小音葉

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君がさよならを告げる頃
私は汗の匂いとシミばかり気にしていた
焼かれて転がる蝉を踏まないように歩いたあの日
夕焼けに滲む花畑が、嘘みたいに綺麗だったあの場所で
私が気にしていたのは君じゃなかった

塗りたくった化粧は溶けていないか
傷んだ鼻緒が今に千切れてしまわないか
立ち寄った喫茶店で忘れ物をしなかっただろうか
湿った髪の項垂れる気配がする
滴る汗が煩わしくて、纏わり付く裾に苛立って
洗った服は皺になるかな、面倒だな、なんて考えて
投げ出した現実を尻目に、無益な明日を憂う

呆れた顔で笑う君のこと、本当はどうでもよかった
初めから恋していなかった
最後まで愛せなかった
早く自由になりたくて、一人の私へ帰りたくて
なのに、どうして応えてしまったのだろう
それより次に買う服は、スカートじゃなくても良いかな
二人を割くように飛び上がる花火の何と虚しいこと

本当は嫌いだったの
嫌で嫌で、仕方が無かった
君のことじゃないけれど
いや、結局合っているのかも
嫌いだよ、大嫌い
誰よりもずっと

(真夏の記憶)

8/12/2025, 12:12:49 PM