小音葉

Open App

震える足で突っ張って振り回す刃は
幼い日に積み上げた砂の城より脆く崩れて
ステゴロで戦う度胸があったなら
今頃汚いアスファルトを舐めることもなかったのに
愚かだから心臓は尚も鼓動を刻み続ける
誰も私のことなど見ていないのに
世界全てから嘲笑われているようだ
そんな、月明かりも見えない夜に

入り組んだネオンの城、空飛ぶ船
機械仕掛けの太陽と踊る女神
独裁者ばかりが高笑い
顔色を伺う無機質の命
これは駄目だ、こんな夢では笑えない

剣と魔法の彩る冒険の旅
仲間と共に魔王の城へ
歓喜する光に吐き気を催した
精霊と魔物の違いが分からない私に居場所はない
駄目だ、駄目だ、こんな夢では酔えない

誰も彼もが美しい花咲く園
清廉潔白、極楽浄土
見透かすような笑顔が嫌い
赦すと告げる口元が嫌い
容易く信じ込む蕩けた瞳が大嫌い
汚れた私には不似合いの天国
こんな夢では駄目だと言うのに

平和なばかりの夢ならば、結局誰も招かれない
受取拒否されたしょげた封筒が寂しげに佇んでいる
波瀾万丈、天変地異、驚天動地
そんな幻想を誰もが見下ろし鑑賞したい
閉じ込めた虫の死に様を、卵が孵る前から待っている
外れた賭けは籠ごと捨ててしまえば良いのだから

刺々しい心が掻き毟る
もっともっとと囃し立てる
爪の間が汚れても満足出来ずに傷付けて
明日にはきっと後悔するのに
誰も見ないと分かっていても袖の長い服を選ぶんだ
いくつの城を蹴り壊しても罪人はまだ息をしている
ならば罰か、この人生は
酔えない夜に乾いた笑いをひとつまみ

(心だけ、逃避行)

7/11/2025, 10:41:55 AM