小音葉

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7/23/2025, 11:36:50 AM

それはまるで翠色の海
何よりも誰よりも鮮やかなドレスを纏って
吊り下げられた星空の下で踊るわ
懲りず押し寄せる波のように
台に載せられたケーキのように
あなたの為に、ただあなただけの為に

泡のように膨れ上がった手で
仔鹿のように震える足で
喚く頭の何処かで鐘が鳴り響いている
わんわんと誰かが泣いている
歪な星空の滲む手を持ち上げる力もないの
それでもきっと、あなたの為に踊ってみせるわ

綺麗でしょう、ただ一人の為に咲く花よ
たとえこの身体が崩れ落ちても
燃え盛る心臓を撃ち抜けるのはあなただけ
あなただけなのよ

私を止めて/捨てないで

誰も彼もが去って行くわ
鼻をつまんで、鼠を見るような目をして離れて行くわ
焦げた生地の端を避けて、汗で滲んだ額を睨んで
私を置いていなくなってしまう
蝕むつもりなんてなかったのに
腐るには早過ぎたはずの花は、毒にまみれて枯れ果てる

あなたは、あなただけは傍に居て
この手を握って泣いてほしい
この胸に縋って惜しんでほしい
ねえ、どうか此処に居て
だって私、死ぬ気で踊ったのよ
あなたの為に、ただあなただけの為に
報われなければきっと、百年先まで笑ってしまう

だからもう一度言うわ
丸くて柔い耳元で、あなたを呼んで懇願するわ
どうか私を、

(True Love)

7/19/2025, 10:47:29 AM

小さな鳥が空を飛んでいる
帰る場所などない陳腐な袋なら逃げ続けている
透き通る怪物は意思もないのに追い回す
風が止むまで強いられる間抜けな鬼ごっこ
彼らが何を思うかなんて、知ったことじゃない
暴れる風よ、返してほしい
かつてあなたが攫った小さな心を
なんて、知ったことじゃないよな

煽られるままに揺らめく髪が視界を遮る
振り払っても、掻き分けても
寄せては返す波のように、濁った瞳を隠している
昨日のことも覚えていない
得たはずの学びは砂に紛れ、同じ過ちを繰り返す
飽きもせずに、諦めもせずに、ただ規則的に上下する胸
乾いた喉が伝えることは何もない
言葉はとうに掌から旅立って
そうか、手放したのはこの両手だった

自由を押し付けて悦に浸る
朽ちた愛を嘆き涙を流す
私は優しい人、私は正しい人
なんて、胃が爛れそうだ
空白になったはずなのに、吐き気が止まらない

私は何がしたかったのだろう
何を持ち、何を目指していたのだろう
投げ捨てたはずの心は焼けた心臓に再び芽吹く
結局、人は無色になどなれはしない
息を顰めても滲み出す涙痕が頬に錆び付いて

空、見上げた私を、大きな影が横切っていく
去り行く鳥は知らないだろう
地底からこそ見える景色があるのだと

(飛べ)

7/16/2025, 12:08:12 PM

ほんの小さな一言で世界は壊れる
鼻で笑い飛ばす警句に、私は何を学んだだろう

昨日まで肩を並べた戦友は、今や賊を狩る従僕となって
唾を飛ばしながら血走った形相で
よくも友を、と義憤の旗を振り上げている
友よ、友よ、憎き仇敵を穿ってやるぞと槍を掲げている
次第に狭まる輪は氷より冷たく、雷より喧しい
何気ない一言がこの地獄を招いたのだ
ならばどうすれば良かったのだろう
返す言葉はなく、兵は裏返った目から血を流して死んだ

晴れていたはずの空が雲が覆い、やがて大粒の雨が降る
甲高い声でケタケタと笑う女神は
ふと迸る悪意の閃きのまま、あなたを突き飛ばす
跳ねた泥は白い頬を汚し、湧き上がる絶望を彩るだろう
従僕は彼女を囲んで、よく似た目で、口で、ケタケタと
追い縋る手を踏み付けて
細やかな一言を喉元に突き付けて燃え盛る
揺らめく炎はついに魔手を伸ばして
磔にされたあなたを顧みず火刑は執り行われる
少なくとも痛みは無い、肌を刺す熱はない
けれど潰える心はどこへ向かえば良いのだろう

