小音葉

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それは幻の夜
燈る提灯と宵っ張りの蝶
石畳が奏でる酩酊の調べ
影になった者共が行き交う、この世ならざる花の宴
仮面を付けて、香を纏って、あなたは立派な紛い物
眠らぬ魚、木の葉の梟
あるいは、そう、虚妄の象徴、絢爛たる偽の皮
何でも良いさ、口を噤んで胸にお刻み
虚飾だけが繋ぐ命もあるということ

鏡の向こう、水溜りの裏、不帰の森
積み上げられた悪夢は形を成して
底無し沼に溢るる狂乱は、戯れにあなたを連れ去った
空いた胸が弾けるような
爛れた中心が痛むような
無垢な背に惑い、弄ばれて、気付けばつい掌など
柔い灯火に差し出してみたり
愚か者、頭まで溶かしたつもりは無かったのに

輪郭を辿る深い夜
軋む鍵盤を踏み付けて、奥へ誘う酣に
千鳥足のあなたは笑う
噂話でもするように、声を潜めて駒鳥は鳴く
浸る暗闇に気付かないで
信ずる心を飴玉に、舌で転がす獣には
目隠しの遊戯で奥へお進み
さあさあ、雷も雨も恐れずに

一興
なれど扉は閉じられた
気息奄奄の火を貪れば、あなたはもう狂い咲きの鳳蝶

(春爛漫)

3/27/2025, 12:19:40 PM