。

猫の動きに近い様な。のび~とした時のしなやかさが、
よく似ている。ちょっとバレエ感がする、しなやかさ。

思わず見つめてしまうと、彼が気付く。
私はハッとして、

〔ジッとみてごめんね。なんか、凄く動きが綺麗だったから、気になって。〕

ちょっと誤魔化す様にはにかんで言うと、彼は、

「あー、うん。僕、体が凄く柔らかいんだ。
昔、体操してたから。昔取った杵柄ってやつだね。」

苦笑いしながら教えてくれた。
私は成程。と頷き、

〔そうなんだ。知らなかったよ。ありがとう。〕

と言った。
彼はストレッチが終わると、ニコリとして言った。

「さ、帰ろっか。」

私も笑い返して、

〔そうだね。〕

その言葉で、また歩き始めた。

彼の事をまた一つ、知ることが出来た。
特別感を覚えながら、帰りはゆっくりと歩いて行く。

9/7/2023, 10:51:23 AM