思い出

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夜中十一時、私は自転車に乗って、丘の上にある学校に
走って来た。

何故夜中に?何て理由は簡単な話で、年頃の私と、
心配をしてくれる親との言い合いになった。
内容は在り来りで、帰宅時間が遅いとか、もっと勉強しなくて大丈夫?だとか。

別に、帰宅時間が遅い事に関しては心配かけてごめん、で終わったのに、その後の勉強の事に関して、私は口を出されるのが大嫌いだった。

私なりのペースで、学校の勉強にはついて行けている。
だから、私はその事には口出しをしないでと、ハッキリと伝えていたのに、こちらが下手に出ると、ここぞとばかりにしつこく聞かれて言われて、余りに腹が立った。

このままだと、自分がストレスで鬱になりそうで
反射的に家を出た。スマホと、財布は持っている。

そのまま自転車に乗り、走り出した。

そして、学校まで来てしまった。
勿論門が開いている訳もなく、自転車を門の前に止めて
そのまま門にもたれ掛かった。

ため息が漏れる。そんな時に、ピコンとスマホが光った。
何かと見れば、彼女からの連絡だった。

「今ひま?」

私は既読を付け、返信をする。

〔学校に居る。〕

それだけ送ると、すぐに電話が掛かって来た。

「もしもし!?大丈夫?何があったの?
今からそっち向かうから!電話繋ぎっぱなしにしといて。自転車で向かうから、少しかかっちゃうけど待ってて。」

彼女はそれだけ言うと、電話越しにガチャガチャとした
音がし始めた。
チリン、と彼女の自転車のカギの鈴の音が鳴る。

〔ありがとう。〕

スピーカーモードにして、彼女を待つ。
時折、彼女の声が聞こえる。

しばらく待つと、彼女が汗を垂らしながら、坂を登ってきた。ゆっくりと登りおえると、深く息を吸い、汗を拭った。

籠の中には、缶のドリンクが入っていた。
彼女は、それを差し出しながら

「こんばんは。良かったら飲む?ジュースとお茶、どっちが良い?」

目線を合わせて、優しい声で彼女は言った。
私はジュースを受け取って、

〔ありがとう。ごめんね。〕

とだけ言った。

彼女は笑って、首を横に振っていた。
そして、私の横に座った。

「いやぁ、こんな時間に外出るの初めてだから、ちょっと
ドキドキしちゃう。」

お茶を飲みながら、少し茶化した様に言われる。
こんな時に、何も聞かないで、いつもと同じ様に話してくれる彼女の優しさに、荒んだ気持ちが落ち着いていく。

ふと、景色に目を遣る。
こんな時間なのに、色々な所がきらめいている。
しばらく居たのに、ゼンゼン気が付かなかった。

彼女も気付いたらしく、

「おぉー!いい夜景だね。ちょっとムードある感じ。」

と、私の方を見てニコニコとして言った。

私も彼女を見て頷くと、もっとニコニコとする。

「今夜はもう少しここで、デートしていきます?
夜景も綺麗だし、月が見てるだけだし。
宜しければ、二人だけでこのとっておきのきらめきを、
見ていきませんか?」

私の手を優しく握って、彼女は飾った様に話した。

〔うん。見てく。〕

それだけ返して、私も彼女の手を握る。

きっと、貴女と一緒だから、こんなにきらめいてる。

9/4/2023, 11:23:00 AM