小音葉

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3/31/2025, 11:33:41 AM

ああ、薄情者
千切れた糸を手繰り寄せ
結んで開いて繋ぎ合わせた絆なのに
勝手に芽吹き、出ずる日蕾む花となり
咲いた季節を知らせもしない、なんて
恩知らず
玉響の囀りがあまりに愛らしいから
願いを聞いてやったのに
重なる掌と薄紅の頬に祝福を
どこへでも、どこまででも行ってしまえ

見慣れた顔に、見慣れぬ猫背
浮かべた三日月、虚ろな瞳
宵を渡らず、鏡は満たず
やれやれ、振り子の真似事と思いきや
珍妙な客を連れている
下手な芝居にも飽いた頃、小指で払えば囂々、絶叫
永く在っても嫌いは嫌い
恥じて帰せよ、招かれざる者
わざわざ曲げる骨などなかろうに
浮き立つ足で颯の如く、去ってしまえ

微睡みの戸を叩く、まるで咆哮
見下ろす旋毛は蒲公英
付き合いの長い石畳が拗ねている
時を経ても尚、堅牢が過ぎる頑固者
根を下ろすには硬かろう
瞬く逢瀬は手牡丹のように
幼少の砌、書き殴った与太と忘れよ
この手は母に非ず、父に非ず
まして恋ふらく月でもなく
昼想夜夢に耽る酔狂と思え
羽ばたいたなら戸を閉じて、幸多からんことを祈るのみ
海も山も越えて行け、誰も知らぬ頂まで

縁を辿り訪れたなら
今が最後
自らの足跡をなぞること勿れ

(またね!)

3/30/2025, 11:15:05 AM

まだ夢に見る、遠い昔の英雄譚
黄金色の風に撫でられて
輝ける未来の為に戦ったあの頃
目指した世界がここにある
悔いも怒りも持たずに終わり
今度は当然のように愛されて
何者でもない、ただの私を持て余す

彼もまた、何者でもない一人として
花嵐に紛れ、どこかで生きていると良い
愛に膿んだ運命を投げ捨て
張り詰めた弦のような矜持など忘れて
凡百の花弁に埋もれていれば良い
どうか最後まで木漏れ日の端で隠れていて
それでも美しく香るのだろうが

きっと出会うべきではない
蕾を持たない、ただ落ちる日を待つ無色の棒切れ
この体は既に宿花を手放した
病める葼と笑われる、しがない花売り
かつて謳われた星、射抜かれ朽ちた成れの果て

西陽の合図に立ち上がれば、疾る光明と風が鳴る
久方振りの来訪を告げる鐘の音
慣れた台詞を弾く邂逅に、吐息が震えて
閉ざされた園は、今、地平の彼方まで透き通る
望まれた世界がここにある
遥か時を超えて初めて、絡めた小指の温もりよ

(春風とともに)

3/29/2025, 11:24:21 AM

約束された未来を捨てて
祈り続けた明日を裏切り
刃を携え、ここまで来た
過去に囚われた忌まわしい心
持たずにいられたら、正しく在れたのだろうが
落日の瞳を忘れられない
愚かな残滓に、どうか手向けの漣を与えて欲しい

燃えるような春だった
鮮烈に塗り潰す彩雲と暈が恐ろしかった
まるで空を掴んだような高揚
雲より軽く、鳥と並んで舞い遊ぶ自由
百花繚乱たる記憶の栞
いまや焦げた胸を刺し穿つ無彩色の毒針と化した
悲しみを摘んで、せめて回生を願えたら良かったのに

口元から溢れる天蓋花
導かれる極楽が無くとも、想うはあなた一人
遠ざかる慟哭に雨が降り注ぐ
せめて頬濡らす幼子が泣き止むように
零れた灰など忘れ、天弓を仰ぎ笑えるように
閉じた瞼に桜流し
青を洗う浄罪の路へ

(涙)

3/28/2025, 1:25:35 PM

夕闇を追い掛けるように歩く坂道
遠山を巡る鴉の声
小川と木々は囁き合って、行きずりの雲を見送る
カサカサと歌うビニール袋
海の牧草、森の宝石、大地のりんご
それと、丸くて甘いサプライズ
わずかに上向くあなたの口角を思い描きながら
弾む心の律動に任せて歩く

憂いた再会、夢見た永遠
例え名や姿さえ変わろうと、私はあなたを見つけ出す
悔いを抱え、目を瞑り、悟った素振りで眠る私を
あなたはきっと、あの頃からずっと見つめていた

妬む私を、猛る炎と讃えた
卑怯など振り翳す私を、勇壮なる雷霆と言祝いだ
救いようのない汚濁を、下らない運命を
剥がれた体で、微笑んで
蓋をして押さえ付けた泥濘のようなこの愛すらも
全てを見抜いて愛して、愛したまま失くしたあなたを
その熱い視線を私は恐れない
失わない為に、そう、大袈裟などではない
あなたが差し出すのなら、それ以上に私が満たそう
だから、少し駆け足で歩くのだ

踏切に合わせて揺れてみる
早く、早く、無意味に急かす拍節器
線路を越えればすぐそこに、私を待つ灯火がある
空の太陽が隠れても、小さな部屋を照らす光がある
耳障りな解錠にももう慣れた
帰りましたよ、Maahi Ve
小走りで飛び込んでくる、私だけの太陽よ

(小さな幸せ)

3/27/2025, 12:19:40 PM

それは幻の夜
燈る提灯と宵っ張りの蝶
石畳が奏でる酩酊の調べ
影になった者共が行き交う、この世ならざる花の宴
仮面を付けて、香を纏って、あなたは立派な紛い物
眠らぬ魚、木の葉の梟
あるいは、そう、虚妄の象徴、絢爛たる偽の皮
何でも良いさ、口を噤んで胸にお刻み
虚飾だけが繋ぐ命もあるということ

鏡の向こう、水溜りの裏、不帰の森
積み上げられた悪夢は形を成して
底無し沼に溢るる狂乱は、戯れにあなたを連れ去った
空いた胸が弾けるような
爛れた中心が痛むような
無垢な背に惑い、弄ばれて、気付けばつい掌など
柔い灯火に差し出してみたり
愚か者、頭まで溶かしたつもりは無かったのに

輪郭を辿る深い夜
軋む鍵盤を踏み付けて、奥へ誘う酣に
千鳥足のあなたは笑う
噂話でもするように、声を潜めて駒鳥は鳴く
浸る暗闇に気付かないで
信ずる心を飴玉に、舌で転がす獣には
目隠しの遊戯で奥へお進み
さあさあ、雷も雨も恐れずに

一興
なれど扉は閉じられた
気息奄奄の火を貪れば、あなたはもう狂い咲きの鳳蝶

(春爛漫)

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