思い出

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とある日の放課後、私達は補修を受けていた。
テスト範囲をもう一度しっかりと復習しようと、
私と彼が先生に頼んで、補修をして貰った。

「はい、お疲れ様でした。今日の補修は此処まで。
また明日。」

五時半になると、先生はそう言ってお辞儀をして教室を出た。

〔ありがとうございました。〕

私達も席を立ち、お辞儀をした。

五時半である訳は、先生の都合である。テスト前云々に、先生は忙しい。それでも快諾してくださった先生には感謝しかない。

「疲れたぁ。」

彼は体を直した後に、両腕を上に伸ばし、呟いた。

私も同じ様に体をほぐし、

〔そうだね。でも、補修頼んで正解だった。〕

彼の方を見ながらに言った。

彼は顔をこちらに向け、不思議そうにする。

「へー。なんか意外。僕はまだしも、キミは受けなくても点数は、平均より上に行くタイプなのに。」

その言葉に、私は首を横に振る。
彼は少し笑って、

「まぁいいや、一緒に帰ろ。」

教科書をしまい、鞄を持ってそう言った。
私は頷き、彼について行く。

「でも、補修のお願い受けてくれるなんて、あの先生も
ちょっとは優しいところあるんだな。」

帰路に着き、二人で歩いていると、彼はふと言った。

もう暗くなり始めた道は、一人で帰るにはちょっと怖い。

〔内申点の大切さが身に染みる。〕

本音が少し漏れてしまった。
彼はその言葉が壺に入った様で、ケラケラと笑っている。

〔だって、本当の事でしょ。こんなに忙しい時期に、
わざわざ時間を割いてくれるなんて、
今迄、面倒事を引き受けて来た甲斐があったよ。〕

苦労が報われるって、こういう事なのかな。
なんてことを考えながら、私はハッキリと言った。

彼も頷き、

「確かに。あの生活指導のキビシー事で悪名高い先生が、わざわざ時間割いてくれるなんてな。
徳って積んでおくものだね。」

悪い笑みを浮かべ、そう言った。

〔悪名高いじゃなくて、高名でしょ。〕

少し笑いながら言うと、彼は僕から見たらだよ。と
今度は素直な笑顔で言った。

緩く穏やかな空気の中、二人でそんな事を言いながらに
歩いて帰っている。
すると、彼がふと

「…今度の休みってさ、空いてる?」

と、聞いてきた。
私は淡い期待を込めて、

〔うん、空いてる。〕

そう答えた。

彼は立ち止まり、私をしっかりと見つめて、

「もし、よかったら、なんだけど。さ。
一緒に」

ドキリとした。
次の言葉を息を飲んで待っていると、
一番大切な所で、

ピリリ!

彼のスマホが鳴った。

彼はビクッとして、慌てて携帯を見る。
ため息をついて、

「友達からだよ。最悪。」

と、ポツリと呟いた。
私も気が抜けてしまって、ふぅ。と息を吐く。
ふと、自分のスマホを見てみると連絡が有った。

私は「まだ?」と、帰りの催促の連絡だった。

私もため息をついてしまい、彼と顔を見合わせる。

お互いに、間の悪いものである。

時を告げるにしても、もっと空気を読んで欲しい。

9/6/2023, 11:24:49 AM