小音葉

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弾けるように、溢れるほどに、零れる想いを歌っても
いつだって一人きりの舞台
生まれた所も帰る先も分からずにいる

雑踏に紛れる小魚たちは興味無し
色違いの餌を拾って肥え太り、ぶくぶくと笑っている
見飽きた図形を連打して
複製された餌で満たされる
とうに褪せた老耄を噛み砕き、薄くなれば吐き出して
初めから知らなかった振りをして通り過ぎる
歯間に挟まる腐肉と骨を、気持ち悪いと吐き捨てる
けれど責めることは出来ないな
彼らに義務はない、知恵を詰める器がない
虹の色の美しさに潤む目がない
落ち窪んだ空洞は何も映さず、死んでいるみたいだ

朽ちた鯨の骸が、やがて世界に溶けるように
それでも明日は訪れる
貪る傍観者へ想いを馳せて
恋焦がれる乙女の芝居で祈りを捧げて
絶えた味覚を模倣して笑い合う
まだ讃えられる素晴らしき海なのだと叫ぶ
なんて色鮮やかな世界
溺れてしまいそう、深く深く沈んでしまいそう
からからと鳴る頭へ詰めることを諦めて久しい

一つ弾ければ、雪崩れるままに
同じ顔して、同じ向きへ、同じ速さで泳いでいく
先頭は怖いから息継ぎの素振りで後退する
中央は騒がしいから息が苦しくて
末尾は振り落とされてしまいそうで恐ろしいな
独演劇は、私にはまだ寂しくて
地味な鱗が、歪な鰭が、無性に恥ずかしくて
塗り潰して媚び諂い、可愛い小魚になれたら良かった

この声を溶かして、流して、世界の隅に散りばめて
そうしてあなたまで至る酸素になりたかった
きっと今も海底に眠るあなたへ贈りたかった

たった一人の紳士、あるいは淑女へ
神でも悪魔でもなく、あなただけに捧げる
今宵だけのバラッドを、忘れられた夢の果てを

(泡になりたい)

8/5/2025, 12:53:14 PM