頼りないと嘲った
近寄る勿れと拒絶した
刃を向けて脅かした
あなたは変わらず微笑んだ
どうして、どうして、どうして
怒ればいいのに
憎めばいいのに
そんなだから薄っぺらいんだ
守れなかった過去
容易く落ちる細い首
諍いは坂を転がる小石のように
あなたはそれでも微笑んだ
懐かしむ瞳に恥の色はなく
ただ私の浅ましさを映し出す
見ないで、聞かないで、私をこれ以上
知らないで、暴かないで
繰り返される罵倒の投石すら甘んじて受け入れる
あなたのことが羨ましかった
泣いてもいいのに
震えながら弱音を吐いてしまえばいいのに
憐れむでもなく、侮るでもなく
あなたは私だけを見つめていた
ひたむきと言うには暑苦しく
いじらしいと言うには小賢しい愛だったけれど
確かに受け取った襷を肩に掛け
次の希望へ託すまで
息を切らして汗まみれで、汚れてしまっても私は走ろう
背中合わせの温もりが忘れられなくて
父のような小言の嵐がまだ聞こえているけれど
あなたから旅立ち、雨降る小道で傘を譲る
同じ輝きはきっと宿らないけれど
この小さな一歩、荒い鼻息と共に踏み出した人生を
いつかきっと微笑んで聞いてくれるよね
(手放す勇気)
望まれ願われ、差し出され
数多の手に捏ねられて生まれたものがあった
人か、あるいは神か
美しい声、美しい姿
清らかな心、猛々しい力
物語のままに、描かれた舞台の上で踊る
やがて爆ぜる喝采が青褪めた月を覆い隠した
透明な涙は歓喜の為でなく
掌を傷付けたのは己が爪だと言えなくて
秘めた黒は裡に積もり、太陽なき夜を作った
果たしてあなたはどう在りたかったのか
夢の続きを教えてくれよ
水中では呼吸が出来ない
炎や宙に抱かれても生きられない
誰もが知る理をあなたはきっと切り捨てたのだろう
唄えない、戻れない、穏やかに紡ぐ唇
陽だまりの微笑み、しなやかな背も見慣れたけれど
私はまだ、あなたを知らない
あなたが笑うほど、私の瞳から溢れるんだ
花を慈しむ優しさが切なくて
陰から幸福を祈る愛が哀しくて
我儘だけれど、あなたをもっと知りたくて
いつか夢見た明日を教えて欲しい
あなたが海に沈む度に
あなたが空へ去る前に
あるいは、どうせ落ちてしまうなら
共に手を繋いで離さないでいようか
例え消え行く幻想でも、私はもう深く愛してしまった
報いるならば戦いを、二人きりの舞台の上で
私は照らし、あなたが踊る
あなたが輝き、私は唄う
こんな永遠なら共に行こう
一寸先が見えずとも、繋いだ熱がある限り
(光輝け、暗闇で)
美しい世界は酷く息がし辛くて
忙しく上下する胸を隠して
万雷の喝采の中で、またひとつ
私を構成する細胞が死んでいく
私も同じ色に染まれたのなら
きっと楽に生きれたのだろうけど
ごめんなさい
誰に告げるでもなく風に呑まれて
己の足に踏み潰される声
私が纏うに相応しくない色
溶け込めない、馴染めない
なり損ないのソースのように
濾されて塵箱行きの、大切だった何か
よく似た顔で笑いたかった
道化になれない液晶の仮面
見れば見るほど歪な綻び
せめて淘汰しなければならないと
私は毒を吐いたんだ
汚れた残骸に寄るものはなく
妥当な末路、けれどまだ終わらない
望まれる私にはなれなかった
幼い頃の夢を裏切って
罪を抱えて生きていく
酷く息苦しい世界のどこかで
無様に這って生きていくよ
西陽のカーテンを綺麗だと思う
知らぬ映し絵に物語を思い描く
きっと、それだけで良いのだ
私の人生など、誰の記憶に残らなくても
(酸素)
私の手が、足が、体が解けて浮上していく
あんなに苦しかったのに
逃げ出したくてたまらなかった筈なのに
あなたとの運命を誇らしく思いながら
私が解けて、あなたが散って
きっと今も躊躇うことなく、誰かの為に立ち上がる
友のような、そうでないような
全て剥がされたあなたの背をなぞる
ねえ、どうして私に呼ばれてしまったの
ちっぽけな灯火など、吹き消してしまえば良かったのに
そうすれば輝く星のまま、崩れることなどなかったのに
温かいけれど、優しいけれど
あなたはもうどこにもいない
私が目覚める頃、あなたはとっくに幻想の果て
願いを叶えることは出来たかな
あなたの望み、私は知っている
自分でも気付かない戸棚の隅に
隠されたままだった約束
望んで差し出した誓いがあっても
放り出した首が微笑んでも
一つだけ離すことの出来なかった宿命
あなたの証明、血を分けた王冠
私はそれを見つけてしまった
見つけてしまったのだから
別れ際、成就を願っても良いでしょう
噛み合わないあなたの幸福ぐらい、祈ってあげても
どうせ私に罰を与えるのは神でも悪魔でもなく
私でしかないのだから
ありがとう、私のあなた
さようなら、愛しき太陽
あなたへの愛を私は告げない
だから想うがまま駆けて行って
もう二度と会えない
もう一度私も立ち上がるから
警笛が鳴る
おはよう、一人きりの部屋で呟くことから始めよう
あなたが照らす世界に祝福を
(記憶の海)
硝子の星空に閉じ籠り、永遠を希う
徒労であると知りながら
明日など来なければ良いと、頭を抱えて叫んでいた
責め苛むような耳鳴りも
扉を叩く彫像と、隙間から駆け込む凍て付く風も
全て、全て、掻き消してしまいまくて
膨張する宙の片隅へ紛れて消えたくて
筆が折れるまで綴った荒削りの終末は
結局、柔い肌を傷付けるばかり
血の滲む掌を眺めて、幼い私は絶望を知った
雷霆が告げる
この胸の鼓動が続く限り、幾度の夜を越えても
そしていつか、物言わぬ骨に成り果てようと
一度芽生えた影は私の中で待ち続けるだろう
跡形も無く砕けてしまう終末
天と地が翻る酷寒の季節を
それでも、今は不思議と怖くないのだ
耳を澄まさずともあなたは鳴り響く
私に届くよう、奮い立つ一閃を放って
それは虚空を切り裂いて訪れた出逢い
私が初めて心から求めた永遠
あなたを離さない
例え底無しの闇へ連れて行くことになろうとも
重なる手は雪解けの朝
ただ一言交わすこともなく、互いの瞳に落ちていく
(ただ君だけ)