花架星廻堂

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5/2/2026, 11:57:53 AM

「優しさだけで、きっと」

とうにひび割れた心を、あなたは必死に掻き集める
細い指を赤く染めながら
一つ一つを愛おしそうに拾い集める
薄氷の溢るるこの目に、欠片さえ寄越してはくれない

どうしてそんなに優しいの
喉から突き出る不意の刃が、何度その胸を穿っても
戦慄く爪先が、繰り返しその肌を裂いても
あなたは止まってはくれない
赤い痕を残しながら
微塵も揺らいではくれないのだから
腹いせに私は問い掛ける

どうして、どうして
枯れた草に水を与えるような真似
喉が渇いているくせに、膿んだ傷口が痛むくせに
やめてしまえばいいのに
あなたが傷付くことなんてなかった筈なのに

だからあなたが壊れた時は
同じ優しさを返そうと誓う
せっかくあなたが癒した私を、あなたの為に傷付ける
これが私の復讐、あなたが選んだ罪の形

10/5/2025, 11:47:13 AM

帰らぬ亡霊と酌み交わす、可惜夜の一杯
あなたと生きられたなら良かったけれど
手を取り合うこと能わず、じきに別れを告げるでしょう
冷える肌を摩り、丘で一人

懐かしい背が遠ざかる
昇るあなたの美しいこと
追い縋り、引き留めたい
その唇を奪って穢してしまえば、傍で生きてくれますか
伸ばした手を切り落とす

初めて愛したあなたの瞳
針を溶かす優しい掌
この想いは届いていたでしょうか
最期まで、最期まで、終ぞ聞くこと叶わなかった
もはや灰に埋もれた結晶へ問うても返る言葉は無く

悪夢のような朝だった
骸と過ごした静寂の庵
絵に描いたような安らかな顔
私はまだ許していない
きっと生涯恨み続けるけれど
この一杯で、仕方ないから忘れましょう
夜が明ければ私は一人

(moonlight)

9/28/2025, 12:10:55 PM

澄み渡る空に怯えた
逃げ惑う果てに空を失くした
救済ならば不朽の檻を
この身を縛るものはもはや、それだけで良い

射抜くような瞳をして、あなたは何も責めようとしない
その高潔で私を殺める
見飽きた悪夢は私を責めない
いつまでも美しいあなたを繰り返し殺める
見透かした素振りで微笑む顔が憎らしくて
その傲慢を私は責める
軋んだ誓いが悲鳴を上げて、口を覆うから喉を突き破る
明滅する砂塵の中、途絶えた想い

星のように、雨のように
私は何を望んだろう
あなたならどう紡ぐだろう
等しく降る光の束、その悉くを捧げられたなら
弾ける間際まで共に揺蕩えるだろうか
同じ一筋を見つめるあなた
分からないけれど、分かりたい
分かりたくなくとも、分からねばと望む

もう失わない為に
殺めることを強いられない為に
故に私は手放そう
抱いて生まれた願いを、ここに

変わらない空が私を迎える
遥か時を繋ぎ今もそこに在る
初めから救済など必要なかった
肩を並べる刹那、見慣れた筈の微笑み
あんなに美しいなんて、知らなかった

(永遠なんて、ないけれど)

9/27/2025, 12:23:54 PM

午下り、限られた時を守る静寂の帳
細い肩を震わせてあなたは嘆く
とうに終えた物語、傍に翻る頁の為に頬を濡らして
剥がれることのない祝福/呪縛を
覆ることの許されぬ因果/宿痾を
もはや爛れて無味で通す喉に代わり、あなたが嘆く
掠れた声で繰り返し、消えた世界の為に乾く

どうして、どうして
あなたがあんな目に遭わなくてはならなかったのか
誰よりも傷付いたあなたが、何よりも惨い終結へ至る
ひどいよ、苦しいよ
せめて分かり合えたならどれほど良かっただろう
共に生きられたなら夢のようだった
愛し合える未来へ繋ぎたかった

息遣いすら煩い回廊の片隅で、嘆く声だけが駆け抜ける
そして私はそっと手を差し出す
儚い希望を潰したのは、あなたであり私
断ち切った可能性は、言い換えれば癌だったのだから
あなたが膝を痛める必要はない
目を腫らす前に、いつか本当に折れてしまわないように
拉げて血を流す心はあなた自身に救ってほしい
既に終わった私の為に、どこかで終わった誰かの為に
今を生きるあなたを消耗しないでほしい
やがて消える私からあなたへ告げる、ただ一つの祈り

失われることのない光を
何にも敗れぬ運命を、あなたに
そして時々、思い出して
共に歩む果てを願ってしまった、愚かな影がいたことを
愛した人の心の片隅に居場所があるのなら
月の照らさぬ夜に幻想であろうと寄り添えるのなら
それだけで私は満たされている
これ以上なく満たされているのだから

(涙の理由)

9/17/2025, 10:43:16 AM

見下ろす後頭部、しなやかな背、健やかな肌を伝う汗
魔が差してしまうのも無理はない
注がれた陽光に甘えて勝手に踊る木漏れ日のように
散歩の気分で悪心は訪れる
それは誰の内にも在る、人たらしめる証
どうか私を責めないで
同じ強さで抱き返して
受け入れたのはあなた、だから最後まで、最期まで

こんな時だけ聡いあなた
鈴鳴る声で私を裁く、曇る瞳は罪でしょう
暴くなら最奥まで、骨の髄まで開いて映して記憶して
きっと私を忘れないで
珍しく悪戯心なんぞに酔い痴れた私の顔を
百年先でも描いて見せて
太い眉、白い歯、全て飲み込むような黒曜石の瞳
私もずっと覚えているから
百年と一日先も、同じ熱を返して欲しい

囚われた悪夢でも、閉ざされた幻想でも
どうあってもあなたと永遠に結ばれたいと願う
甘やかに照り付ける光を失おうとも
星を飾ることすら忘れた夜空の下で、あなたと二人
螺旋の底へ旅したい
坩堝の底で溶けて行きたい
色違いの絆を繋いで、深く深く、静かなところへ
眠る前に同じ言葉を交わしてね
私も必ず応えるから

(靴紐)

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