小音葉

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3/26/2025, 12:29:44 PM

星を満たす透明、底知れぬ神秘
あるいは、魂を陥れる腐敗の鎖
いずれも人々を導き、やがて還すもの
蟻が摩天楼を知り得ぬように
我等は星の航路と最果てを見通す眼など持たない

持たざる者は挙って空を見上げた
名も無き星々に標を求めた
天の縮図は人造の奇跡
罪であり、救いなのだろう
宙の旅を終えるまで、我等を定めるものは我等のみ
声無き使者に、姿無き像に、何物も委ねてはならぬ
持たざるが故に、我等には両の腕がある

かつて我等は産声を上げた
例え一人に望まれずとも、千紫万紅の竜となり
死を踏み越えて、いざ空を渡る船となる
いつか枯れた翼を捨てる頃、透明の飛沫に包まれたい
硝煙を飲み込む、大河の源へ

(七色)

3/25/2025, 11:59:45 AM

虚飾を脱ぎ捨てる
軽くなった肩で、風を切って歩く

恐怖が剥がれ落ちる
憎悪を、憧憬を、力を込めて踏み砕く
血の滴る足を引き摺り進む

光る私は裸になって
讃える声に応えて登る

悲哀は緩やかな弧を描き、狭間に紛れ消えていく
最後に残った愛を捥いでしまえば
円環へ至る無垢の子
願いはとうに失われ、紡ぐ御伽噺は影も無く
夢枕に立つ誰かの涙
どれだけ耳を澄ませても、煙る残響は春荒だけ

腐る花が嘆いている
抗う枝を欠いてもなお、滴る命と同じ色をしている
名も知らぬ英雄に光あれ
夜を越えて、私を忘れて

(記憶)

3/24/2025, 11:00:47 AM

甘美な毒を撒く悪の花
あれは間違いなく世界の敵なのだろう
鉢に囚われ愛でられることを忌み嫌った花は
けれど誰よりも囚われていた
慈雨を憎み、風に殴り掛かった猛き背は
幾星霜を越えてなおこの瞼に焼き付いて
蕩ける愛に偽りはなく、狂った秤に高笑い
恠恠奇奇をも引き連れた
世界の中の花ではなく、花こそが世界なのだと
砕かれ潰れた残骸へ、せめてお前の望む雨を降らそう

過ぎた炎は我が身をも燃やす
構わないさ
壊れた車輪と剥き出しの白
首が見つからないのだと、太陽が嘆く
吐き出す宝に価値はなく
差し出す愛に報いはない
あんな空虚が終わるなら
誓いも誇りも焼き尽くそう
地獄を呑み、骨になるまで歩いてやろう
閃光、滲む光に虹を見た

幾星霜、聞き手のいない神話を歌いながら
有り得ざる再会、ひとときの夢を
躍動する一矢となれる時を待ち侘びる

焦土の墓から、蕾が一つ
祝福無くともやがて咲く

(もう二度と)

3/23/2025, 11:28:05 AM

半開きのカーテンから覗き見る鈍色の空
じきに雨が降り出すだろう
君はまだ帰らない
並んだ傘が手持ち無沙汰に佇んでいる
割れたグラスは昨日の名残り
突き刺さった涙が抜けないまま、僕はまた待ちぼうけ

素直な言葉だけが喉に詰まって
余計な言葉は空気より軽い
容易く人を殺せる不可視の刃
傷付けるつもりなんてなかったんだ
薄暗い部屋で呟いても、もう遅くて
淀んだ心が降り止まない
君はまだ帰らない、もう帰らないかもしれない
考え出したら傷口がじくじくと痛んで
結局僕は、いつかの春先、君の笑顔まで帰ってくる

やがて雨は降り出した
窓を打つ音、片足に靴を引っ掛けた僕
勢いのあまり傘は犠牲になったけれど
目を皿にした君
右腕に引っ掛けたストールは水を吸って
四角い箱を健気に守っていた
中身は間違いなく、そう、甘い甘いロールケーキ
今回だけなんて言いながらフォークを差し出す
君の笑顔を迎えに行こう
重なる言葉、ごめんなさいから今日が始まる

(雲り)

3/22/2025, 11:46:39 AM

色褪せた視界に青が横切る
手放した故郷を、あるいは揺るがぬ背を思い出す
迷路のような路地の裏、細道の先
忘れ去られた踊り場で
馬鹿みたいにくるくる回った
まるで不出来な玩具
埃を被って見向きもされない
子どものような夢を語った無秩序の群れ

あと一歩、届かなかった
壊れたビデオのように記憶が回る
繰り返し辿る、取り零した栄光の欠片

沸騰した血が溢れ出す
埋まらない隙間を埋めようと足掻く雑音
少し静かにしてくれないか
よく聞こえないんだ、波の音が、彼等の声が
今にも青が墜落してきそうだ
ああ、ずっと側にいてくれたのだな
ありったけの愛を込め、小さな手を振り払った

掴めない手を伸ばす
歩けない足で踏み出す
残すものはない
いざ
天使の待つ壇上に背を向け、地獄の門を潜ろうか

(bye bye...)

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