あなたは綺麗と称賛した唇で
あの子は醜いと言いふらす
あなたの努力に倣いたいと誓った拳で
結晶の悉くを砕いて嘲る
こんなに惨めな体を引き摺って
こんなに哀れな塵を積み上げて
あなたに生きる権利などあると思ったの
彼女は笑う、皆が笑う、ケタケタ、ケタケタと
糸より細い絆も、紙より薄い信頼も
締め上げられて折れた首が、今もないている

何気なく穿たれた一言が、いつか彼女を壊しますように
不幸な輪廻から私は何も得ないだろう

花知らぬ日陰者は空想に酔い痴れて
帰らない返事に頬を染めるわ

(真昼の夢)

7/13/2025, 10:41:16 AM

皆が指差して笑うの
どうして、どうして、私何も悪いことしてないのに
嘘吐き、ホラ吹き、ペテン師と
皆が私を囲んでそう呼ぶの
おかしな話ね、嘘吐きは一体どちらなのか
本当は虚実なんてどうでもいいくせに

切り刻まれた傷は今なお癒えず
瘡蓋のミルフィーユは分厚い仮面
もう二度と剥ぐことも叶わない
あなたのせいよ、忘れているでしょうけど

裁かれない罪は誰の爪も牙も汚さずに
すっかり整えられた綺麗な毛皮で闊歩する獣共
私はあなたを許さない
あなたのことを許さない
忘れていても、その虚飾に塗れた爪は赤黒く
グロテスクな光沢を纏う唇からは腐った肉の匂いがする
人の振りした獣共よ
改めようと振り払おうと、私はあなたを許さない

茹だるような夏の日に
あなたは一緒に泣いてくれたのに
二人して汗だくで、先に帰ってもよかったのに
そばに居て励ましてくれた
あなたはどこへ行ったの、ねえ

だから私は嘘吐きになった
大丈夫、私は一人で生きていける
誰も愛さず、誰も守らず、泣きも笑いもしないのです
怒りも喜びも、私を騙す嘘なのだから
私は愛を信じない、私は恋を求めない
晒されて枯れる想いなら、きっと初めから嘘なのです

(隠された真実)

7/12/2025, 10:31:29 AM

夜空に咲く大輪の花
夢中になって声を弾ませるあなたの笑顔
綺麗だねと呟く唇、見つめる澄んだ瞳
それら全てが、滲んで揺らめいて沈殿していく
私の中で洗われて、思い出とやらに昇華されていく
傷付くことも言われたはずだった
背を押されて感じた奇妙な浮遊感も覚えているのに
あの後、どうなったんだっけ

ちりん、ちりん
拒むような軽やかな音色が私を誘う
浮世を吐き捨て蓋をして、離れてしまえと誘っている
りぃん、りぃんと続けて唄う
辛いことなどなかったと、沁み渡るような歌を届けて

引き摺る想いも、遠く反響する耳障りな喧騒も
遍く幻影など初めからなく
私の見た悪夢に過ぎなかった、それら全てを掻き回す
溶けた墨が押し流されて、水面はやがて透明になる
恐れも怯えも等しく塵芥
初めから、私には重たい荷物だったのだと知る
必要ないなら捨て置くのみ
軽くなった体ならば、いざ気楽に一人旅へ

引き留めないでくれ、一輪の花
お気に入りの花瓶に挿された、小さな太陽
彼女が太陽に焦がれたように
私もあなたに憧れていた
見つめて、見つめて、見つめ過ぎて
あなたのことが見えなくなった

拒まれた理解は癇癪を起こし、私を底へ突き落とした
遡る悪夢は甘味の如く、最後の一口まで蜜に塗れて
さようなら、偽りの希望
ありがとう、こんな私と共に居てくれて
これからはきっと一人きりで生きていくよ

(風鈴の音)

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