小音葉

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涙は風で拭えなくて
絶えず通り抜ける唇も透明だから
せめて撫でようと伸ばした手は傷跡を焼いて逆立てる
ごめんなさい、誰よりも優しいあなた
もう二度とその手を握り返してあげられない

もうすぐ雨が降るのだから
どうか屋根のあるところまで帰ってしまいなさいな
できればきちんとご飯を食べて
あたたかくして眠って欲しいけれど
せめてその頭を濡らしてしまう前に
震える肩をどこかにぶつけてしまわないように
縺れる足があなたを地面に叩きつけることのないように
心も体も休めてしまいなさいな
どうか、どうか、愛したあなたに罰を与えないで

いつか繋いだあたたかな手はもう二度と触れられない
悲しいけれど風は流れ行くもの
離れた名残りの熱も遠からず消え去るもの
引き攣るのならまだ俯いていても良いけれど
痛みが止むまで覆っていても構わないけれど
だから私は幸あれと願うわ
優しいあなたに溢れるほどの幸が降り注ぐように
どうか、どうか、風が凪いでしまうまで
あなたの息が止まってしまうまで

雲に隠れる陽光へ弾く心
従う手に返る熱はなく
あなた、あなた、さようなら
愛した旋毛に最後の口付けを

(届いて…)

7/9/2025, 11:58:42 AM