「勝ち負けなんてどーでもいいんだよ、お前さえいれば、俺は」
今し方放たれたこの文言には、はたして友達以上の温度はあるのだろうかと無意味で孤独な論争を頭の中で繰り広げている。
「なに黙ってんだよ。つーかなんだよ、その顔」
今の僕はたぶんものすごくアホっぽい顔をしているんだろう。なんとなくわかる。水たまりに反射した自分の顔を見たくなくて、傘の先で水面を揺らした。
「なあ、お前は、ちげーの? 俺とおんなじ気持ちじゃねーの?」
期待ばかりさせるこのバカのせいで、惨めったらしい「負け犬」からいつまでも卒業できない。
そういえば生まれてから今まで勝ちを味わったことがない。そもそも勝ち負けにこだわったことすらなかった。けどまあ僕にも密かな欲望はある。水面下でゆらゆらとひっそり燃えている静かな灯火が、条件が満たされ劫火となるとき、このバカは僕に同じ言葉を向けれるだろうか。万一、許しくれだなんて言ってこようものならば即座にすべて焼き尽くしてしまうかもしれない。いや、否応なしにすべてを焼き尽くす。いっそなかったことにすればいい、そんな諦めみたいな仄暗い希望に生かされている。
「今日が大雨で命拾いしたね」
「は? どーゆ意味? 試合してたら、負けてたっつーのかよ。あー、わかったわ、お前ガチで勝ちに来たけど、今日ダメな日だったから、そんなこと言ってんじゃん? あたりっしょ? アイスおごれよ、なー!」
「お前が馬鹿なおかげで僕の方が命拾いした。ありがとう」
「さっきからなにマジで。ほんとにわかんねー。え? さっきの雷で頭イッた?」
「めんどくさいから、もうそれでいいよ」
「だる、冷めるわぁ」
雨は上がっても虹はかからない。このまま夜になるから。なんだか僕の人生みたい。
5/31/2025, 10:55:02 AM