皆が指差して笑うの
どうして、どうして、私何も悪いことしてないのに
嘘吐き、ホラ吹き、ペテン師と
皆が私を囲んでそう呼ぶの
おかしな話ね、嘘吐きは一体どちらなのか
本当は虚実なんてどうでもいいくせに
切り刻まれた傷は今なお癒えず
瘡蓋のミルフィーユは分厚い仮面
もう二度と剥ぐことも叶わない
あなたのせいよ、忘れているでしょうけど
裁かれない罪は誰の爪も牙も汚さずに
すっかり整えられた綺麗な毛皮で闊歩する獣共
私はあなたを許さない
あなたのことを許さない
忘れていても、その虚飾に塗れた爪は赤黒く
グロテスクな光沢を纏う唇からは腐った肉の匂いがする
人の振りした獣共よ
改めようと振り払おうと、私はあなたを許さない
茹だるような夏の日に
あなたは一緒に泣いてくれたのに
二人して汗だくで、先に帰ってもよかったのに
そばに居て励ましてくれた
あなたはどこへ行ったの、ねえ
だから私は嘘吐きになった
大丈夫、私は一人で生きていける
誰も愛さず、誰も守らず、泣きも笑いもしないのです
怒りも喜びも、私を騙す嘘なのだから
私は愛を信じない、私は恋を求めない
晒されて枯れる想いなら、きっと初めから嘘なのです
(隠された真実)
夜空に咲く大輪の花
夢中になって声を弾ませるあなたの笑顔
綺麗だねと呟く唇、見つめる澄んだ瞳
それら全てが、滲んで揺らめいて沈殿していく
私の中で洗われて、思い出とやらに昇華されていく
傷付くことも言われたはずだった
背を押されて感じた奇妙な浮遊感も覚えているのに
あの後、どうなったんだっけ
ちりん、ちりん
拒むような軽やかな音色が私を誘う
浮世を吐き捨て蓋をして、離れてしまえと誘っている
りぃん、りぃんと続けて唄う
辛いことなどなかったと、沁み渡るような歌を届けて
引き摺る想いも、遠く反響する耳障りな喧騒も
遍く幻影など初めからなく
私の見た悪夢に過ぎなかった、それら全てを掻き回す
溶けた墨が押し流されて、水面はやがて透明になる
恐れも怯えも等しく塵芥
初めから、私には重たい荷物だったのだと知る
必要ないなら捨て置くのみ
軽くなった体ならば、いざ気楽に一人旅へ
引き留めないでくれ、一輪の花
お気に入りの花瓶に挿された、小さな太陽
彼女が太陽に焦がれたように
私もあなたに憧れていた
見つめて、見つめて、見つめ過ぎて
あなたのことが見えなくなった
拒まれた理解は癇癪を起こし、私を底へ突き落とした
遡る悪夢は甘味の如く、最後の一口まで蜜に塗れて
さようなら、偽りの希望
ありがとう、こんな私と共に居てくれて
これからはきっと一人きりで生きていくよ
(風鈴の音)
震える足で突っ張って振り回す刃は
幼い日に積み上げた砂の城より脆く崩れて
ステゴロで戦う度胸があったなら
今頃汚いアスファルトを舐めることもなかったのに
愚かだから心臓は尚も鼓動を刻み続ける
誰も私のことなど見ていないのに
世界全てから嘲笑われているようだ
そんな、月明かりも見えない夜に
入り組んだネオンの城、空飛ぶ船
機械仕掛けの太陽と踊る女神
独裁者ばかりが高笑い
顔色を伺う無機質の命
これは駄目だ、こんな夢では笑えない
剣と魔法の彩る冒険の旅
仲間と共に魔王の城へ
歓喜する光に吐き気を催した
精霊と魔物の違いが分からない私に居場所はない
駄目だ、駄目だ、こんな夢では酔えない
誰も彼もが美しい花咲く園
清廉潔白、極楽浄土
見透かすような笑顔が嫌い
赦すと告げる口元が嫌い
容易く信じ込む蕩けた瞳が大嫌い
汚れた私には不似合いの天国
こんな夢では駄目だと言うのに
平和なばかりの夢ならば、結局誰も招かれない
受取拒否されたしょげた封筒が寂しげに佇んでいる
波瀾万丈、天変地異、驚天動地
そんな幻想を誰もが見下ろし鑑賞したい
閉じ込めた虫の死に様を、卵が孵る前から待っている
外れた賭けは籠ごと捨ててしまえば良いのだから
刺々しい心が掻き毟る
もっともっとと囃し立てる
爪の間が汚れても満足出来ずに傷付けて
明日にはきっと後悔するのに
誰も見ないと分かっていても袖の長い服を選ぶんだ
いくつの城を蹴り壊しても罪人はまだ息をしている
ならば罰か、この人生は
酔えない夜に乾いた笑いをひとつまみ
(心だけ、逃避行)
打ちつけた尻を庇って立ち上がる
転んでないって顔をして
赤く腫れた心を扇いで冷ます
じくじくと染み出す感傷が痒くて
生まれた日のことを思い出すんだ
地図も薬も渡されず
世界へ放り出された無数の勇者
旅立ちを命じた王の顔すら忘れて
錆びた剣は塵芥に紛れて火の海へ
何物も守れず盾が泣いている
新たな亡者には目もくれず
成れの果てが蠢く月の夜に
怒る相手も分からずに
満たされた振りで欺いている
一体誰を討ち滅ぼせば良いのか
気づいた頃には凋落の後
冠を首からさげた骸骨はからからと嗤う
乾いた砂漠で溺れ死んだ
亡霊の波がつられて爆笑の渦
膿んだ心は搾り滓を吐いて瘡蓋になる
再び吊られる勇者に呪いという花を
怨嗟の産声に祝福を
粉になるまで立ち上がれと世界は唄う
(冒険)
涙は風で拭えなくて
絶えず通り抜ける唇も透明だから
せめて撫でようと伸ばした手は傷跡を焼いて逆立てる
ごめんなさい、誰よりも優しいあなた
もう二度とその手を握り返してあげられない
もうすぐ雨が降るのだから
どうか屋根のあるところまで帰ってしまいなさいな
できればきちんとご飯を食べて
あたたかくして眠って欲しいけれど
せめてその頭を濡らしてしまう前に
震える肩をどこかにぶつけてしまわないように
縺れる足があなたを地面に叩きつけることのないように
心も体も休めてしまいなさいな
どうか、どうか、愛したあなたに罰を与えないで
いつか繋いだあたたかな手はもう二度と触れられない
悲しいけれど風は流れ行くもの
離れた名残りの熱も遠からず消え去るもの
引き攣るのならまだ俯いていても良いけれど
痛みが止むまで覆っていても構わないけれど
だから私は幸あれと願うわ
優しいあなたに溢れるほどの幸が降り注ぐように
どうか、どうか、風が凪いでしまうまで
あなたの息が止まってしまうまで
雲に隠れる陽光へ弾く心
従う手に返る熱はなく
あなた、あなた、さようなら
愛した旋毛に最後の口付けを
(届いて…)