「何もいらない」
⚠️ヤンデレ、監禁表現アリ。
苦手な方は自衛をお願い致します。
僕は恵まれていた。
両親は大企業の社長だった。
小さい頃から欲しいものは全て手に入った。
おもちゃ、ゲーム、友達。金で手に入った。
運動も、勉強もできた。顔も良かった。
自分がすることなすこと、欲しいものは全て手に入る。そう思って生きてきた。
だけど、唯一手に入らないものがあった。
それが、君だった。
最初は、一目惚れ。長い髪の毛が風に靡いて、静かに笑う君に周りで騒ぐ女なんて目に入らないほど魅入った。
少し強引に誘えば、コロッと落ちるかなって思ったけど、君は全然落ちなかった。
面白いって思ったし、絶対手に入れたいと思った。
君がいたら、何もいらない。
そう思った。
何をしていても、君のことを考えてしまう。
君の仕草も、匂いも、甘い声も。全てが僕を狂わせていく。あぁ、大好きだ。
しかし美しい君には、たくさんの虫が寄ってくる。
光に魅入られた虫が。ほんとうに気持ちが悪い。
君に触っていいのも、君の姿を見て良いのも全て僕だけ。君に見合う男なんて、僕以外いないのだから。
このまま僕のモノになれば良い。
いくらでも、待つつもりだった。けど、気が変わった。
君は最近虫と付き合い始めたらしい。幸せそうに笑う君の目には僕が写っていないみたいだ。
許せない。君は僕のモノだ。
「そうだろう?」
目の前で泣きじゃくる君に話しかける。
彼女は目を腫らしながら、僕を睨んだ。
あぁ、可愛い。大好きだ。
「君がいれば、何もいらない。」
甘い香りのする彼女をそっと抱きしめた。
君は僕の大切なヒト。やっと手に入った可愛い彼女。
「もっと知りたい」
⚠️ヤンデレ表情有り。苦手な方は自衛をお願いします。
好きな人の事は無性に知りたくなってしまうものだ。好みの食べ物、髪型、体型、服装。
もっと知りたい。もっと、もっと。
君の全てが知りたい。
薄暗い部屋で呟く僕の姿を君はきっと想像もしないだろう。
『ねぇ、今日一緒に帰んない?』
ある日の放課後君に言う。
「え?」
目を見開く君は、僕がこんなことを言うなんて想像もしてなかったみたいだ。
『いや、やらなきゃいけない書類があってさ。君、学級委員でしょ?手伝ってよ。』
断る隙を与えないように、淡々といった。
「いや、でも。」
戸惑ったようにきょろきょろと視線を動かす彼女。あぁ、愛おしくて堪らない。溢れ出してくるおもいをそっと抱きしめる。
『お礼に君の好きなスイーツでも食べよ。駅前に新しいお店が出来たんだよ。』
そう言うとぱっと、彼女は目を輝かせた。
君が甘党だって事ぐらい僕は知ってる。そして人の頼みを断れないってことも。
いいよ、行ってきなって。ほら、折角さ...
彼女の友達の声だろうか。本当に邪魔だ。彼女に話しかけるのも彼女の顔を見るのも僕一人で充分だと言うのに。
でも、ここまで計画通りだ。
やがて納得したように此方に歩いてくる。
「じゃあ、一緒に帰ろ。」
『ありがとう。』
暫く歩いた所で彼女が足を止めた。
「ねぇ、何処までいくの?此処って、」
『んー?』
ここはさ、僕の家なんだよね。
「書類は?」
『なに、それ?』
ここで初めて恐怖を抱いたのか走り出す彼女。
でも、
これも計画通り。
『ここさー、行き止まりなんだ。君が通ってきた道結構入り組んでたでしょ?この時間帯は人通りも少ない。』
良いね、僕がこう言った時君はそんな表情をするんだ。もっと、もっと知りたい。
『君のこともっと知りたいな。これから2人でお互いの事沢山知っていこうね。』
ポロポロと泣き出す彼女をそっと抱きしめる。
これからの生活が楽しみで嬉し泣きしちゃったのか。
可愛い可愛い小鳥はもう僕の腕の中。1度堕ちてしまえば正気を取り戻すのは難しい。
『もっと、知りたい。』
「特別な夜」
こんな特別な夜には、2人で散歩をしよう。
ロマンチックな星空の淡い光を頼よりに、暗闇の道を進んでいく。人なんて1人もいなくて、君が吐く息の音だけが僕の鼓膜をくすぐる。
「ねぇ、綴。私は大人になったらどーなるのかな?」
どこか寂しげな声で言う君。
そんなの、分かんないよ。と僕は返す。
将来どうなるかなんて誰にも分かんないさ。
「でも、不安じゃ無い?暗闇を歩いてるみたい」
そうだね。でもさ、君には僕が居るから。
僕たちはずーっと一緒だ。毎日を一緒に過ごす。片時だって離れることはしない。
「ありがとう。」
優しい音色。明るくて、でもどこか儚げてそんな君の声が僕は大好きだ。
「綴、でもね。私もう生きてるのに疲れたんだ。」
海を目の前にした時、君はそっと言った。
耳を澄まさなければ、消えてしまいそうな声で。
あの時ずっと一緒にいるって言ったじゃん!今は、今はまだ子供だけど、大きくなったら結婚するんでしょ?
