アクリル

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12/11/2024, 4:29:02 PM

何でもないフリ

気の迷いだったよ
予感のようなものだったよ
きっといなくなりたくなるだろうなあだなんて。

お互い、踵を返し切れないこと
察し合っていたよ
後ろ髪があってよかったね、引かれるものがあってよかったね
惹かれるものを持っててよかったね
お互い素敵な人でよかったね

沢山の対話があったね
大事な言葉を幾つも貰ったよ
棺桶にも入れたいプレゼントだよ

あなたは心の専門家なんだったね
いくらでも解ろうとしていたね
豊富な知識を駆使して
機微を両手で掬うあなたの眼差しと
慎重に受け取る声が大切だったよ

包まれる勇気がなかったの
変化を待つあなたのあたたかさと余裕に
申し訳なくなってしまったの
もう少し時間が必要だった

ある日あなたは泣き出してしまった
境界が溶けたせいで
私が深層に詰めて隠していた
タールのような恐れが 
あなたを傷つけてしまった

今度こそ
あなたの差し出した慈愛に対峙したい
それを今しようとしてるよ

もう隠さない、素振りなんて、あなたに言われた通り
全部出してしまおう
キャラクターもレッテルも
持ち続けるだけあなたが苦しくなる。
余裕を演出できるほど私は強くない。

きっと、そんな弱いくらいが本当は強いと
あなたは真っ直ぐに言うだろうから。

逃げる為に閉じて
鍵までかけたドアを開けた。

「ただいま」

優しくて聡明なあなたは怒らない。
全部伝わってるよ、と綺麗な目で語る。

「うん、おかえり」
「もう守るために隠さなくていいからね」

12/11/2024, 8:26:54 AM

仲間


アレルギーのようなものだった
行き交う二足歩行の有象無象が
人間かどうかも怪しかった
けれど憧れていた
憎らしい考えだとは思っていた
どうしようもなかった
誰よりも憧れていたから。

「お前のことなんか誰も相手にしてないよ」
「誰もお前のことなんか助けちゃくれない」
「人を頼るな、全部自分でやるんだよ」

当然のように思える価値観と言葉こそ
見えない重荷と足枷になるなんて
教わっていない
背負う、とはこういうことか、なんて
大人ぶって納得したあの日から
ぼんやりと喜んだり、絶望したりしながら
歩いてきたのだ

表情筋は引き攣って、もう一歩も前に出ない
いつの間にか肩まで外れそうになって
愚かな脳はやっと気付く
情けない独り言

「もういいかなぁ?」

返事なんて無いのがこの世界だ
地球なんてそんなもの
自分で決めるんだよね
知ってるよ、それは教わったから

名前も顔も知らない奴らが
楽しげにしているのを見て
無理解だけが湧き上がっていた
捉え方が全てらしい
それも知ってるよ

私が、私のまま意思を発する事が
怖くてたまらない
そこから構築される信頼とやらが怖い
出会いも別れも、相性が云々にも怯えている
そのままでは始まらない
それも知っている

怖いから、散々怖がった
怖いまま、半べそのまま
私が、私のまま発しようと思った
知らない人と挨拶する親の後ろへ
必死に隠れる幼児のように

「はじめまして」

11/21/2024, 2:45:22 PM

どうすればいいの?


鐘の音が苦痛の始まりを告げている。
硬い椅子に座って、壇上でふんぞり返る大人を睨みつける。

正直者は馬鹿を見るらしい。

周りのご期待に添えば、それでいいらしい。
情報は生のまま使えばいい。
だから、つべこべ考えなくていいらしい。
とにかく決まったマスの中に、決まったことを黙って書き込めばいいらしい。
正誤は必ず相手が決めて、お前は黙っていればいいらしい。

理屈は本音を超えられない。

いくら説かれても困るだけだ。
諭すだけの無理解など
何の役にも立たない。

自分の頭は何のために付いている?
お前も、私も。
導く暇があったら、一度練り直せばいいものを。
 
ふいに苦しくなった。
私はどうして、こんなところで必死に息をしているんだろう。
私は一体、此処へ何をしに来ているんだろう。
私は何故、こんな人たちに囲まれているんだろう。

