小音葉

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3/20/2025, 11:01:15 AM

満月を望み、そして恐れた
誰にも見せまいと閉じ籠った暗い夜に
雲間を切り裂いたエンジェルラダー
朝を連れてきたお前は、ただ微笑んで駆けていく
張り裂けるほど叫んでも、遠い背は止まらない
この声が聞こえないのか
聞こえるはずもないか
焦がれた首はこの腕の中、転がっていたのだから

見ないでくれ、微笑まないで
私を信じないでほしい
明けし向日葵はひたむきに、そして強く揺らがず
扉をこじ開けこの手を引いた
思い知った、それはもう焦げるほど焼かれた
花は太陽だけでなく月をも見つめるのだと

夜を暴かれるのが恐ろしかった
月が欠けるのを認めたくなかった
この恥を受け入れ、私は立つ

おはよう、調子はどうか
言葉を交わせば、追い抜く橙のウィンクが見えた
あの日のように微笑んだお前へ
宣戦布告を贈ろうか
これは新たな戦い、そして新たな私の第一歩
二人きり火花を散らせば、やがて空は晴れるだろう
指先に灯る熱を分け合うのも悪くない
空を映す白銀に、指を通して問い掛けてみる

(手を繋いで)

3/19/2025, 11:06:31 AM

肌を刺す砂塵
負けず劣らず星屑は煌めく
拡散する光が私を惑わせる
正しさ、過ち、救いと咎
語る口が多過ぎて、何も聞き取れなくて

歪な器から溢れていく
穴だらけで鉄臭い
汚れた手を潜り抜けて、星の欠片が針となる
罪を継いだ子どもは、命辛々
茫漠たる旅路を往く
求めたのはひとつだけ
背負う覚悟は決めていた

愛を与えられなかった者が
愛を与えることが出来るだろうか
赦されなくても、赦すことは出来るか
応える声はいずれ内から溢れるだろう

夜が更けて
ただ地平線の彼方に、在りし日の幻影を見た

(どこ?)

3/18/2025, 12:27:57 PM

罅割れた指先で頬の輪郭を辿る
淡く染まる肌の温もりを私は知らない

私は少女の夢の形
枯れることのない花、けれど永遠などなく
どうせ彼女は去っていく
波打つ髪のリャナンシー
振り返らない背をただ見送る
声帯のない喉では名を呼べない
陶器の手足では歩けない
虚ろなこの目では、追い掛けられない

いずれ褪せる夢ならば、踏み潰してしまいたかった
愚かな乙女、あなたの願いは叶わない
難破船の行方なら誰より分かっているでしょうに
けれど、ああ、そう、そうだった
私、恋するあなたに、恋をしていた
セントエルモの火よ、どうか彼女を導いてほしい
彼方の楽園へ
朽ちた人形の届かぬ先へ

(大好き)

3/17/2025, 10:52:14 AM

白亜の城、銀の園
遊ぶ蝶すら命ではなく、糸で編まれた偽の愛
水晶が光を拡散する庭の奥には
あらゆる記憶を収めた大図書館があるという
忘れ去られて時を止めた、清浄なる叡智の墓にて

門はとうに開け放たれ
待ち侘びた来訪を祝い、呪う
頼りない左足に、忍んで忍んで縄を掛ける

さあさあ、ようこそお越し下さいました
鍵は既にその手に握られておりましょう
どうかお足元に気をつけて
ランタンを手に、奥へ、奥へお進み下されば
肚の裡にてございます

彼はナイフを隠していた
影を切り裂く、運命を拓く
ただ足音は遠ざかり、絡まる足が濡れていく
虚飾は崩れ朽ちて、古の図書館は名もなき廃墟
黒く冷たい海の底に沈まなければならない
ああ、口惜しい、口惜しい
見下ろすお前さえいなければ

(叶わぬ夢)

3/16/2025, 11:33:21 AM

生垣を縫う童の声
母を呼んで、風より疾く駆けていく
競うように鈴が鳴る
薔薇色の頬が招いた春は過ぎ去って
ここにはもう誰もいない

蜂蜜色に溶けた瞳
紡がれる愛は甘く優しく
私なんかに首っ丈、変わった人ね
白詰草の野原を並んで歩いた
幻影は今も囁くけれど

透明の器に水を注ぐ
木漏れ日が照らす小さな庵で
摘んだ命を活けながら
送り出した季節をまた迎えられた
だから、まだ待つ
通り過ぎる羽音に目を細め
誰も眠らない石へ語ろう
花冠を戴く、私だけの王の譚を

(花の香りと共に)

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