たれがれに染まる街を見つめて、もう帰れないあの頃を恋しく思う。陽が沈むまで手を繋いでいたあの子は今、深い海の底で眠っているって誰かが言っていた。僕は相変わらずここで生きているけど、息苦しくて堪らないや。助けてとか誰にも届かない嘆きは、ぬるい缶コーヒーで安直に流し込む。僕は、きっと明日も同じように過ごすんだろうなあ。涙が零れてくるけど、どうしてか温度はない。それどころかとても冷たい。ひょっとしたらさっき流し込んだ缶コーヒーの方がぬくいかもしれない。あーあ、ちゃんとした「人」で居たかった。きっと叶わないことだろうけど、今夜もしも星が流れたら、願ってみようかな。
見せかけの友情に振り回されて、青春のすべてを棒に振った俺に、青き日の思い出なんてあるわけないよ。
自由がほしい。息ができる場所へ逃げたい。もう誰にも示唆されたくない。構わないでほしい。興味のない言葉を興味のあるふりしてヘラヘラと媚びへつらうことは疲れた。したくない。もうしたくない。ほんとごめん、実は最初から君のことは好きじゃなかった。もう僕を見つめないで。傷つけ合う前に、さよならをしよう。
手を取り合ってとかさ、君が言ったのに俺が君の手を掴んだら、簡単に離したよね。俺は知ってるよ。君が嘘をついていることを知ってるんだ。ひとりで旅行に行くって言ってたけど、あれ嘘でしょ。べつに責めるつもりなんてないよ、俺が淡白でつまんない男だから他に刺激を求めたっていうのもわかるし。とりあえずさ、もういいよ。無理させてごめん。もう俺なんかに手を差し伸べなくていいよ。俺も君の手を取ったりしないから。眼前若しくは君の上に乗っているトモダチと手を取り合ってる方が合ってるんじゃないかな。あー、泣いても意味ないよ。そういうの俺には通用しないって前に言ったよね。そもそもトモダチに触れた手で俺に触れないでほしいな。気持ち悪いんだ。君の生ぬるい体温も、ハリボテの笑顔も、吐き気がするんだよ。もう十分だよ。終わろう。他人に戻ろう。これはお願いだよ。最後のお願い。俺と他人になってくれ。お互いを知らなかったころのフラットな状態に戻るだけで、なにも悲しいことなんてないよ。そうすればこれ以上君のことを嫌いにならなくて済むと思うから。ぜんぶ間違いだったと思って忘れ合おう。俺は好きだったよ、本当に。君が、君だけが、いちばんだった。バイバイ。
優越感に浸っていたはずなのにあるときから劣等感に変わっていた。僕がすべてだめにした。「生きるが下手だからこうなるんだよ」と吐き捨てて出て行ったあの子の声も顔も今じゃよく思い出すことができない。やけに消毒液剤の匂いが漂う部屋で、窓の向こうに広がる鈍色の空をぼんやり眺めている。あの人の葬式を思い出す。火葬のとき、煙突から吐き出された煙の色によく似ているから鈍色を眺めていると落ち着くんだ。冬の寒い曇りの日が延々に続けばいいのにと思いながら蒸し暑い季節を淡々と意味もなく生きている。