鐘が鳴って苦行の終わりが知らされる。

体が一切傷つかない拷問とは、自我の形を他者の力で変えることだ。

守るしかないのだ。
しかし方法は渦中にいると見えない。
枠に首を絞められ、疑問を踏み潰され、他人好みの形に削られる。
それに違和感さえ持てなくなっていく。

けれど気づいたら 
もう二度と戻れない。

たくさんの戸惑いと不安と
目を逸らしてきたもの。
いざ取り戻したら放り出されそうな恐怖。

人間は他人の彫刻材料ではない。
偉そうなコイツも私も、この画面を見ているあなたも。

だから迷いを責めないで
ひとつひとつ息をしていればいいから
そこに居るだけでいいのだから

どうか在り方を譲らないで
我儘なくらい自分でいてね。

11/20/2024, 7:45:58 AM

キャンドル


見栄と過去を殺して残った臆病な本質が
抜け出せない闇の中で、確かに生きていた

手には小さな灯りがひとつ。
ここを通らなければならない、と悟った。

照らしたところで醜い影が揺れるだけ
消したらきっと怯えて、そこから一歩も動けない

アナウンスのような何かが要求をぶつける。

「自己紹介をしてください」

自己とはなんだっただろうか
名前と、それから、好きなあれこれ

抜け殻の情報を欲しがるのは何故?

物心ついた時から欠けている
人間味と呼ばれるらしい形無き何か
通常備えられているであろうはずの
重大な温度が見つからない。

客観視など不可能だから、私は呟く。

「できません」

指先よりも小さな灯りに照らされた
私に似た影が口を開く。

「嘘つき」
「こんなにどうしようもない場所へ迷い込むほど」
「生きることに」
「執着してきたくせに」

私とはなんだろうか
私の命はどこにあるのか
どうして体があるのか。

ただ動けるようになった内臓入れ、命ケース、脳を収納するポーチ、器用な2本のアームがついた生物...

蹲った影が言った

「いつまでも心身を嘲笑してないで」
「気づいてね」
「誰もジャッジしないから」

空虚に慣れた脳は安心した

私とは私の本心だ。
レッテルと他人の願望で作られた人形ではない。

「ごめんね」

「いいよ、じゃあね」

疎かにしてきた陰は消えていった。
私は、とうの昔から私であったことを思い出した。


目が覚めた。
明るい部屋の中で私は
影が内包されたことを受け入れた。

内側で影が言う

「心を吹けば消えるようなものだと思わないでね」

11/7/2024, 7:14:29 PM

あなたとわたし


理屈を通り越した涙が止まらない。
ずれた布団カバーを握りしめて
ただこの波が過ぎ去るのを待っている。


泣いても仕方がないことくらいわかっていた
嫌になる程繊細な人間であることに
目を逸らしながら、気づいていた

やけに辛いものを食べ続ける体を
どうしても己と認識できない。
薄れる自認はきっと脳のせいだ

私が私でいようとすると生まれる不都合に
耐えられないわけではないと
思い込もうと必死になる
誰よりも自分でいたいくせに。

何者であるかを自覚していたのに
言葉が追いつかなかったが故に
散々苦しんだあなたを
迎えに行こうと思った。

つづきをきかなきゃ
聞こえなかったから

何か大切なことを聞き逃している
何か重大な見落としがある
きっとそれが、気づいてしまえば
愕然とするような事実であったとしても
見つけなければならない

社会的視線の檻で終わろうとするあなたは
わたしにしか救えない

何にも期待しないような顔で
救って欲しくてたまらないあなたが
疑い深い目で差し出した不恰好な何か

よく見るとそれは
ぼてっとした心のかたまりで
何か言いたげにしている

大人ぶることで身を守る私には
とうてい聞き取れないほど弱々しく
小さすぎる声で
本音を放とうとしているように見える

妥協なく私であらせて欲しい
どうか私を生きさせて欲しい

覆い隠せない願いだ
わがままなんて言わせない

なんてね、で願いを掃き捨てる習慣さえ
檻の外へ蹴り出してしまえばいい

あなたはちっとも救われない顔のままだけれど
わたしは檻の外で待つよ

もし出られたら、わたしと
冗談のつもりでハグをしよう。

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