「まだ覚えてたの。もう3年前の話なのに。」
僕たちを必要としてくれる所はきっとこの世界の何処かにあるよ!
「きっと、きっと?そんな物にもう縋れないよ。ごめんね。綴。」
僕も死ぬ。
驚いたように目を見開く君。月明かりに照らされた横顔はとても綺麗だった。
ずっと、一緒だって言ったでしょ?
「うん、」
自然と涙がこぼれ出してくる。あぁ、なんて綺麗な日だ。海へ一歩踏み出す。波が僕らを飲み込む。
あぁ、特別な夜だ。きっと僕の人生の中で1番。
愛してる。
「君と一緒に」
君と一緒ならなんでもできるさ!
これが彼の口癖だった。
何をしていても、何処にいても。私最優先の彼。
私がやりたいと言ったら、なんでも叶えてくれる。
そんな私無しでは生きていけないような彼が大好きだった。
「ねぇ、私に振り回されてばっかりじゃ駄目だよ。」
ある日そう言ってみた。
何を言われたのか分からないような顔でこてん、っと首を傾げる彼。
「だから、私の我儘ばっか聞いてちゃ駄目だよって。たまには自分のやりたいこともやらなきゃ!」
あぁ、と納得したような顔をする。
「で、やりたい事とかないの?」
私がそう訊くと、一つだけと申し訳無さそうな顔をする彼に、少し苛立つ。
いつも、いつも、私最優先で自分のことを大切に考えない彼に少し呆れを感じていたのだ。
「何でも叶えてあげるから言ってみて?」
本当に?と聞き返す彼にうんと答える。
じゃあ、一つだけ
「僕と死んでくれない?」
え?
「実は僕余命宣告受けてるんだ。だから、生きている間だけでも君に尽くそうと思って。でも、君がなんでも叶えてくれるっていうから、それなら君と死にたいんだ。」
つらつらと並べられる言葉が頭に入ってこない。
余命宣告?いつから。なんで言ってくれなかったの?
次々と浮かんでくる疑問を吐き出そうとしても、重々しい雰囲気がそれを拒む。
「だから、僕と心中して下さい。」
しんちゅう。心中。
自然と涙が溢れた。死ぬのが怖いわけでも、彼にそう言われたのが嫌だったわけでもない。
でも、ただ自然に涙がこぼれ落ちた。
「やっぱ、やだよね。ごめんね?」
「いいよ、」
えっ?と聞き返す彼にもう一度。
「心中しよ?」
夜の街。星なんて全然見えなくて、ロマンチックな雰囲気なんて微塵もない夜空。
「君と一緒なら。」
何でもできるさ!
そんな彼の言葉を最後に遠のく意識。
脳が酸素を求めて暴れるが、繋がった手がそれを許さない。
二人、堕ちていく。
「手を繋いで」
横にいる彼女をそっと見つめる。
僕よりもちょっと幼くて、まだ喋ることも上手にできない小さな女の子。
彼女の手は僕の方に伸びていて、ぎゅっと手を握っている。お風呂に入る時だって、ご飯を食べる時だって片時として、手を離したことは無い。
今までも、これからも。この手が離れることはないだろう。
「ねぇ、そろそろご飯食べよう?」
「うっ…ん!」
だいぶ発音は出来るようになったようだ。
出会った頃に比べれば、上達はしているだろう。
「今日はね、パンだよ!」
「……ってっ、たぁ!」
ニコニコと笑う君。嬉しそうで良かったと出された食事に口を付ける。
もぐもぐと美味しそうに食べる、彼女を尻目に僕は1人考える。此処からどう脱出しようか。
連れてこられたのは2年前。
君はまだ赤ちゃんだったからきっと覚えてないだろう
けど。
起きて、食べて、寝る。
与えられた物で暇を潰す。
そんな、生活にも懲り懲りしていた頃だった。
壁に貼られた紙を見て唖然とする。
生き残りたくば、どちらかを殺せ。
そう書かれた文字とナイフがあった。
殺せ。殺せ?ころせ?コロセ。
横を見る。文字もまともに読めない彼女には、どんなに恐ろしいことが書かれているなんて知る由もないだろう。
巫山戯んな。年端もいかない子を閉じ込めて、挙句の果てにはコロセって。
「いい加減にしろよ!!」
怒りに任せて壁を蹴る。ドンッと音がして、足がジンジンと痛む。
「アッ…どっぅし…て?」
「あっ、ごめんね。君を怒った訳じゃないんだ。」
怖がらせてしまった。頭を優しく撫でる。
どうするかなんてもう決めている。
そっと手を離す。
彼女の大きな目が見開く。
「心ではずっと手を繋いでるからね。どうか、僕のことを忘れて、君として生きて。」
きっと僕は不細工な顔をしているだろう。
グサッと自分の首にナイフを突きつける。
頸動脈を切れば1発だろう。
「ぁっ、!あっあー、ならっ泣」
意識が遠のく。もう痛みも無くなってきた。もうそろそろ死ぬだろう。
カチャっとドアが開く音がした。
君の泣き声も遠のいていく。
大好きだよ。
君に届くことの無い声は喉の中で消えていった。